この魔王は本当に魔王なのだろうか?

一色 遥

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勇者と魔王の最後の戦い

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「よくぞここまで来た! 勇者よ!」
「魔王め、覚悟しろ!」

 雷雨舞う魔王領の最奥地、そこにある魔王城にて、勇者は魔王と対峙していた。
 勇者の傍には、幾たびの苦難を乗り越えてきた仲間達。
 そして、手には光輝く聖剣が握られていた。

「そう慌てるな。我と共に来い勇者よ。そうすればお前にこの世界の半分をやろう」
「そんな案に乗ると思っているのか! お前を倒せば、それで世界は救われる!」
「本当にそう思っているのか? そう思わされているだけではないのか?」
「な、なにっ!?」

 魔王の言葉に一瞬、勇者は怯んでしまう。
 その隙を逃す魔王ではなく、魔王が指をパッチンすると、彼の後ろになにやら映像が映し出された。

「見てみろ勇者よ。これが我が領地の政策だ! 民それぞれの得意不得意を考慮し、土地を分散。そしてその土地にて、農耕や鉄鋼、織物などなど……数多の資源を生み出している! 我が魔王領の財政のほぼ半分以上が民からの税収だ」
「な、なんだと……!?」
「税収といえど、大きく掛けてはいない。農耕などはその年によって豊作や不作など、状況が変わるからな。民の生活が苦しくならぬよう、我は毎日書類とにらめっこの日々だ」

 そう言って、魔王は大きく息を吐く。
 紙束の山を思い出して少し目眩がしたのか、額に手を当てて空を仰ぎ見た後、再び勇者へと目を向けた。

「もちろん、人との戦争は行われているからな……。兵士達に対してはちゃんと補填を行っている。お前達が倒したもの達の家族へは、死亡手当なんかもしっかりと渡している。これは我が極力行う事にしているぞ。民の泣き崩れる姿は、我々とて苦しいものだからな。部下にそのような辛さを与えたくはない」
「……っ」
「いや、勇者よ。お前を責めているわけではない。お前にはお前の信念があり、我らには我らの信念があって戦いを続けていたのだ。しかし、そんな争いはもう止めにしないか? 我とて、お前のような未来ある若者を殺したくはない」

 魔王のその言葉に、勇者は衝撃を受けたのか、驚いたように魔王へと顔を向け直す。
 そうして彼が見た魔王の顔は、恐ろしさなどない……民を憂う者の表情をしていた。

「魔王! お前はこの世界の半分をやると言ったな! あれはどういうことだ!」
「我々の領地と、人の住まう領地。それを我とお前で分ければ良い。我々とて戦いをしたいわけではない!」
「しかし、それでは納得しないものいるだろう?」

 そうなのだ。
 元々どちらが先に仕掛けた戦いなのかは、数百年経った今となってはよくわからない。
 しかし、それでも殺された者の家族や友人の恨みが敵を作り……そしてその恨みがまた敵を作り……そんなことを続けてきたのだ。
 そう易々と納得できるものではないだろう。

「だが、だからといって戦争を続けるのか? 我が死のうとも、お前が死のうとも……また次なる者が戦いを続けるだろう」
「それは……」
「だからこそ、我々の代で終わらせるべきなのだ。魔と人が手を取れぬというならば、剣を交えぬほどに遠ざかれば良い。国境線に壁を築くくらいのことなら、我が手を貸しても良いのだからな」

 一理どころか百理ほどありそうな魔王の言葉に、勇者はついに聖剣を落としてしまう。
 そこを見逃す魔王ではなかった!
 すぐさま、縮地とも言える速度で勇者へと近付き、胸元へと手を伸ばす――!

「――ッ!?」

 直後、勇者の胸元で赤い花が咲いた。

「我が妻となれ、勇者アリシアよ」

 手に持った真っ赤な薔薇の束を勇者の顔へ向け、彼女の前へと膝をつく魔王。
 そのあまりにも、あまりにもな光景に……勇者の仲間達は、どうすればいいのか頭がこんがらがっていた。

「ま、魔王……? これは、どういうことだ?」
「そのままの意味だ、勇者よ。我が妻となり、共に世界を平和に導こう」
「世界を、平和に……」

 世界のために戦ってきた勇者にとって、その言葉はどんなキザな台詞よりも甘美な蜜に感じられた。
 そうして、気付けば魔王の手を取り……立ち上がった彼と見つめ合っていた。

「答えを聞かせてくれないか?」
「……申し出を、受けよう。魔王スヴェン」
「ありがとう、アリシア」

 こうして、なんやかんやあって魔王と勇者はめでたく結ばれ、世界は平和になったのでした。
 めでたし、めでたし。

 余談。
 二人の子供はとてつもないイケメンに育ち、その美貌で世界中に彼女を作ってしまい……世界中を巻き込んだ逃走劇を繰り広げる事に。
 彼の平和は……どこにあるのだろうか。
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みんなの感想(1件)

A・l・m
2022.02.03 A・l・m

……そして、『理由の分からない戦い』の種が蒔かれたのであった……。

解除

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