モブでも推し(ラスボス)を救いたい!

兎騎かなで

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22もっと、構いたくなる

 アルノートは先に実家に帰って、父公爵の予定を確認してから、迎えを寄越してくれるらしい。滞在している宿を教えて、いったん別れた。

 ひととおり町を見て回りながら、途中で見つけた魔物素材屋で、討伐部位を売り払う。ちょっとだけ儲かった。

 ほとんどエステオが魔物を倒したけれど、集めた手間分の代金をくれるというので、ありがたくもらった。そのうち、エステオに課金できるくらいに稼ぎたい。

 それと、室内履きが限界を迎えていたので、靴を購入した。プレア家の門番がくれた代金を使わせてもらった。

 門番は今頃どうしているんだろう。どうかトゥールを逃したことが、バレていませんように。

 そのあとは早めに宿に戻って、露店で買った夕食を食べることにする。美味しそうだなあとほくほく顔で、卵パンとサラダを丸テーブルの上におろした。

(今日はいろいろあったけど、アルノートと会えてよかった。これで父に捕まらずにすみそう)

 エステオはトゥールの向かい側に腰を下ろしていたが、なにを思ったか立ち上がってトゥールの頬に触れた。

「ふぉあ⁉︎」
「ああ、驚かせたか、すまない」

 少し温度の低い手が、わずかばかり頬に触れてすぐに離れていく。

 トゥールは嬉しいのと戸惑いがいっぺんにきて、中途半端に腕を上げた格好で固まってしまう。

(頬、頬が! なんかついてた? というか俺、過剰反応しすぎっ! エステオがびっくりして、触るのやめちゃったじゃん)

 最近は甘えるために自分から抱きついたり、まるで恋人みたいに「あーん」をしていたから、なんだか意識してしまって困る。

 しかもトゥールは子どもの姿をしているから、エステオには恋愛的な意図はまるきりない。

 こんな風に意識しているのは自分だけ……自意識過剰すぎて、頭からシーツを被って隠れたくなった。

 でも、隠れている場合じゃない。無駄に大きな声を出し驚かせて、悪いことをしてしまった。

「な、なに? なんか汚れてた?」
「ああ、いや……君は、私が想像する以上に辛い思いをしてきたのだなと思うと、慰めてやりたくなって」
「エステオ……っ!」

 なんて優しいんだ! トゥールは感激して、エステオに思いきり抱きついた。

(あっ、うっかりなにも考えずに抱きついちゃった……驚かせたかな)

 抱きつくと意識しちゃうのに、エステオが好きでたまらない気持ちは抑えられなくて結局抱きしめてしまうのだから、自分で自分の首を締めている。

 おずおずと見上げると、エステオは美しい青色の瞳を見開いていた。驚いてはいるが嫌がってはいなさそうで、少しの沈黙の後ためらいながら抱きしめ返してくる。

 ぽんぽんと背中を叩かれて、相変わらず子ども扱いされてると思ったけれど、幸せな気分も湧いて出てくる。

 同じように背中を叩くと、エステオは目を見張ってからちょっとだけ笑った。

 なんて綺麗なんだろう、この笑顔を画面に未来永劫保存できないことが、めちゃくちゃ悔やまれる。

 せめて脳裏に焼き付けたくて、一心に美麗な顔を見つめた。形のいい唇が開くのを、魅入られたように眺める。

「辛かったろうが大丈夫だ。今は私が……」

 エステオはそこで言葉を区切ってしまう。眉を苦しげにひそめた後、なんでもないと言いたげに首を横に振った。

「なに?」
「いや、とにかくここは安全だから、安心していい」

 なんだろう、気になるけど……もう一歩踏み込んだらうざがられてしまうかもと思うと、どう声をかけていいのかわからなくなる。

 抱擁も解かれてしまい、物足りない気持ちで手のひらを見た。なんとかエステオの心を軽くしたくて、楽しい思い出だろうことを聞いてみる。

「あのさ、妹さんともこういう感じで、よく抱きついたりしてたの?」
「妹? ああ、あの子は人に触るのが好きだったから、抱きつかれることもあった」
「そっか、かわいいじゃん。俺と似てるんだっけ」

 だったら今後も遠慮なく抱きついたほうが、かつての妹といた時の気持ちを思い出して、エステオの絶望感を和らげることができるかもしれないのか?

 もう一回抱きついてみようか……さっきの今じゃ変か、少し間を開けた方がいい? ああでもちょっと、改めてこっちから抱きつくのは、恥ずかしくもあるような。

 手のひらをワキワキさせていると、エステオは考えるように視線をさまよわせた。

「いや……改めて考えると、そこまで似ていないように思う」
「ええっ!?」

 そんな……妹の癒しパワーでエステオに和んでもらおうと思ってたのに、似てないならやりようがないじゃないか。

 がっかりしたが、エステオはそんなトゥールに気づかないくらい考え事に没頭している。

 似てないなら、なんだろう。固唾をのんで待つ。

「そうだな、芯の部分は似通っているかもしれないが、君は妹というよりももっと」
「もっと?」

 途中で言葉を切ったエステオに問いかけると、彼はたっぷり三十秒近く悩んだ後で口を開いた。

「もっと、構いたくなる」
「……へえ!?」

 構いたくなるってどういうことだ。予想外の返答に驚いて、妹っぽく甘えようとしていた意識がどこかに飛んでいってしまった。

「妹っぽいからじゃなくて、構いたいからアーンをしてくれてた……ってこと?」
「そう、だな。そうかもしれない」

 生真面目に答えてくれるけど、エステオの目がまともに見れない。

 なんだその理由は。考えれば考えるほど、頭に血が昇って顔が熱くなってくる。

「あの、あれ恥ずかしすぎるんだけど」
「だが、君が過不足なく栄養を取るためには、必要なことだろう」

 そうだけど、そうだけど……っ! 別に今までだって肉を食べなくても生きてこれたし……

 けれどそのせいで発育が悪くて小柄なんだと言われたら、否定できない。

 ぐぬぬと唇を噛み締めていると、空気の読めない腹の音が鳴った。

「あ……」
「お腹が空いてるのに、邪魔してしまったな」

 エステオは優雅に椅子に腰掛け、昼食が卵パンなのを確認してちょっとがっかりしていた。

(いやいやいや、一日に二回もアーンとか勘弁だから!)

 卵パンが店にあってよかったと買った店に感謝しながら、ふわふわのパンにかじりつく。

 向かいあって食べている間、長いこと動悸が治らなかったのは、エステオには秘密だ。

*****

 アルノートは翌日になって、自らトゥールに会いにきた。宿の玄関ホールで彼は両手をあわせて、申し訳なさそうな顔でトゥールを見下ろす。

「すまん。父と会わせてやることは出来なさそうだ」
「えっ……」

 まさかの展開に、開いた口が塞がらない。エステオは口を挟んでこないが、どういうことだと聞きたそうにアルノートを見つめていた。

「湖水地方の魔物出現事件の現地調査に出向いていて、しばらく帰ってこないらしい。だが心配するな、代わりにいい案を思いついたんだ。俺に任せてくれ」

 アルノートは問題ないと胸を叩いた。でもアルノートには、教会で聖女の護衛をするっていう任務があるはず……少なくとも、ゲーム本編ではそうなっていた。

「ええと……でも、アルノートって聖騎士なんですよね? 騎士の任務があるんじゃ?」

 そもそも、トゥールが求める『保護』は、旅の安全を守ってほしい的な感じじゃない。旅の安全なら、エステオのおかげで十分保証されている。

 あの虐待ストーカー親父が手出し出来ないよう、権力で守ってほしいという意味だ。アルノートにも伝わっていたと、てっきり思い込んでいたが……

 アルノートは、わかっていると言いたげに頷いた。

「そうだな、俺には仕事がある。だからトゥール、俺と一緒に王都に来てくれないか。公爵の権威でお前を守ってやるよりも、もっと確実な方法がある」

 落ち着いて話そうということで、人もまばらな宿の一角に三人で移動し、レーヴェ名物のぶどうジュースを頼んだ。

 昨日もスムーズに注文をこなしていたし、アルノートはずいぶん庶民の生活に馴染んでいる。

 公爵子息といえど騎士なので、身の回りのことなど一通りできるのかもしれない。

「教えてください、もっと確実な方法ってなんですか」

 トゥールが尋ねると、アルノートは店員からぶどうジュースを受け取りながら口を開いた。

「昨日の話から察するに、プレア伯爵はトゥールの治癒能力を伸ばしたいんだよな?」
「そう……だと思います」

 八つ当たりっていうか、いたぶりたいだけの可能性もあるが。でもあいつは、躾けの度に「もっと治癒を使え」だの「信心深い行いをしろ」だの言っていた。

「俺の治癒能力を鍛えて、将来は教会の治癒師にしたいと、思ってたんじゃないでしょうか」

 領地を継ぐまではクソ親父も、教会で修行をしていたと聞いた覚えがある。そこで出世すればするほど、伯爵家に箔がつくとか言っていた。

「だったら、一足先に教会の治癒師になってしまえば、連れ戻す理由もなくなるんじゃないか」
「それはそうだけど、まだ十歳じゃ教会に所属できないはずです」
「十歳だったのか」

 アルノートは意外そうにしていて、エステオは驚くだろうと言いたげに軽く頷いている。

 どうせ栄養不足で、年相応に見えない身体だよ……居心地が悪かったけれど、少しでも大きく見えるように胸を張った。

 教会に所属できるのは、たしか十二歳からだ。十二歳になると貴族の子は学園に通ったり、治癒魔法の才覚がある子どもは教会の見習いになったりする。

 市井の子も同じように職人見習いになったり、親の仕事を本格的に手伝いはじめたりするらしい。

 だから教会直属の治癒師見習いになるとしても、十二歳を過ぎていなきゃ、受け入れてもらえないはずだけど……

「もちろん、トゥールの年齢では治癒師見習いとして受け入れてもらえない」
「じゃあ無理じゃないですか」
「いや、ひとつだけあるんだ。年齢に関係なく、教会から治癒師だと認められる方法が」

 アルノートが眼光を鋭くする。キラリと緑の瞳が光った気がした。

「治癒師じゃなく、聖女と言ったほうが伝わるかもしれないな」
「……まさか」

 息を飲んでいると、アルノートははっきりと意思を述べた。

「トゥール。お前の治癒能力を、魔王を倒すために使う気はないか」
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