上 下
2 / 2

後編

しおりを挟む
弟は民人くんを嫌いだと思ってたけど、もしかしたら似たもの同士なのかもしれない。
俺よりも民人くんを理解している気がして、情けないけど、ちょっと妬けた。

「おかえり大助。圭くん元気だった?」
「おう、相変わらずだった」
「はは。それはよかった」
家に帰ると、彼はソファでレシピ本を読んでいた。
「……ねえ民人くん。俺たちのこと、圭にバレた」
「……え?」
その言葉でレシピ本を起き、立ち上がる。
「相変わらず鋭くて」
「そ、それで、なんて……?」
「いや、良かったね、だってさ」
「そ、そっか……」
民人くんは安心したのか、へたりとソファに腰掛けてため息をついた。
「なに、そんな怖かった?」
いや、俺もだったけど。
「いや、圭くんって、大助のこと大事にしてるから、なんか泥棒猫とか言われないかって……」
「それは言わないでしょう」
「いや結構……最近特に僕がフリーになってから当たりが強かったというか……あっ」
しまった、というふうに口を塞ぐ。
そして、俺から目をそらした。
……言われるとたしかに、圭介の言うとおり、彼も気にしてるのかもしれない。
というか、気を遣われているな。
「……民人くん、いいよ。……いや、気にしてないといったら嘘になるけど……俺だって民人くんに昔恋人がいたことはわかってるつもりだから」
「ごめん、口が滑った……」
……いっそ腹を割って話すのがいいんじゃないでしょうか。
それが、圭介の助言だった。
口を塞ぐ彼の手を握り、ソファに並んで腰掛けた。
「……ねえ。俺、民人くんにちゃんと話してなかったよね。俺がいつから民人くんのこと好きだったか」
「……うん、聞かせて」
「とは言っても正直、具体的にいつからか言えないんだけど。でもね、民人くんが初恋だし、少なくとも俺が民人くんの背を抜かす頃には確実に好きだった」
……民人くんは知らないだろうけど。
「……僕に恋人がいたとき、どう思ってた?」
「最初はショックだった。何回も失恋した。でも、民人くんは俺をずっと親友として大事にしてくれてたから、それでいいと思ってた。だんだん気にしなくなったよ。だってどんな恋人たちよりも俺のほうが、民人くんとずっと一緒にいたし」
「……そう、かもしれないね」
「うん。民人くんは俺を大事にしてくれてた。今と同じくらい。……でも、正直なところ……俺が今恋人の立場になって、今まで気にしてなかったけど、民人くんには恋人いたんだなって思うと、悔しくなる。今更嫉妬してる」
不安そうに見つめる瞳がいじらしくて、思わず頬に手が伸びる。
びくり、と震えて、頬を赤らめる。
「俺もほかの恋人と比べられる存在になっちゃったからかな」
「……大助は、違うと思う」
ぽつり、とつぶやくように言葉を紡ぐ。
「本当は全部ね、話さないといけないと思ってるけど……僕は多分、大助が思ってるよりいろんな人と関係持ってきたし、大助にとても言えないようなことたくさんしてた時期もあったし……中には僕が初めてだって人もいた。大助の前で言いづらいけど……過去の恋人のことはちゃんと好きだったけれどね、その人が初めてじゃないことで後悔したことってなかった気がする」
少し冷たい手が、俺のシャツの袖口を掴む。
「大助が初めてかもしれない……こんなに昔の男の話するのが怖いの、なんで大助が初めてじゃなかったんだろうって思ったの」
……唇が震えるくらい、俺は、こんなに愛されて。
「……聞いていい?民人くん。この部屋で誰かとセックスしたことは?」
「……ないよ。ここは、大助と僕だけの場所だから」

……正直俺だって、できることなら民人くんの初めての男になりたかった。
でも、彼の本当のプライベートを侵した人間がいなかったことが、その初めてをもらえたことが、それだけでもう充分だった。
少なくとも、俺の初めての男が民人くんでよかった。
圭介の言うとおり、腹割って話したおかげで、ある程度モヤモヤしていた感情の霞が取れた気がする。


……昼間から致すつもりはなかったが、どうしてもお互い止められず。
戯れに高め合い、すっかりとほぐされた彼のそこは、ヒクヒクと艶かしく雄を求めていた。
彼は思い出したように、独白を始めた。
「……そういえばね、もうひとつだけ……僕、誰かとエッチする夢見たのも、誰かとエッチする想像してオナニーしたのも、大助だけだったかもしれない」
それは、忘れもしない、初めての……朝の、出来事。
「……そういえば、一人でシてるとこ、見たことない。見てみたいな」
「や、恥ずかしいよ……」
「見てみたい……民人くんが俺で、シてるとこ」
そう言うと、困ったように笑う。
「……今日は、特別だからね……ホントは早く大助の欲しいのに……」

そう言って開脚し、前戯でトロトロになった後孔を晒しだす。
「んっ……」
目を瞑り、口の中に自らの指を咥える。
もう片方の指は、腹に飛び散った俺と自身の白濁を絡める。
そうしてそれらを塗り込むように、秘部にプツリと埋め込んだ。
「んう……あぁ……もっと奥……足りないよぉ……」
必死に買い感をかき集めるように身体をよじる。
その声は、俺が必死に、耐えながら聴いた、あのときに似ている。
「あっ……大助ぇ……大助の……固いの……あっ……入口ぐりぐりしてぇ……」
ああ、今すぐ、彼の中に俺の欲望を埋めたい。
「あ、あっ……奥、キて……ナカ、欲しい……」
己の指を最大限埋め、奥までかき回す。
彼の潤んだ瞳が俺を捉える。
ゴクリ、と自分がつばを飲み込む音が、やけに大きく聞こえた。
今俺は、あの時みたいに、見てはいけないものを見ているようで。
「はぁっ……大助、あ、みないで……っ、キちゃう……」
びくん、と胸を大きくのけぞらせ、へたりと身体を脱力させる。
ヒクヒクと、物足りなさげにうごめくそこは、今迄よりもさらに淫靡なものに感じた。
「……民人くん、無茶言ってごめん」
「うん……でも、見られてシたのドキドキして……すぐイっちゃった……」
「……いい? 辛くない?」
「うん、早く、ちょうだい……欲しくて仕方ないよ……」
果てたばかりで熱いそこに、俺の昂りを埋める。
すんなりと奥まで受け入れ、俺の形に絡みつく。
「ああ……っ」
その刺激がいつもより強く感じて。
「んっ……俺もちょっと、今日は早いかも」
「うん、気の済むまで、ちょーだい」
自分で据え膳を食らわせておきながら、情けない。
彼の中を堪能するようにかき回す。
その度、彼から声があふれる。
「は、はぁ、……ん、あっ、……奥、キてる……っ」
「はあ、民人くん、ちゃんと、気持ちい?」
「うん、あ、……はぁ、好き……」
「民人くん、俺、情けないけどやっぱ、昔の男に、妬いてる、こんな姿、他の人にも見せてきたんだよね」
彼の身体を突く度に、彼の中心が揺れ、透明の液が滴る。
「あ、やっ……ごめ、なさ……」
「謝らなくて、いい、けど、これから……他の人にされてきたこと、俺が塗り替えて、いいかな」
「んっ……はあっ……」
彼の表情はとろんとしていて、もう、届いてないかもしれないけど。
「他の人と行ったとことか、やったこととか、全部、俺の思い出で、塗り替えたいって、言ったら、困るかな」
民人くんの腕が、僕の首に回る。
「んっ……大助ぇ……僕、全部、大助のにして……」
身体を密着させて、舌を絡め合う。
息も絶え絶えに、お互い果てへ登りつめる。
「民人くん、俺、もう、イきそう……っ」
「大助、僕も、あっ……はあ、奥、ちょーだい」
びくん、と彼の身体が跳ねたのと同時に、俺の中心が爆ぜる。
そして、ヒクヒクとうごめく彼の中に白濁が搾り取られていく。
だらんと仰向けになった彼は、俺の腹を艶かしくなぞる。
「ねえ、大助え……お願いがあるんだけど」
「……なに?」
「こうやってずっと、入れたままにして抱き合ってるの、すごく好き」
「……こんなエロいこと、してたの」
「大助で全部、塗り替えてくれるんでしょ?」
そう言われたら、もう。
「前途多難だな……」
なんて言うけど、多分俺の顔は今すごく、にやけていると思う。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...