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23聖女、奪います
アルノートから正式に、魔王を倒さないかと頼まれてしまった……!
とっさにエステオに、助けを求めるような目を向けてしまう。彼は真剣な表情で、青の瞳を伏せて考え込んでいた。トゥールの視線に気づいて、わずかに表情を曇らせる。
(なんだろう、動揺してる?)
てっきり魔王を倒してほしいと、彼からもお願いされるかと思ったのに。
いつもみたいに魔王を倒せと言われるのかもと想像すると、胸がツキンと痛んだ気がして、胸元で手を握りこむ。
それこそがエステオの望みだってわかってはいるけど、実際に言われるかもと想像すると身構えてしまう。
(俺はエステオを、死なせたくないのに)
アルノートはトゥールが嫌がっていると思ったのか、ガシガシと頭を掻いた。
「やっぱ無理があるか、こんな小さな子に……しかも男の聖女なんて前例がないからな。教会から認めてもらえるかも、わからないしなあ」
女性のほうが治癒能力が高くなる傾向があるため、歴代の聖女はすべて女性らしい。
そもそも、エステオを救うために出しゃばると決めたけれど、物語の聖女の役まで奪うつもりなんてなかった。
本来の聖女を押し退けて、物語の聖女として振る舞えるのかと自分に問いかけてみるが、やっぱり荷が重い気もする。
(でもここで無理だと言ったら、エステオは本来の聖女のところに行ってしまって、その後は……)
ゲーム本編の一周目と、同じ結末を辿るのかもしれない。
そんなの駄目だ。エステオを死なせたくない。胸の前で拳を握り込む。
……そうだ、怖気づいてる場合じゃない。
ゲーム本編と違う流れを辿るなんて、どうなるのか想像がつかなくて恐ろしい。
けれど、そうしなきゃエステオは救えないんだ。だからこそ、俺が彼を救うために、旅に同行するって決めたんじゃないか。
(本来の聖女に遠慮してたら、本当にエステオがラスボスになってしまうかもしれない……エステオを倒すことになるなんて結末は、絶対に嫌だ)
でしゃばりだろうと、困難な道を歩むことになろうと、なんとしてでもエステオを生かしたい。エステオに出会った時すでに、そういう風に結論付けたじゃないか。
彼を助けることを一番に考えて行動するんだと、自分を励ました。
トゥールはしっかりと顔を上げて、決意を込めてアルノートを見据えた。
「俺、やりたいです……俺でも、聖女になれるのなら」
男が聖女になるっておかしいけど、治癒能力の高さだけでいえば、トゥールにだって聖女だと認められる資格があるはずだ。
なんかもう、最近エステオに対して妹っぽくを心がけて甘えようとしていたから、聖女扱いされたところで気にならないかもしれない。
ようは、呼び方や実態がなんであれ「エステオが幸せになる」という目的さえ果たせたら、それでいいのだ。
(むしろ聖女らしく振る舞うのも、妹っぽくエステオに甘えるのも、究極に男らしい行為なんじゃないか!?)
目的のために役割に徹するって、かっこいいじゃないか。そう思うとやる気が出てきた!
「トゥール……いいのか」
エステオが思い詰めた表情で見下ろしてくる。
彼にとっては、魔王を倒すってことはすなわち、自分の望みが叶うということだ。
自分を倒してもらうことがエステオの望みのはずなのに、なんでそんな深刻そうなんだろう。
(はっ、そうか。もしかして俺の日々の関わりの中で、ちょっとだけでも「死にたくない」って気持ちが芽生えてきているのではっ?)
だとしたら、妹みたいに甘えてみよう作戦は大成功だ。
ほとんど実行できていない気がしてたし、本人にも「妹じゃない」って言われてしまったけれど……
エステオはたぶん、無意識にトゥールに妹っぽさを感じて、生きる気力が湧いてきていたんだ!
興奮で鼻息が荒くなりそうなのを堪えて、エステオに向かってしっかりと頷く。キリッとした表情を心がけてアルノートを見上げた。
「聖女って、どうしたらなれますか」
アルノートがぐしゃぐしゃと自身の前髪を掻き回し、決まり悪そうに呟いた。
「……こんな小さい子に……いや、能力があるからと頼んだのは俺だが、客観的に見ると生贄にするみたいだな。だんだん罪悪感が芽生えてきたぞ」
そんな理由で聖女になれないと思われちゃたまらない。
言いたくなかったが仕方ない。最終的にエステオを生かすためだ、魔王を倒すって決意表明しておこう。
「俺はどうしても……っく、魔王をっ、倒したいんです!」
心にもないことを言うのが辛くて、つっかえまくって力んでしまった。
だけどアルノートは、力が入りまくったトゥールの決意表明が本物だと思ったらしく、目頭を押さえている。
「お前の覚悟は受け取った。よおし、聖女として認めてもらうために教会に向かうぞ」
やった、やり遂げたぞ! 笑顔でエステオを見上げたけれど、やっぱりどこか浮かない顔をしていた。
*
それから、アルノートが旅支度を整えるのを待って、一緒に王都の教会に向かうことになった。
なんとなく心ここにあらずなエステオのことが気になる……
だけど渋る理由を深掘りして「やっぱり聖女を目指すのはやめたほうがいい」なんて言われたら困るので、急いで荷物をまとめていく。
翌日の早朝、外門を出たところで待ちあわせて、アルノートと合流した。
「里帰りって言ってたけど、もう済んだんですか?」
「ああ、なんだかんだで半年に一度は顔を見ているからな」
そういえばアルノートには、家族想いって設定もあったなと思いだす。
ここに来てから逃げるのに精一杯で、ゲーム知識をまとめるどころじゃなかった。
エステオがいない時にでも、こっそりまとめておこうか……でもそれでメモを見られたりしたら、怪しまれるかもしれない。
己の知識に頼るしかないのか、それともリスクを承知でメモを残すべきか。
悩みながら歩いていると、エステオが足を止めた。
「ん? どうした……」
アルノートもつられるようにして足を止めて、周囲を見渡しながら身構える。
何事かと立ち止まったら、木々の向こう側から木材が破壊されるような音と、下卑た笑い声が聞こえてきた。
エステオは身構えながら、冷静に状況を分析する。
「盗賊が馬車を襲っている。敵は八名、被害者は……二名が応戦中だが、多勢に無勢だ」
「ああ、見過ごせないな。トゥール、戦闘が終わったらかけつけて、怪我人がいないか診てくれ」
「わ、わかった!」
返事をすると同時に、二人は木々で視界が遮られた道の向こうに飛び出していった。
とっさにエステオに、助けを求めるような目を向けてしまう。彼は真剣な表情で、青の瞳を伏せて考え込んでいた。トゥールの視線に気づいて、わずかに表情を曇らせる。
(なんだろう、動揺してる?)
てっきり魔王を倒してほしいと、彼からもお願いされるかと思ったのに。
いつもみたいに魔王を倒せと言われるのかもと想像すると、胸がツキンと痛んだ気がして、胸元で手を握りこむ。
それこそがエステオの望みだってわかってはいるけど、実際に言われるかもと想像すると身構えてしまう。
(俺はエステオを、死なせたくないのに)
アルノートはトゥールが嫌がっていると思ったのか、ガシガシと頭を掻いた。
「やっぱ無理があるか、こんな小さな子に……しかも男の聖女なんて前例がないからな。教会から認めてもらえるかも、わからないしなあ」
女性のほうが治癒能力が高くなる傾向があるため、歴代の聖女はすべて女性らしい。
そもそも、エステオを救うために出しゃばると決めたけれど、物語の聖女の役まで奪うつもりなんてなかった。
本来の聖女を押し退けて、物語の聖女として振る舞えるのかと自分に問いかけてみるが、やっぱり荷が重い気もする。
(でもここで無理だと言ったら、エステオは本来の聖女のところに行ってしまって、その後は……)
ゲーム本編の一周目と、同じ結末を辿るのかもしれない。
そんなの駄目だ。エステオを死なせたくない。胸の前で拳を握り込む。
……そうだ、怖気づいてる場合じゃない。
ゲーム本編と違う流れを辿るなんて、どうなるのか想像がつかなくて恐ろしい。
けれど、そうしなきゃエステオは救えないんだ。だからこそ、俺が彼を救うために、旅に同行するって決めたんじゃないか。
(本来の聖女に遠慮してたら、本当にエステオがラスボスになってしまうかもしれない……エステオを倒すことになるなんて結末は、絶対に嫌だ)
でしゃばりだろうと、困難な道を歩むことになろうと、なんとしてでもエステオを生かしたい。エステオに出会った時すでに、そういう風に結論付けたじゃないか。
彼を助けることを一番に考えて行動するんだと、自分を励ました。
トゥールはしっかりと顔を上げて、決意を込めてアルノートを見据えた。
「俺、やりたいです……俺でも、聖女になれるのなら」
男が聖女になるっておかしいけど、治癒能力の高さだけでいえば、トゥールにだって聖女だと認められる資格があるはずだ。
なんかもう、最近エステオに対して妹っぽくを心がけて甘えようとしていたから、聖女扱いされたところで気にならないかもしれない。
ようは、呼び方や実態がなんであれ「エステオが幸せになる」という目的さえ果たせたら、それでいいのだ。
(むしろ聖女らしく振る舞うのも、妹っぽくエステオに甘えるのも、究極に男らしい行為なんじゃないか!?)
目的のために役割に徹するって、かっこいいじゃないか。そう思うとやる気が出てきた!
「トゥール……いいのか」
エステオが思い詰めた表情で見下ろしてくる。
彼にとっては、魔王を倒すってことはすなわち、自分の望みが叶うということだ。
自分を倒してもらうことがエステオの望みのはずなのに、なんでそんな深刻そうなんだろう。
(はっ、そうか。もしかして俺の日々の関わりの中で、ちょっとだけでも「死にたくない」って気持ちが芽生えてきているのではっ?)
だとしたら、妹みたいに甘えてみよう作戦は大成功だ。
ほとんど実行できていない気がしてたし、本人にも「妹じゃない」って言われてしまったけれど……
エステオはたぶん、無意識にトゥールに妹っぽさを感じて、生きる気力が湧いてきていたんだ!
興奮で鼻息が荒くなりそうなのを堪えて、エステオに向かってしっかりと頷く。キリッとした表情を心がけてアルノートを見上げた。
「聖女って、どうしたらなれますか」
アルノートがぐしゃぐしゃと自身の前髪を掻き回し、決まり悪そうに呟いた。
「……こんな小さい子に……いや、能力があるからと頼んだのは俺だが、客観的に見ると生贄にするみたいだな。だんだん罪悪感が芽生えてきたぞ」
そんな理由で聖女になれないと思われちゃたまらない。
言いたくなかったが仕方ない。最終的にエステオを生かすためだ、魔王を倒すって決意表明しておこう。
「俺はどうしても……っく、魔王をっ、倒したいんです!」
心にもないことを言うのが辛くて、つっかえまくって力んでしまった。
だけどアルノートは、力が入りまくったトゥールの決意表明が本物だと思ったらしく、目頭を押さえている。
「お前の覚悟は受け取った。よおし、聖女として認めてもらうために教会に向かうぞ」
やった、やり遂げたぞ! 笑顔でエステオを見上げたけれど、やっぱりどこか浮かない顔をしていた。
*
それから、アルノートが旅支度を整えるのを待って、一緒に王都の教会に向かうことになった。
なんとなく心ここにあらずなエステオのことが気になる……
だけど渋る理由を深掘りして「やっぱり聖女を目指すのはやめたほうがいい」なんて言われたら困るので、急いで荷物をまとめていく。
翌日の早朝、外門を出たところで待ちあわせて、アルノートと合流した。
「里帰りって言ってたけど、もう済んだんですか?」
「ああ、なんだかんだで半年に一度は顔を見ているからな」
そういえばアルノートには、家族想いって設定もあったなと思いだす。
ここに来てから逃げるのに精一杯で、ゲーム知識をまとめるどころじゃなかった。
エステオがいない時にでも、こっそりまとめておこうか……でもそれでメモを見られたりしたら、怪しまれるかもしれない。
己の知識に頼るしかないのか、それともリスクを承知でメモを残すべきか。
悩みながら歩いていると、エステオが足を止めた。
「ん? どうした……」
アルノートもつられるようにして足を止めて、周囲を見渡しながら身構える。
何事かと立ち止まったら、木々の向こう側から木材が破壊されるような音と、下卑た笑い声が聞こえてきた。
エステオは身構えながら、冷静に状況を分析する。
「盗賊が馬車を襲っている。敵は八名、被害者は……二名が応戦中だが、多勢に無勢だ」
「ああ、見過ごせないな。トゥール、戦闘が終わったらかけつけて、怪我人がいないか診てくれ」
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