モブでも推し(ラスボス)を救いたい!

兎騎かなで

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21ぶっちゃけ話

「さて、それじゃ改めて、自己紹介からはじめようか。俺はアルノート・レーヴェ。公爵家の次男坊で、現在は聖騎士を勤めている。今は休暇中だけどな」

 食事を終えたアルノートは、話をしながら聖教会の紋章が彫られた剣の柄を指差した。ゲームで見た覚えのある、太陽をかっこよくデフォルメしたような紋章だ。

(うわ、すごい。本物は重量感があるっていうか、映える剣だよなあ)

「私はエステオ・アークトゥルス。この子は」

 剣に見惚れているうちに、エステオがトゥールの分まで自己紹介しようとしている。慌てて口を挟んだ。

「トゥール・プレアです」
「プレア伯爵家の子どもであってるよな?」

 頷きを返すと、アルノートは真剣な表情で腕を組む。

「で、なんだってプレア伯爵家のご子息が、こんなところまで旅をしているんだ? 大々的に捜索届が出されていたぞ」
「父に見つかって、連れ戻されるわけにはいかないんです」

 アルノートは怪訝そうに眉をしかめる。普通は親に保護されたほうがいいだろうけど、うちが特殊な状況なんだとわかってもらわなくちゃいけない。

 声のトーンを落として、真剣な顔で言い切った。

「もしも家に連れ戻されたらまた閉じ込められて、死ぬような苦痛を与えられるから」

 エステオはピクリと反応し、アルノートは顔つきを険しくした。

「どういうことだ」

 話すのをちょっとためらった。この話をしたら、エステオはトゥールのことをどう思うだろうか……

 すでになんとなく察せられているだろうけれど、楽しい話でもないし、詳しい説明は避けていた。

 憐れまれたら反応に困るけど、ここまできて話さないわけにはいかない。

 クールな表情ながら、わずかに緊迫感が漂うエステオから視線を逸らし、アルノートを見据えた。

「プレア伯爵……父は、俺の治癒能力を伸ばすために、何度も鞭で打って怪我をさせ、治癒を使うよう強要しました」

 軟禁されて逃げ場がなかったこと、父の暴走を止めてくれる母が亡くなっていること……課題をこなせなかったり反抗したりすると、ますます鞭で打たれて、毎日血まみれになっていたことを話した。

 エステオは衝撃を受けたのか、珍しく眉を歪めていて、悲痛そうな表情だ。アルノートはテーブルを拳で打ち鳴らして怒った。

「なんってことだ……! プレア伯爵が、実の子にそんな仕打ちをしたなんて……信じたくないが、本当のことなんだな?」
「本当です。身体の傷はすべて癒したので、目に見える証拠はなにもありませんが」

 帰りたくないからついた嘘だと思われては、たまったものじゃない。でも証明できるものはなにもない……

 アルノートは正義感に溢れる人だけど、一方的な話を鵜呑みにしたりもしない。どう言えば信じてもらえるだろう。

 焦っていると、考え込んでいたエステオが口を開いた。

「……トゥールの治癒能力は、常識では測れないほどに洗練されている。出会った当初、私は重症を負っていたが、彼の治癒で完全に傷が塞がった」
「つまり、無理矢理修行をさせられたから、それだけの実力がついたってことか……話の筋は通ってるな」

 エステオのアシストのお陰で、信じてもらえそうでホッとした。けれどアルノートは目を細めて、深刻な表情で俯く。

「だが重傷を無傷まで治せるなら、聖女並みの素質があるってことになる」

 アルノートの言う通り、聖女になる予定のゲーム主人公より、現時点ではトゥールのほうが、治癒能力が高い状態だ。

(これってまずい? 聖女より目立っちゃったら、原作の流れがそもそも発生しなかったりして)

 いや、原作を破壊してでもエステオを助けるって決めたけども。いざ原作の展開を邪魔しそうになると、こんなことをして本当に大丈夫なのかと不安になってくる。

 目立ちたくはないけど、そこまでの治癒能力がないと言えば、今までの話を否定することになるし……

 トゥールは背中に嫌な汗をかきながら、話の成り行きを見守った。

 アルノートは額に手を置いて、眉間のしわを深くしながら唸る。

「どちらにせよ、親元に戻しても危険な目にあわせるだけってことか……どうしたもんかな」

 アルノートは話に納得してくれたみたいだ。しかも保護する必要があるかもって考えてる素振りだ。

 身を乗り出し、ここがチャンスとばかりに、勢いよくアルノートにたたみかける。

「実はレーヴェ公爵様と俺の母は、仲がよかったみたいなんです。だから公爵様に助けてもらおうとしたんですが、身分を証明できなくて、追い返されてしまいました」
「でもお前はトゥール・プレアなんだろ?」

 こくりと頷くと、アルノートは考えをまとめるためか、斜め上を見上げた。

「人相書きとも特徴が一致するし、本物なんだろうなあ。プレア家の一族らしく、治癒も使えるし」
「どう言えば証明できますかね……あ、父のカツラが何個あるとか、そういうのなら答えられます」

 まだ四十代に入ったばかりなのに、見事なハゲデブだ。母が亡くなってからみるみるうちに様子がおかしくなり、気づけばあんな体型になっていたが、同情なんてしない。

「いやそれ、正解がわかんねえから! ていうか、プレア伯爵は地毛じゃないんだな」
「母を亡くした心労で、毛根もお亡くなりに……」
「そうか、可哀想にな……いや、だからって息子を鞭で痛めつけるなんて、許されることじゃない」

 アルノートとトゥールの思いは、一致したらしい。彼は任せろと言いたげに、自身の胸元を拳で叩いた。

「わかった、俺が父とトゥールが会えるように、取り計らってやる」
「ありがとうございます!」

 思いきり頭を下げると、アルノートは快活に笑った。

「よせよ、大した手間じゃないんだ。どうせ里帰りをするところだったからな」

 トゥールはホッと息を吐いて、口角を緩めた。

 公爵との交渉が上手くいけば、父に連れ戻されて死ぬエンドは避けられそうだ。
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