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XX.その従者、超鈍感につき
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あ~~~~~! 疲れた!
ここまで外堀埋めるのに随分と奔走しちまったぜ。
俺、よく頑張ったよな?
いやさ。あの婚約解消の騒動を皮切りに、俺の前世の記憶が徐々に甦ったのはいいんだけどさ。
ぜんぶ思い出したあとは……しばらく心の整理が追いつかなかったよ。
だってさ。俺たちがいた世界の終わりの日のことなんだけどよ。
魔王城での決戦で、突然魔王様の目の前にワープしてきた勇者に反応しきれなくて。誰もが動けないでいたのに、あいつ……ツヴァイだけが即座にふたりの間に割り込んだんだぜ?
笑えるだろ。だってあいつ、頭はいいけど弱っちいくせに真っ先に飛び出すんだもん。
あれからどーなったか。
あの様子だとあいつは覚えちゃいないんだろうけど、そりゃあもう、酷いもんだったよ。
魔王様は返す刀で勇者の腸をぶち撒けて。
そのまま自分の角を折ったかと思ったら――自分で自分の首を掻っ切っちまったんだから。
まぁ、耐えられなかったんだろうなぁ。
だって、あいつのいない世界なんて魔王様にとっちゃ何の価値もないんだから。
そんであの場にいた全員が魔力暴走の巻き添えで吹き飛んだあたり、周りのことなんて考えもしない魔王様らしいよなー。
その後の世界? 知らんけど、たぶんぶっ壊れたんじゃね? 知らんけど。
そもそもさ。前の世界で人間との戦争をおっぱじめたのだって、あいつが原因だったんだぜ?
俺、ちゃんと覚えてんだから。魔王様とあいつが話してた時のこと。
『……ツヴァイ。最近あちこち飛び回っているようだが、何かあったのか』
いつものように魔王様を囲んだ晩餐の席。久しぶりに顔を出したあいつに、魔王様がつまんなそうに言ったんだよ。
人間どもが資源欲しさに魔国に立ち入ってくるもんだから、あいつその対応に追われていたらしくって。「魔王様の手を煩わせるわけにはいかない」って、一人で全部処理してたそうなんだけど……。
『大したことではありません。支障ないようにしているつもりでしたが、何か、問題でもありましたか?』
『……特にはない。だが、お前がいなくては進まぬ施策もあるだろう』
『ああ、その件ならフィーアにお申し付け下さいませ。あれも頭は働きますから。あ、ドライは駄目ですからね。また借金をこさえてきたので、向こう十年は鉱山で無償奉仕させるつもりです』
『アレは本当にどうしようもない奴だな……』
あいつにとっちゃただの業務報告のつもりだったんだろうけど、こんな他愛もないやりとりだけで魔王様は幸せそうだったのにな。
でも、その時間も更に減っていっちまってさ。
あいつがますます城に寄り付きもしなくなって、魔王様は食事のたびに、あいつの定位置を苦々しそうな顔で睨みつけてたもんだよ。
『……仕方ないな。蟻を殲滅すれば、私に顔も見せぬなどという不敬も働かなくなるだろう』
『あらやだ、魔王様ったら。あの子ひとりのために戦争を仕掛ける気?』
『そ、そうではない。蟻の分際で、目に余るものがあっただけだ。それに、なんだ。お前たちは私のものなのだから。その時間は私のためだけにあるべきだ。……そう思うだろう?』
魔王様がふんと鼻を鳴らして言うと、フィーアは楽しそうに笑ってたっけ。
ドライの死んだ目も急に輝き出して。……あいつはあれだな、金になる気配を感じ取っただけだな。
俺もあん時はただの馬鹿だったから、「蟻なんかと戦争してもつまんなくね?」って思ってたけど、今なら分かる。
あの問答が、人間たちとの開戦の幕開けだったんだって。
『……まさか私がいない間にここまで話が大きくなるとは思わなかった。だが、決断されたのならばそれに付き従うまでだ』
開戦を知らされたあいつはそんな頓珍漢なこと言ってたけどよ。魔王様はさ、面倒ごとがなくなれば、あいつが自分の傍にずっといてくれると思ってたんだよ。
ただそれだけだったんだよ。
人間にしちゃ迷惑な話だろうけど。
なんだっけ、犬も吠えなきゃしばかれまい、だっけ?
自業自得ってやつだな。仕方ねぇわ。
こんな調子だからもう焦れったくて。夜襲に備えて城壁に待機していたとき、俺もつい聞いちゃったんだよ。
『なあツヴァイ。お前、魔王様のこと好きなんだよな?』
だってあんまりにも魔王様が不憫でさ。
これで「好きだ」ってちゃんと言ってくれれば、魔王様だって報われるじゃんか。
……なのに、あいつときたら、ほんっっっとうに駄目な奴だよなぁ。
『また馬鹿なことを……。今はそれどころではないことも分からんのか。勇者などという未知なる存在が間近にまで迫っているのだぞ』
『魔王様がやられるわけねーじゃん。魔王様だぜ? その気になりゃ世界をぶっ壊すことだってできるじゃねーか』
『だとしても、だ。あの御方に付き従う以上、無様な姿など見せられん』
『ふーん。好きな子にはカッコいいところ見せてぇってことか。超大好きってことね。魔王様に伝えておくわ』
『ええい、この馬鹿犬が……! 余計なことを吹き込んだら飯を抜くからな!』
けらけらと笑う俺に、あいつは珍しく真面目な顔をしてたっけ。
『……だが、そうだな。私はお前のように戦では役に立てないから……どんな形であれ、あの御方のお役に立てるのであれば、それで十分だ』
『お前は完全に内政特化だもんなー。俺は戦も嫌いじゃねぇけど、平和な世界だったらお前ももっと活躍できるのかもな?』
『平和な世界、か。まるで考えられんが……そんな世界で生きる魔王様を、見てみたくはあるな』
どっかで話聞いてたんかな? そーして選ばれた転生先がこの世界ってわけだ。
……いや、もしかしたらあいつのために創ったのかもしれないな。あり得そうだから怖ぇけど、たったひとりの男の発言でこんなことになるんだから……魔王様の愛、重すぎじゃね?
それに魔王様があんなにしおらしい女の子になったのだって、フィーアに好みの女を聞かれたあいつが「お前と違って、貞淑な女だ」って適当に答えたせいだぜ、絶対。鵜呑みにしすぎだろ、魔王様。たまにキャラが迷子になってんのも笑えるんだけどさ。
素直になれない魔王様が悪いのか。
超鈍感な従者が悪いのか。
その間に挟まれてる俺の苦労、ちょっとは知っといてほしいんだけどなー?
この世界でも俺ばっか損な役回りじゃんか。
あいつを取り立ててもらうために、学園での功績を親父に伝えまくったり。
あいつらは両片思い中のじれじれ期だから生暖かく見守ってやってくれ、って他の連中にも根回ししたり。
みんなノリノリだから良かったけどよ。そう考えると俺、この世界好きかもなぁ。飯も食えるし。魔王様も怒らせなければ可愛い女の子だし。
そもそも本当だったらあいつが王子で俺が従者ポジだったんじゃねぇの? 配役ミスってんだろ、魔王様。
当の魔王様は記憶があるんだかないんだかよく分からねぇし。……藪蛇になりたくねぇから突っ込まねぇけどさ。
んで、あいつはあいつで、相変わらず自分の気持ちを押し隠して「私はただの従者ですから」とか言ってんだから……ほんと、救いようのない鈍感野郎だよ。
でもまあ、いいんだ。
俺、あいつと魔王様のすれ違い漫才見るの、好きだったから。
あいつと魔王様と、みんなで馬鹿やってるの、大好きだったから。
だから今世でも、文句言いつつ楽しくやらせてもらってるけどさ。
でもなぁ……いい加減、そろそろくっついて欲しいんだよなぁ。
だってあいつらがくっつくの見届けようと思ったら、来世になりそうなんだもん。
――付き合ってらんねーよ!
ここまで外堀埋めるのに随分と奔走しちまったぜ。
俺、よく頑張ったよな?
いやさ。あの婚約解消の騒動を皮切りに、俺の前世の記憶が徐々に甦ったのはいいんだけどさ。
ぜんぶ思い出したあとは……しばらく心の整理が追いつかなかったよ。
だってさ。俺たちがいた世界の終わりの日のことなんだけどよ。
魔王城での決戦で、突然魔王様の目の前にワープしてきた勇者に反応しきれなくて。誰もが動けないでいたのに、あいつ……ツヴァイだけが即座にふたりの間に割り込んだんだぜ?
笑えるだろ。だってあいつ、頭はいいけど弱っちいくせに真っ先に飛び出すんだもん。
あれからどーなったか。
あの様子だとあいつは覚えちゃいないんだろうけど、そりゃあもう、酷いもんだったよ。
魔王様は返す刀で勇者の腸をぶち撒けて。
そのまま自分の角を折ったかと思ったら――自分で自分の首を掻っ切っちまったんだから。
まぁ、耐えられなかったんだろうなぁ。
だって、あいつのいない世界なんて魔王様にとっちゃ何の価値もないんだから。
そんであの場にいた全員が魔力暴走の巻き添えで吹き飛んだあたり、周りのことなんて考えもしない魔王様らしいよなー。
その後の世界? 知らんけど、たぶんぶっ壊れたんじゃね? 知らんけど。
そもそもさ。前の世界で人間との戦争をおっぱじめたのだって、あいつが原因だったんだぜ?
俺、ちゃんと覚えてんだから。魔王様とあいつが話してた時のこと。
『……ツヴァイ。最近あちこち飛び回っているようだが、何かあったのか』
いつものように魔王様を囲んだ晩餐の席。久しぶりに顔を出したあいつに、魔王様がつまんなそうに言ったんだよ。
人間どもが資源欲しさに魔国に立ち入ってくるもんだから、あいつその対応に追われていたらしくって。「魔王様の手を煩わせるわけにはいかない」って、一人で全部処理してたそうなんだけど……。
『大したことではありません。支障ないようにしているつもりでしたが、何か、問題でもありましたか?』
『……特にはない。だが、お前がいなくては進まぬ施策もあるだろう』
『ああ、その件ならフィーアにお申し付け下さいませ。あれも頭は働きますから。あ、ドライは駄目ですからね。また借金をこさえてきたので、向こう十年は鉱山で無償奉仕させるつもりです』
『アレは本当にどうしようもない奴だな……』
あいつにとっちゃただの業務報告のつもりだったんだろうけど、こんな他愛もないやりとりだけで魔王様は幸せそうだったのにな。
でも、その時間も更に減っていっちまってさ。
あいつがますます城に寄り付きもしなくなって、魔王様は食事のたびに、あいつの定位置を苦々しそうな顔で睨みつけてたもんだよ。
『……仕方ないな。蟻を殲滅すれば、私に顔も見せぬなどという不敬も働かなくなるだろう』
『あらやだ、魔王様ったら。あの子ひとりのために戦争を仕掛ける気?』
『そ、そうではない。蟻の分際で、目に余るものがあっただけだ。それに、なんだ。お前たちは私のものなのだから。その時間は私のためだけにあるべきだ。……そう思うだろう?』
魔王様がふんと鼻を鳴らして言うと、フィーアは楽しそうに笑ってたっけ。
ドライの死んだ目も急に輝き出して。……あいつはあれだな、金になる気配を感じ取っただけだな。
俺もあん時はただの馬鹿だったから、「蟻なんかと戦争してもつまんなくね?」って思ってたけど、今なら分かる。
あの問答が、人間たちとの開戦の幕開けだったんだって。
『……まさか私がいない間にここまで話が大きくなるとは思わなかった。だが、決断されたのならばそれに付き従うまでだ』
開戦を知らされたあいつはそんな頓珍漢なこと言ってたけどよ。魔王様はさ、面倒ごとがなくなれば、あいつが自分の傍にずっといてくれると思ってたんだよ。
ただそれだけだったんだよ。
人間にしちゃ迷惑な話だろうけど。
なんだっけ、犬も吠えなきゃしばかれまい、だっけ?
自業自得ってやつだな。仕方ねぇわ。
こんな調子だからもう焦れったくて。夜襲に備えて城壁に待機していたとき、俺もつい聞いちゃったんだよ。
『なあツヴァイ。お前、魔王様のこと好きなんだよな?』
だってあんまりにも魔王様が不憫でさ。
これで「好きだ」ってちゃんと言ってくれれば、魔王様だって報われるじゃんか。
……なのに、あいつときたら、ほんっっっとうに駄目な奴だよなぁ。
『また馬鹿なことを……。今はそれどころではないことも分からんのか。勇者などという未知なる存在が間近にまで迫っているのだぞ』
『魔王様がやられるわけねーじゃん。魔王様だぜ? その気になりゃ世界をぶっ壊すことだってできるじゃねーか』
『だとしても、だ。あの御方に付き従う以上、無様な姿など見せられん』
『ふーん。好きな子にはカッコいいところ見せてぇってことか。超大好きってことね。魔王様に伝えておくわ』
『ええい、この馬鹿犬が……! 余計なことを吹き込んだら飯を抜くからな!』
けらけらと笑う俺に、あいつは珍しく真面目な顔をしてたっけ。
『……だが、そうだな。私はお前のように戦では役に立てないから……どんな形であれ、あの御方のお役に立てるのであれば、それで十分だ』
『お前は完全に内政特化だもんなー。俺は戦も嫌いじゃねぇけど、平和な世界だったらお前ももっと活躍できるのかもな?』
『平和な世界、か。まるで考えられんが……そんな世界で生きる魔王様を、見てみたくはあるな』
どっかで話聞いてたんかな? そーして選ばれた転生先がこの世界ってわけだ。
……いや、もしかしたらあいつのために創ったのかもしれないな。あり得そうだから怖ぇけど、たったひとりの男の発言でこんなことになるんだから……魔王様の愛、重すぎじゃね?
それに魔王様があんなにしおらしい女の子になったのだって、フィーアに好みの女を聞かれたあいつが「お前と違って、貞淑な女だ」って適当に答えたせいだぜ、絶対。鵜呑みにしすぎだろ、魔王様。たまにキャラが迷子になってんのも笑えるんだけどさ。
素直になれない魔王様が悪いのか。
超鈍感な従者が悪いのか。
その間に挟まれてる俺の苦労、ちょっとは知っといてほしいんだけどなー?
この世界でも俺ばっか損な役回りじゃんか。
あいつを取り立ててもらうために、学園での功績を親父に伝えまくったり。
あいつらは両片思い中のじれじれ期だから生暖かく見守ってやってくれ、って他の連中にも根回ししたり。
みんなノリノリだから良かったけどよ。そう考えると俺、この世界好きかもなぁ。飯も食えるし。魔王様も怒らせなければ可愛い女の子だし。
そもそも本当だったらあいつが王子で俺が従者ポジだったんじゃねぇの? 配役ミスってんだろ、魔王様。
当の魔王様は記憶があるんだかないんだかよく分からねぇし。……藪蛇になりたくねぇから突っ込まねぇけどさ。
んで、あいつはあいつで、相変わらず自分の気持ちを押し隠して「私はただの従者ですから」とか言ってんだから……ほんと、救いようのない鈍感野郎だよ。
でもまあ、いいんだ。
俺、あいつと魔王様のすれ違い漫才見るの、好きだったから。
あいつと魔王様と、みんなで馬鹿やってるの、大好きだったから。
だから今世でも、文句言いつつ楽しくやらせてもらってるけどさ。
でもなぁ……いい加減、そろそろくっついて欲しいんだよなぁ。
だってあいつらがくっつくの見届けようと思ったら、来世になりそうなんだもん。
――付き合ってらんねーよ!
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