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第1章 旅立ち
第4話 すべてはあなたのために
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ロユンの話にはほとんどついていけないし、栞里のことも気になるが、晴はとにかく愛のことだけを考えていた。何かで苦しんでいるのなら助けたい。
「……よくわからないんですけど、愛を助けるにはどうしたらいいんですか」
「晴!」
栞里が晴の腕を押さえて止める。
「受け入れてはだめ。どこにも行かないで」
すかさずロユンが口を挟む。
「簡単だよ。君が王になって、彼女を解放するよう命じる、それだけでいい。……コワでは王こそが法で、王が絶対だから」
最後の方は吐き捨てるような言い方だった。晴の肩に手を置き、栞里が必死に言う。
「晴、そんなことしなくても、母さんが愛ちゃんを助ける方法を考えるよ。お願い。ここにいて」
「他に方法はない」
ほとんど穏やかな表情を崩さなかったロユンが、そこで明らかに顔を歪めた。
「断るなんて選択肢は君たちにないよ。そんなことしたら愛ちゃんの命はない」
「え!? どうしてそんな……」
「連中はかなり過激だから。愛ちゃんに何をするかわからない」
命。命がかかっている。その言葉が晴の心に重く沈んだ。愛のために何かできると知って浮かれていた心が、現実に引き戻されたような感覚だ。
ロユンはソファの背もたれに深く体を沈めると、余裕の笑みを取り戻して続けた。
「それに僕の目的を果たすためにも君が必要なんだ。……この家は僕の部下が包囲している。この意味がわかるよね?」
栞里は、どうしようもないと頭ではわかっていながら、どうしても受け入れたくなかった。
晴との別れは辛い。大切に育ててきた娘だ。愛のことももちろん大切だが、そのために晴を得体の知れない場所に送り込み、そして晴すらも失ってしまったら……
「……どうやら、晴ちゃんの意思は固まったみたいだね」
ロユンが静かに言ったのを合図に、ロユンとマオはソファから立ち上がった。
「事態は一刻を争うからね。行くよ」
そして返事を待たずに、さっさと部屋を出ていってしまった。マオは黙ったまま、晴と栞里をじっと見守っていた。
晴が決心して立ち上がると栞里も慌てて立ち、晴の手を取った。
「母さ……」
「晴。こんなに大切な話を隠していて本当にごめんなさい。私はあなたの生みの親ではないの」
「え?」
「でも、晴は母さんと父さんの大切な娘だよ。血は繋がっていないけど、今まで過ごした時間が無くなるわけじゃない」
「……うん」
晴は母の真剣な目と目を合わせて、言葉を噛み締めるように頷いた。
「晴が行くって決めたなら応援する。あったかいごはんを用意して、待ってるから……」
今にも泣き出しそうな表情の栞里を前に、晴はたまらない気持ちになった。離れ離れになりたくない。栞里とちゃんと話をしたい。
でもまずは、愛のために。
「……うん。愛と一緒に帰ってくるよ」
玄関を出ると、リムジンのようなフォルムの黒い外車が停まっていた。
マオが晴のためにドアを開く。恐る恐る乗り込んだ晴は、車とは思えないほど広々とした空間に圧倒された。全体が高級感のある黒い革に包まれ、控えめな装飾が上品に輝いている。マオはドアを閉めながら晴の隣に座った。
ロユンが助手席に乗り込み、全てのドアが閉められるとすぐにエンジンがかかった。
(母さん……!)
後ろを振り返って、離れていく母の姿を見つめる。
栞里も、車が見えなくなるまでじっとその姿を見守っていた。
車はかなりのスピードで進んでいて、すぐに隣町までやってきた。しかし晴は不安と緊張で落ち着かず、周りを見る余裕もない。色々なことが起こりすぎて頭がパンクしそうだ。
そんな様子をミラー越しに見たロユンが声をかけた。
「無理やり連れてきてしまって悪かったね。でも本当に時間がないんだ。このままじゃコワは危ない。君の力が必要なんだよ」
あくまで晴の目的は愛を救うことなのだが、ロユンの狙いは別のところにあるようだ。
「……私は結局、何者なんですか?」
なんだか妙な質問になってしまったが、今1番気になっていることだった。
(父さんと母さんと血が繋がってないなら、私の親は?)
さっきは切羽詰まっていたので栞里の話をすんなり受け入れてしまったが、実の親ではないとはどういうことなのだろうか。
ロユンは前を向いたまま答えた。
「君は、コワから逃げ出した先代の王・ボンドの娘なんだ。彼は隠れて日本で暮らしていたところを見つかって襲撃された。それが今回の火事だ」
「…………」
「だから、火事で亡くなった夫婦が君の両親」
信じたくないが、2人とももう会えない相手だ。本当のことを何も知らないまま、永遠の別れになってしまった。
「じゃあ、愛と私は姉妹だったということですか……?」
「……これはあくまで僕の推測だけど。ボンドは君の存在を隠すために、一般人と入れ替えていたんじゃないかな。つまり君と暮らしていた2人が、愛ちゃんの本当の両親なんだろうね」
「…………」
信じ難い事実が次々と突きつけられている。父さんと母さんは愛の両親で、愛のパパとママだと思っていた人が自分の両親だった。そして愛のパパはボンドという元王様で、自分はその娘だから名前も知らない国の王族だと?
(頭がおかしくなりそう)
「とにかく、話の続きはあとだ。掴まって」
「うわ!?」
猛スピードで海沿いに出た車は、突然ぐらりと大きく揺れた。
(なに!? 浮いてる!?)
だんだんと地面が離れていくのを感じて、窓の外を見た晴は軽くパニックになった。車から飛行機の翼のようなものが生え、空に飛び立っている!
(こんな乗り物、初めて見た……)
それもそのはず、これはコワ独自の技術である。晴の反応に、ロユンは満足げに微笑んだ。
あっという間に乗り物は高度を上げ、地面が遥か遠くになってしまった。
もう戻れない。長い長い旅の始まりである。
「……よくわからないんですけど、愛を助けるにはどうしたらいいんですか」
「晴!」
栞里が晴の腕を押さえて止める。
「受け入れてはだめ。どこにも行かないで」
すかさずロユンが口を挟む。
「簡単だよ。君が王になって、彼女を解放するよう命じる、それだけでいい。……コワでは王こそが法で、王が絶対だから」
最後の方は吐き捨てるような言い方だった。晴の肩に手を置き、栞里が必死に言う。
「晴、そんなことしなくても、母さんが愛ちゃんを助ける方法を考えるよ。お願い。ここにいて」
「他に方法はない」
ほとんど穏やかな表情を崩さなかったロユンが、そこで明らかに顔を歪めた。
「断るなんて選択肢は君たちにないよ。そんなことしたら愛ちゃんの命はない」
「え!? どうしてそんな……」
「連中はかなり過激だから。愛ちゃんに何をするかわからない」
命。命がかかっている。その言葉が晴の心に重く沈んだ。愛のために何かできると知って浮かれていた心が、現実に引き戻されたような感覚だ。
ロユンはソファの背もたれに深く体を沈めると、余裕の笑みを取り戻して続けた。
「それに僕の目的を果たすためにも君が必要なんだ。……この家は僕の部下が包囲している。この意味がわかるよね?」
栞里は、どうしようもないと頭ではわかっていながら、どうしても受け入れたくなかった。
晴との別れは辛い。大切に育ててきた娘だ。愛のことももちろん大切だが、そのために晴を得体の知れない場所に送り込み、そして晴すらも失ってしまったら……
「……どうやら、晴ちゃんの意思は固まったみたいだね」
ロユンが静かに言ったのを合図に、ロユンとマオはソファから立ち上がった。
「事態は一刻を争うからね。行くよ」
そして返事を待たずに、さっさと部屋を出ていってしまった。マオは黙ったまま、晴と栞里をじっと見守っていた。
晴が決心して立ち上がると栞里も慌てて立ち、晴の手を取った。
「母さ……」
「晴。こんなに大切な話を隠していて本当にごめんなさい。私はあなたの生みの親ではないの」
「え?」
「でも、晴は母さんと父さんの大切な娘だよ。血は繋がっていないけど、今まで過ごした時間が無くなるわけじゃない」
「……うん」
晴は母の真剣な目と目を合わせて、言葉を噛み締めるように頷いた。
「晴が行くって決めたなら応援する。あったかいごはんを用意して、待ってるから……」
今にも泣き出しそうな表情の栞里を前に、晴はたまらない気持ちになった。離れ離れになりたくない。栞里とちゃんと話をしたい。
でもまずは、愛のために。
「……うん。愛と一緒に帰ってくるよ」
玄関を出ると、リムジンのようなフォルムの黒い外車が停まっていた。
マオが晴のためにドアを開く。恐る恐る乗り込んだ晴は、車とは思えないほど広々とした空間に圧倒された。全体が高級感のある黒い革に包まれ、控えめな装飾が上品に輝いている。マオはドアを閉めながら晴の隣に座った。
ロユンが助手席に乗り込み、全てのドアが閉められるとすぐにエンジンがかかった。
(母さん……!)
後ろを振り返って、離れていく母の姿を見つめる。
栞里も、車が見えなくなるまでじっとその姿を見守っていた。
車はかなりのスピードで進んでいて、すぐに隣町までやってきた。しかし晴は不安と緊張で落ち着かず、周りを見る余裕もない。色々なことが起こりすぎて頭がパンクしそうだ。
そんな様子をミラー越しに見たロユンが声をかけた。
「無理やり連れてきてしまって悪かったね。でも本当に時間がないんだ。このままじゃコワは危ない。君の力が必要なんだよ」
あくまで晴の目的は愛を救うことなのだが、ロユンの狙いは別のところにあるようだ。
「……私は結局、何者なんですか?」
なんだか妙な質問になってしまったが、今1番気になっていることだった。
(父さんと母さんと血が繋がってないなら、私の親は?)
さっきは切羽詰まっていたので栞里の話をすんなり受け入れてしまったが、実の親ではないとはどういうことなのだろうか。
ロユンは前を向いたまま答えた。
「君は、コワから逃げ出した先代の王・ボンドの娘なんだ。彼は隠れて日本で暮らしていたところを見つかって襲撃された。それが今回の火事だ」
「…………」
「だから、火事で亡くなった夫婦が君の両親」
信じたくないが、2人とももう会えない相手だ。本当のことを何も知らないまま、永遠の別れになってしまった。
「じゃあ、愛と私は姉妹だったということですか……?」
「……これはあくまで僕の推測だけど。ボンドは君の存在を隠すために、一般人と入れ替えていたんじゃないかな。つまり君と暮らしていた2人が、愛ちゃんの本当の両親なんだろうね」
「…………」
信じ難い事実が次々と突きつけられている。父さんと母さんは愛の両親で、愛のパパとママだと思っていた人が自分の両親だった。そして愛のパパはボンドという元王様で、自分はその娘だから名前も知らない国の王族だと?
(頭がおかしくなりそう)
「とにかく、話の続きはあとだ。掴まって」
「うわ!?」
猛スピードで海沿いに出た車は、突然ぐらりと大きく揺れた。
(なに!? 浮いてる!?)
だんだんと地面が離れていくのを感じて、窓の外を見た晴は軽くパニックになった。車から飛行機の翼のようなものが生え、空に飛び立っている!
(こんな乗り物、初めて見た……)
それもそのはず、これはコワ独自の技術である。晴の反応に、ロユンは満足げに微笑んだ。
あっという間に乗り物は高度を上げ、地面が遥か遠くになってしまった。
もう戻れない。長い長い旅の始まりである。
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