17 / 25
17話:出発
しおりを挟む司祭服に着替えたオリビアが部屋から出て来るのを待って、ノア達は村の冒険者ギルドに向かった。
建物内は昨日とは違い多くの人で埋め尽くされている。
おそらく彼らは、村の依頼を受ける冒険者達なのだろう。
ギルドの受付カウンターで依頼を受注する者、少し離れたテーブルで情報交換を行う者、出発前に手筈を確認しあう者など様々だ。
そんな中、二人は冒険者達を横目に、併設された酒場兼食堂へと向かった。
こちらも朝から喧騒に溢れかえっており、各々がテーブルに着き朝食をとっている。
ノア達もくるくると忙しなく歩き回る店員に声を掛け、二人分の代金を渡して朝食を注文し、比較的空いていた壁際の席に座った。
ものの数分で渡されたトレイには豪華では無いが十分な量の朝食が盛り付けられている。
小さな感謝の念を込めて、早速頂くことにした。
今朝のメニューはシンプルで、オムレツとソーセージ、芋の入ったポタージュに白パンだった。
ふわりと焼き上げられたオムレツは甘めで、塩気の効いたソーセージと良く合う。
ポタージュは濃厚なのに後味が良く、素材の味が引き立ったスープはほんのり甘みを感じる。
そしてどうやら自家製らしい白パンは柔らかく、もっちりとした食感は旅先では味わえない代物だ。
それらが織り交ざった香りを楽しみながら順番に食べ進め、二人は十分もしない内に完食してしまった。
「オリビア。今日から魔導都市へ出発しようと思う。旅の買い出しは済んでいるが、構わないか?」
「えぇと、私は大丈夫です。すぐに出発ですか?」
「ああ。魔導都市で武具の手入れや火薬の買い足しもしたい。早めに出るとしよう」
「分かりました」
簡単な打ち合わせを済ませてからトレイを返した後、念の為ギルドの方で依頼発注書を目にする。
一応護衛依頼を探したがやはり見当たらず、取り立てて急ぎの依頼もなかった為、予定通りそのまま村を出ることにした。
村の門の前で待機していた乗合馬車に乗り込むと、そこには冒険者風の青年達三人が座っていた。
乗合馬車の専属護衛だろうか。皆茶色の短髪で顔が似ている所を見るに、兄弟なのかもしれない。
ノアがそう考えていると、オリビアは彼らに向かって柔らかく微笑みかける。
「おはようございます。魔導都市までの間、よろしくお願いしますね」
「よろしくお願いします! ……あの、もしかして聖女様ですか?」
「はい。オリビアと申します」
キラキラと目を輝かせる青年に彼女が答える。
オリビアの清楚可憐な振る舞いに何故か誇らしさを感じながら、ノアは一番前の椅子に腰掛けた。
自分が話し掛けられる事は無いだろうと思い腕を組んだ時、しかし青年達の一人が彼に声を掛けてくる。
「僕は冒険者のトムです、あっちの2人がタムとテム。貴方も冒険者ですか?」
「……そうだが」
「やっぱりそうですか! お名前を聞いてもいいですか?」
「ノアだ。家名は無い」
「……えぇっ⁉」
黒衣の青年の名乗りに、青年達が揃って驚きの声を上げる。
「まさか……『残響の剣舞』のノアさんですか⁉」
「……なんだ、それは?」
珍しくパチクリと瞬かせ、ノアが訪ね返した。
「何って、ノアさんの二つ名じゃないですか! ガンブレイドを使う無敗の元傭兵『残響の剣舞』は冒険者やってて知らない奴はいませんよ!」
「……そう、なのか?」
まさか自分がそんな呼ばれ方をしていたなんて知らず、彼は少し困惑する。
事実、『残響の剣舞』の二つ名を持つノアは、現冒険者の中でも最上位の戦力を持つと言われている。
冒険者歴は浅いものの、傭兵時代に成し遂げた偉業は吟遊詩人達によって唄い広げられ、一部では救国の英雄と並ぶ程の人気を誇っていた。
曰く、旧時代の武器であるガンブレイドを使い、あらゆる敵を屠る黒衣の剣士。
その姿は一陣の旋風の如く、正に一騎当千。
らしい。
自身ですら忘れていたような戦歴を事を熱く語られ、ノアは困ったように首裏に手を当てた。
「そうか。オリビアは知っていたか?」
「知っていましたけど……ノアさんは昔の話を嫌がるので黙ってました。本人が知らないとは思って居ませんでしたけどね」
オリビアに話を振ると苦笑いを返された。
どうやら知らなかったのは自分だけのようだと、ノアは何とも言えず黙って眉尻を下げる。
「でも何で聖女様と?」
「ああ、オリビアの巡礼の護衛をしている」
「……え? 最上位の冒険者が護衛……?」
三人揃って首を傾げる兄弟に、ノアは訳が分からずオリビアに視線を向けた。
「神託が下ったのです。黒衣の青年を共に巡礼の旅に出よ、と」
「なるほど! さすが二つ名持ちの冒険者ですね!」
ノアには良く分からない話だが、どうやら彼らはその一言で納得したらしい。
揃って頷く彼らの様子にオリビアがクスクスと笑い、自然とノアも穏やかな笑みを浮かべていた。
しばらく馬車の前方の席で四人の歓談を聞いていると、御者席から窓越しに声を掛けられた。
「出発するが、大丈夫かい?」
「構わない。だが、他に客はいないのか?」
「今日は聖女様とあんただけだよ。そっちの三兄弟は専属護衛だ」
「そうか。じゃあ頼む」
素っ気なく返すノアにニカリと笑い返し、御者は馬車の窓を閉める。
すぐに馬の嘶きが聞こえ、ガタゴトと馬車が走り出した。
思っていたより揺れが少なく、賑やかな三兄弟のおかげもあって、ノアは想定より快適な旅になりそうだと感じた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる