すこし未来の、ほかの地球で。

noriko

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約束と運命の鎖

06

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部屋には、大きな机とソファがおいてあるだけだった。
接客用、かな。
すでに座っていた東さんの向かいに座った。
「一つ聞いて良いですか、どうして南西部に、裏天使の孤児が集まるんですか?」

「理由は色々だよ。俺の知ってる子は、裏天使の中じゃ生きていけなかった」
「……?」
さっぱりわからなかった。


裏天使の中で、生きていけない?
裏天使なのに?



「まあ、特別な事情があるわけだ。それはお前だって同じだろう?」
「まあ、そうですけど……」
部屋は冷房がよく効いている。
汗が冷えて、気持ちいいのか悪いのか。

「じゃあ俺から。お前のことについて聞きたい」
東さんはポロシャツのボタンをひとつあけた。
「僕、ですか?」
「なに、裏天使さんに対する興味さ。見たところ俺より年下だけど……普段はなにしてる?」
「何……えっと」

必死に普段の生活を思い浮かべる。
朝起きたら朝食の準備、
大助が学校に行った後は掃除をして、
本を読みながら晩御飯を考えて、
昼食後に買い物。
それから近所の研究所に勉強がてら遊びに行って……
夕飯の支度して、風呂わかして……


「……民人? 寒いか?」

体が震えだす。
我ながらなんだこの、専業主婦みたいな生活。
東さんは心配そうに僕を覗き込んだ。
「いえ……えっと、普段はおおかた家事を」
ひたすら首を横に振って言う。

「家事! 意外だなあ。てっきり学生かと」
「さすがに学生じゃあ此処には来ませんよ」
「それもそうか…」
家事かあ……とひたすら唸る東さん。
僕だってうなりたいさ。

「民人は……じゃあ誰かと住んでるわけだな?」
「はい、友達と二人暮らしです。家族みたいなものなんですけどね」
「なるほど……友達はいるんだ」
「は?」

特に意味もない言葉なんだろうけど、妙に心にキた。
そんなに、友達少なそうかな……?
「ああ、いやあね。記憶が無いって言うから、そこらへん気になって」
ああ、なんだ。

東さんは本当に、優しいというかお人好しというか。
「記憶無くした後の、僕の第一発見者なんです、彼が。否定されますが……僕のこと、昔から知ってるみたいで
「そうか、それは随分な縁だな。……変なこと聞いて悪かったよ」

手の甲で乾ききらなかった汗を拭う。



「お待たせ、お二人さん。昨日ちょうどクッキー作ったの、よかったら食べてね」
しばらくして、先ほどの女性がお茶とお菓子を持ってきてくれた。
「ああ、ありがとう。相変わらず美味そうだな」
東さんは早速クッキーに手を伸ばしていた。

家や人やクマや星……いかにも子供の好きそうな形、真ん中には、赤や緑のゼリーが埋め込まれている。
紅茶にもよく合いそうだ。
「お客さん、申し遅れました。ここの管理人の、野村佳代(かよ)といいます」
佳代さんは、にっこり笑いながらちょこん、とお辞儀をした。
「えっと…どうも、朝倉です」
「そう……朝倉さんっていうのね。どうぞ、召し上がって」
そういって、僕の方へクッキーの入った箱をよこしてくれた。
……東さんが少し、ムっとする。



「ありがとうございます。……美味しい! 佳代さん、あの……作り方教えてくれませんか?」
彼女は少し驚いたようだけれど、またにっこりと笑った。

「あら、それなら今からレシピを持ってくるわね、ちょっと待ってて」
そして、そのまままた部屋を出て行ってしまった。
「あ……タイミング間違えたかな」
「まったくだ……」」

さっさと用を済ませろ、とため息混じりに呟く東さん。
「そういえば東さんと佳代さんってどういう関係なんですか?」
「はぁっ!?」
彼は飲みかけた紅茶をこぼしそうになって、あわててバランスを保つ。
「いや、すごく仲良しなんで」
「……別に、ただの友達さ。ほかよりちょっと仲がいいくらい」
「そうですか……へんなこと聞いちゃいましたね」

「別に」
そういいながら紅茶をすする東さん。
なんだか、寂しい顔をしている。
「うまくいくといいですね、東さん」
「うるせえ」



すっかり忘れていたけど、
そういえば東さん、僕と最初に会ったとき、

『ほかの孤児院は知らない』って――
「ごめんなさい、東さん」
「……なにが」

「邪魔しちゃいましたね、ホントは一人で来たかったんですよね、此処に」
「気にするな、それより子供が大事だ」
ああ、なんというか、本当に良い人なんだな。
今日一日だけで何度思っただろう――
どうして、孤児院を閉じちゃったんだろう。

「あず―」
「朝倉さん、レシピですよー」
佳代さんが数枚の紙を持ってきてくれた。

まあ、いいや。
また機会があれば、聞こう。

「ありがとうございます! 帰ったら早速作ってみますね」
「感想も教えてね!」

うん、研究室への差し入れに持っていこう。
「佳代、お前も忙しいだろうし。さっさと本題に入ろうぜ」

「あら、お気遣いありがとう。本当はもうすこしお話したいけれど、そうしましょうか」
佳代さんは東さんの隣に座る。

 
「それで、東君の用は?」
「あー、多分、民人と一緒で大丈夫だ」
「あら、そうなの」
それなら楽ね、と両手を合わせる。
……僕と一緒?
「民人、そのネックレスの話、しただろ」
彼が僕の胸元を指差す。
「あ……はい」
これのついになるネックレスをもっている子がいる、と。

単なる偶然だよなあ、どう考えても。
佳代さんも、それを聞いてうなずいた。
「そういえばあの子、似たようなの持ってたわねえ、大事そうにしてる」
「な? 会わせてみる価値はあると思うんだ」

そこまで言ったところで、二人の間の空気は

――突然、どんよりと重くなった。



「え、あの……どうかしましたか?」

ずっとにこにこ笑っていた佳代さんが、大きなため息をつく。
「あの子、此処から離れて生活できるかしら……」
「……」

そうか、ここにいる子供は大抵が裏天使の中で生きて行けなかった子なんだ。
裏天使だらけの中に連れ戻すのは、相当難しいだろう。
「なに、一度会うだけだよ……南西部から出てくって決まったわけじゃない」
「……そうね……」

……脳裏にちらついたのは、僕の髪を見た人達の目だった。
今でさえ気にならないが、そう……この髪が嫌いだった、あの人に会うまでは。
今度は僕が、誰かの為になってあげたいって思ったんだ。

「お願いします、一度会わせてくれませんか……その子に」

気付いたら、そんなことを言っていた。
言わなきゃいけなかった、本当は「杏奈という子を探している」と。

僕の言葉を聞いたとたん、東さんが勢いよく立ち上がった。
「お前がそういうなら……決まりだ」






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