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13. 揺らぎ

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 自室のベッドでうつ伏せに、糸の切れたマリオネットのように倒れ込む。
(はぁ~~、疲れた・・・。)
 日曜日だというのに平日以上の疲労具合で、これではでも何でもない。

(そういえば...今日の茜さん、すごく頼りになったなぁ…。あーあ...茜さんが本当の”お姉ちゃん”だったら良かったのに……。
 いやいや――、何を考えているんだ僕は…。あの人が姉?そんなのは考えられない。もし、そんなことになったら…家の中も騒がしくなりそうだし、年中ベタベタしてきそうだし、いつまでも子ども扱いされそうだし・・・。)

(子ども扱いか・・・)
 茜さんは僕を、まだまだ子供だと言った。僕はそれを聞いて、不思議と嫌な気分にはならなかった…。

 ・・・まただ。茜さんと話している時、いつも感じるこの感覚――。自分の軸がぶれるような、自分を見失うような…そんな感覚。
 止め処なく溢れる複雑な感情を消化するように、茜さんに貰ったチョコを口に入れる。

(・・・甘い。)
 前に貰ったものと同じのはずなのに、前に食べたよりも異様に甘く感じるのは何故だろう…。脱水症状になるとスポーツドリンクがいつもより甘く感じる、みたいな理屈で、僕も糖分不足に陥っていたのだろうか?

 苺のイラストが描かれた包み紙をぼうっと眺める。
(茜さん、やっぱり覚えてくれてたんだな…。)

 あの例のチョコレートは、元々は茜さんの好物だった。たまに家に遊びに来た時に、いつも持ってきてくれていたので僕もだんだんと好きになっていった。その中でも一番のお気に入りがこの苺のフレーバーで、これが好きだと伝えると茜さんはそれ以来、この味だけは全部僕にくれるようになった。

 でも...最近は家に遊びに来ることなんてほとんどないし…今日だって、道すがら僕に会うかどうかなんて分からなかったはずだ。それなのに…茜さんはどうして、この味のチョコだけをピンポイントで持っていたんだろう…。

(もしかして…僕のためにわざわざ取っておいてくれてるのか…?
 それって、ひょっとして僕の事が・・・)
 いやいやいやいや―――。馬鹿か、僕は…。僕の頭の中はいつからこんなにお花畑になった?冷静に考えてありえない。14歳も離れているんだぞ……あの人からすれば僕なんか、ガキも同然。そうだ...きっと茜さんはチ○ルチョコが好き過ぎて、普段からファミリーパックのものを持ち歩いているというだけの話だ。そうに違いない…。
 パンドラの箱を開けるような感覚がしたので、これ以上は深く考えるのを止めた。

 それにしても...最近は考える事が色々とあり過ぎて、頭の中がゴチャゴチャだ…。
 期末テスト,責任,誕生日,兄,劣等感,友達,青春,草むしり,太陽,母,伯母,大人,子供,チョコレート,茜さん…ありとあらゆる単語が頭の中で渦を巻き、脳が消化不良を起こしている。

 仰向けになって目を閉じ、全てを空っぽにしようとするも...まぶた越しにチカチカ映る――部屋の照明すらも煩わしく感じる…。
 照明の電源を落とし、脳のスイッチもOFFにする。

 ああ・・・駄目だ。まだ歯も磨いてないし、体だって拭いていない…それなのに、油断すると寝落ちしてしまいそうだ。でも…このまま深い眠りに落ちてしまいたい…そう思う自分もいる。
 窓から差し込む優しい月の光に包まれて、心地の良い脱力感に身を委ねる――。
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