1 / 1
勇者と魔王の最後の戦い
しおりを挟む
「よくぞここまで来た! 勇者よ!」
「魔王め、覚悟しろ!」
雷雨舞う魔王領の最奥地、そこにある魔王城にて、勇者は魔王と対峙していた。
勇者の傍には、幾たびの苦難を乗り越えてきた仲間達。
そして、手には光輝く聖剣が握られていた。
「そう慌てるな。我と共に来い勇者よ。そうすればお前にこの世界の半分をやろう」
「そんな案に乗ると思っているのか! お前を倒せば、それで世界は救われる!」
「本当にそう思っているのか? そう思わされているだけではないのか?」
「な、なにっ!?」
魔王の言葉に一瞬、勇者は怯んでしまう。
その隙を逃す魔王ではなく、魔王が指をパッチンすると、彼の後ろになにやら映像が映し出された。
「見てみろ勇者よ。これが我が領地の政策だ! 民それぞれの得意不得意を考慮し、土地を分散。そしてその土地にて、農耕や鉄鋼、織物などなど……数多の資源を生み出している! 我が魔王領の財政のほぼ半分以上が民からの税収だ」
「な、なんだと……!?」
「税収といえど、大きく掛けてはいない。農耕などはその年によって豊作や不作など、状況が変わるからな。民の生活が苦しくならぬよう、我は毎日書類とにらめっこの日々だ」
そう言って、魔王は大きく息を吐く。
紙束の山を思い出して少し目眩がしたのか、額に手を当てて空を仰ぎ見た後、再び勇者へと目を向けた。
「もちろん、人との戦争は行われているからな……。兵士達に対してはちゃんと補填を行っている。お前達が倒したもの達の家族へは、死亡手当なんかもしっかりと渡している。これは我が極力行う事にしているぞ。民の泣き崩れる姿は、我々とて苦しいものだからな。部下にそのような辛さを与えたくはない」
「……っ」
「いや、勇者よ。お前を責めているわけではない。お前にはお前の信念があり、我らには我らの信念があって戦いを続けていたのだ。しかし、そんな争いはもう止めにしないか? 我とて、お前のような未来ある若者を殺したくはない」
魔王のその言葉に、勇者は衝撃を受けたのか、驚いたように魔王へと顔を向け直す。
そうして彼が見た魔王の顔は、恐ろしさなどない……民を憂う者の表情をしていた。
「魔王! お前はこの世界の半分をやると言ったな! あれはどういうことだ!」
「我々の領地と、人の住まう領地。それを我とお前で分ければ良い。我々とて戦いをしたいわけではない!」
「しかし、それでは納得しないものいるだろう?」
そうなのだ。
元々どちらが先に仕掛けた戦いなのかは、数百年経った今となってはよくわからない。
しかし、それでも殺された者の家族や友人の恨みが敵を作り……そしてその恨みがまた敵を作り……そんなことを続けてきたのだ。
そう易々と納得できるものではないだろう。
「だが、だからといって戦争を続けるのか? 我が死のうとも、お前が死のうとも……また次なる者が戦いを続けるだろう」
「それは……」
「だからこそ、我々の代で終わらせるべきなのだ。魔と人が手を取れぬというならば、剣を交えぬほどに遠ざかれば良い。国境線に壁を築くくらいのことなら、我が手を貸しても良いのだからな」
一理どころか百理ほどありそうな魔王の言葉に、勇者はついに聖剣を落としてしまう。
そこを見逃す魔王ではなかった!
すぐさま、縮地とも言える速度で勇者へと近付き、胸元へと手を伸ばす――!
「――ッ!?」
直後、勇者の胸元で赤い花が咲いた。
「我が妻となれ、勇者アリシアよ」
手に持った真っ赤な薔薇の束を勇者の顔へ向け、彼女の前へと膝をつく魔王。
そのあまりにも、あまりにもな光景に……勇者の仲間達は、どうすればいいのか頭がこんがらがっていた。
「ま、魔王……? これは、どういうことだ?」
「そのままの意味だ、勇者よ。我が妻となり、共に世界を平和に導こう」
「世界を、平和に……」
世界のために戦ってきた勇者にとって、その言葉はどんなキザな台詞よりも甘美な蜜に感じられた。
そうして、気付けば魔王の手を取り……立ち上がった彼と見つめ合っていた。
「答えを聞かせてくれないか?」
「……申し出を、受けよう。魔王スヴェン」
「ありがとう、アリシア」
こうして、なんやかんやあって魔王と勇者はめでたく結ばれ、世界は平和になったのでした。
めでたし、めでたし。
余談。
二人の子供はとてつもないイケメンに育ち、その美貌で世界中に彼女を作ってしまい……世界中を巻き込んだ逃走劇を繰り広げる事に。
彼の平和は……どこにあるのだろうか。
「魔王め、覚悟しろ!」
雷雨舞う魔王領の最奥地、そこにある魔王城にて、勇者は魔王と対峙していた。
勇者の傍には、幾たびの苦難を乗り越えてきた仲間達。
そして、手には光輝く聖剣が握られていた。
「そう慌てるな。我と共に来い勇者よ。そうすればお前にこの世界の半分をやろう」
「そんな案に乗ると思っているのか! お前を倒せば、それで世界は救われる!」
「本当にそう思っているのか? そう思わされているだけではないのか?」
「な、なにっ!?」
魔王の言葉に一瞬、勇者は怯んでしまう。
その隙を逃す魔王ではなく、魔王が指をパッチンすると、彼の後ろになにやら映像が映し出された。
「見てみろ勇者よ。これが我が領地の政策だ! 民それぞれの得意不得意を考慮し、土地を分散。そしてその土地にて、農耕や鉄鋼、織物などなど……数多の資源を生み出している! 我が魔王領の財政のほぼ半分以上が民からの税収だ」
「な、なんだと……!?」
「税収といえど、大きく掛けてはいない。農耕などはその年によって豊作や不作など、状況が変わるからな。民の生活が苦しくならぬよう、我は毎日書類とにらめっこの日々だ」
そう言って、魔王は大きく息を吐く。
紙束の山を思い出して少し目眩がしたのか、額に手を当てて空を仰ぎ見た後、再び勇者へと目を向けた。
「もちろん、人との戦争は行われているからな……。兵士達に対してはちゃんと補填を行っている。お前達が倒したもの達の家族へは、死亡手当なんかもしっかりと渡している。これは我が極力行う事にしているぞ。民の泣き崩れる姿は、我々とて苦しいものだからな。部下にそのような辛さを与えたくはない」
「……っ」
「いや、勇者よ。お前を責めているわけではない。お前にはお前の信念があり、我らには我らの信念があって戦いを続けていたのだ。しかし、そんな争いはもう止めにしないか? 我とて、お前のような未来ある若者を殺したくはない」
魔王のその言葉に、勇者は衝撃を受けたのか、驚いたように魔王へと顔を向け直す。
そうして彼が見た魔王の顔は、恐ろしさなどない……民を憂う者の表情をしていた。
「魔王! お前はこの世界の半分をやると言ったな! あれはどういうことだ!」
「我々の領地と、人の住まう領地。それを我とお前で分ければ良い。我々とて戦いをしたいわけではない!」
「しかし、それでは納得しないものいるだろう?」
そうなのだ。
元々どちらが先に仕掛けた戦いなのかは、数百年経った今となってはよくわからない。
しかし、それでも殺された者の家族や友人の恨みが敵を作り……そしてその恨みがまた敵を作り……そんなことを続けてきたのだ。
そう易々と納得できるものではないだろう。
「だが、だからといって戦争を続けるのか? 我が死のうとも、お前が死のうとも……また次なる者が戦いを続けるだろう」
「それは……」
「だからこそ、我々の代で終わらせるべきなのだ。魔と人が手を取れぬというならば、剣を交えぬほどに遠ざかれば良い。国境線に壁を築くくらいのことなら、我が手を貸しても良いのだからな」
一理どころか百理ほどありそうな魔王の言葉に、勇者はついに聖剣を落としてしまう。
そこを見逃す魔王ではなかった!
すぐさま、縮地とも言える速度で勇者へと近付き、胸元へと手を伸ばす――!
「――ッ!?」
直後、勇者の胸元で赤い花が咲いた。
「我が妻となれ、勇者アリシアよ」
手に持った真っ赤な薔薇の束を勇者の顔へ向け、彼女の前へと膝をつく魔王。
そのあまりにも、あまりにもな光景に……勇者の仲間達は、どうすればいいのか頭がこんがらがっていた。
「ま、魔王……? これは、どういうことだ?」
「そのままの意味だ、勇者よ。我が妻となり、共に世界を平和に導こう」
「世界を、平和に……」
世界のために戦ってきた勇者にとって、その言葉はどんなキザな台詞よりも甘美な蜜に感じられた。
そうして、気付けば魔王の手を取り……立ち上がった彼と見つめ合っていた。
「答えを聞かせてくれないか?」
「……申し出を、受けよう。魔王スヴェン」
「ありがとう、アリシア」
こうして、なんやかんやあって魔王と勇者はめでたく結ばれ、世界は平和になったのでした。
めでたし、めでたし。
余談。
二人の子供はとてつもないイケメンに育ち、その美貌で世界中に彼女を作ってしまい……世界中を巻き込んだ逃走劇を繰り広げる事に。
彼の平和は……どこにあるのだろうか。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は
だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。
私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。
そのまま卒業と思いきや…?
「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑)
全10話+エピローグとなります。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
……そして、『理由の分からない戦い』の種が蒔かれたのであった……。