ぐりむ・りーぱー〜剣と魔法のファンタジー世界で一流冒険者パーティーを脱退した俺はスローライフを目指す。最強?無双?そんなものに興味無いです〜

くろひつじ

文字の大きさ
67 / 101

66話:「次はどんな奴らが居るんだろうか」

しおりを挟む

 先程ラインハルトに言った通り、自分達の客室の戻る前に他の車両の様子を見て回る事にした。
 特に問題はないだろうけど、一応護衛としてなってる訳だしな。
 仕事はしておかなきゃならない。

 客室の内窓から見ると、行儀良く座っている二人の少女の姿があった。
 二人とも長い金髪で、ヘッドドレスを頭に付けているのが印象的だ。

「よう。何か問題は起きてないか?」

 扉を開けながら声を掛けると、二人は同時にゆっくりとこちらを見た。
 その顔を見て少し驚く。二人とも同じ顔で、同じ微笑みだ。
 人形めいた美少女達は同じ仕草で首に指を当て、声を揃えて聞き返してくる。

「「大丈夫です。貴方様はどなたでしょうか?」」
「護衛の冒険者だよ。俺がライ、こっちがサウレとクレアだ」
「「まあ。よろしくお願いします」」

 可愛らしく首を傾げて微笑むと、彼女達は同時に立ち上がってくすりと笑う。

「私はアリス」「私はイリス」
「家名は無くて」「親もいない」
「オウカ様に助けられた」「ただの双子でございます」

 歌うように。演劇のように。
 二人してスカートの端をつまみ上げると、上品な礼を返してくれた。
 おう。息がぴったりだな。
 ただまあ、うん。上手な方ではあるが、まだまだ。

「で、後ろのお前はなんて言うんだ?」

 呆れて苦笑しながら、俺たちの背後で気配を消している三人目に声を掛けた。
 言われて初めて気付いたのか、サウレが素早い動きで少女と俺の間に入る。

「あら。気が付かれていたのですね。気配は殺したはずですけれど」
「この二人の連携に違和感があったからな」
「それはどういう事でしょう?」

 改めて振り返ると、やはり同じ顔。
 金髪にヘッドドレスを乗せた少女が、無邪気な様子で微笑んでいた。

「二人の言葉の間の取り方が歪だったからな。あれは普段から三人で話している間の取り方だ」

 冒険者のパーティでも、結成から何年も経つと仲間の動きに自然と合わせるようにたち振る舞うようになる。
 この子達は生まれてからずっと一緒だったのだろう。その動きは三人で居ることが前提になっているように見えた。
 
「まあ凄い。ライ様は気の回る御方ですのね」
「気配には敏感でね。根が臆病だからな」
「あらあら。面白い御方」

 くすくすと笑い声が輪唱する。
 うーん。少しばかりホラーだな、これ。

「では改めて。私はエリスと申します。三つ子の三女でございます」
「よろしく。この挨拶、オウカにもやったんだろ?」
「はい」「それはもう」「素敵な悲鳴を上げてくれました」
「その光景が目に浮かぶな」

 あいつ、お化けとか苦手だもんな。
 三人とも人形めいた美少女だから余計に怖いし。

「ところでライ様」「一つだけお聞きしても」「よろしいですか?」
「おう、何だ?」

 彼女達は揃いも揃って、子どもらしさの無い大人びた笑顔で。
 ゆっくりと、首を傾げた。

「なぜ貴方様が」「偽名まで使って」「冒険者などを」

「「「やっておられるのですか?」」」


 冷たく、温度の無いその言葉に。


「うるせぇ。ほっとけ」

 腰に手を当てて、ドヤ顔の三つ子に笑い返してやった。

「……あの」「……もうちょっと」「……リアクションとか」
「ねぇよ」
「なんて言うか」「何故それを」「みたいな」
「いや、だってお前らの事知ってるし」

 冒険者を始める前に、ギルドで聞いたことがあるのだ。
 一度たりとも依頼を失敗した事の無い三つ子が居るとか何とか。
 サウレ一流冒険者に気付かれない程に熟練された気配の消し方。
 一糸乱れぬ挙動と、異様に大人びた立ち振る舞い。
 ここまで揃ってれば誰でも予想は着く。

「つまりお前らはだろ?」
「「「……ご明察です。恐れ入ります」」」

 三人揃って芝居じみた動きで頭を下げる。
 つまりはまあ、そういう事だ。
 俺がこいつらの噂を聞いていたように、この三つ子も俺の話を聞いた事があるのだろう。

死神グリムリーパー
 俺の二つ名であり、捨て去った過去を。

「てか今はオウカ食堂で真面目にやってんだろ?」
「もちろんです」「オウカ様は」「私達の生きる意味です」
「重いわお前ら」

 あ、いや。人の事言えなかったわ。
 こっちには狂信者サウレが居るし。

「あーでも、この話はオウカにするなよ」
「もちろんです」「あの方にはいつも」「笑顔であってほしい」
「「「その為に私達がいるのですから」」」

 ニコリと笑う様は、しかし感情が欠落していて。
 嫌になるほど見慣れてしまった、汚れ仕事を専門とした人間の表情だった。
 あーあ。嫌になるな、本当。
 こんな子どもが居なくなるように、オウカは頑張っていると言うのに。
 それでもやはり、過去は変えられない訳だ。
 ……本当に、嫌な世界だ。

 何とも言えずに腕を組んでいると、横からクイッと服を引っ張られた。

「あの、割り込んでごめん。ライ、ちょっと説明してほしいんだけど」
「あ、そうか。お前は知らないのか」

 そう言えば話して無かったわ。

「んーとな。俺の二つ名の話なんだが」
「ライって二つ名持ちなの!?」
「一応な。『死神グリムリーパー』って名付けられた」
「……ええぇっ!? あの伝説の暗殺者!? ライが!?」
「いや、マジで大層なことしてないからな?」

 誰かが面白がって話を盛りまくった結果だし。
 噂が勝手に歩き回ってるだけだもんな。迷惑な事に。

「うっわあ……でもちょっと納得したかも!」
「いや何にだよ」
「ライはどう考えても普通じゃないからね!」
「どこがだよ。至って凡人だぞ、俺は」

 まだ勘違いしてんのかこいつ。
 そろそろ分かっても良いと思うんだけどなー。

「ライと居ると、普通の町娘とか凡人とかって言葉の意味が分からなくなるね!」
「オウカに関しては同意する」

 自称詐欺も良いところだしな、あいつ。
 女王陛下が何言ってんだって話だし。

「とりあえず、何かあったら俺の名前を出していいから。無茶はするなよ?」
「心得ています」「ご心配」「ありがとうございます」
「おう。じゃあまた後でな」

 三つ子に対して軽く手を振ると、ずっと警戒してくれていたサウレの頭に手を置いた。

「ありがとな。もう大丈夫だ」
「……ん。分かった」

 すっと俺の服を握りしめ、ぐいぐいと頭を擦り付けて来る。
 本当に猫みたいだな、こいつ。
 要望通り撫でてやりながら、俺たちは次の客室に向かった。

 さてさて。いきなり個性的な奴らと遭遇してしまった訳だが。
 次はどんな奴らが居るんだろうか。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」  悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!? 「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」  やかましぃやぁ。  ※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

処理中です...