JK戴冠

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第4章 王さま修行 / 教会編

第53話 届けたいこと

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「あ、えっと……」

 晴はマイクを受け取りなんとか口を開いたものの、静まり返った民衆を前に頭が真っ白だった。

(が、がんばれ晴~~~!!!)

 手錠のせいで手を動かせないが、カファーは祈るポーズをしたいくらいだった。ジルとリグロは緊張した面持ちで見守り、イトカは無表情で無言を貫いている。

 しかし、ティナはこんな時にも躊躇わず沈黙を破る。

「おい、まず名乗ってみろよ」

 そのいつも通りの口調が良かった。晴はハッとしてマイクを握り直し、ゆっくり息を吐く。

「私は……」

 自分は誰で、どうしてここに来たのか。今までの旅路が空っぽだった頭を駆け巡り、ほんの少しの勇気をくれる。

 それで十分、最初の一歩を踏み出せる。

「私は、ボンド王の娘の晴です」

 時が止まったような沈黙があった。

 人々は驚き、会場はどよめきに包まれた。

「待て、何をするつも……」

 ザキが慌てて制止しようとするも、メイが彼のマイクのスイッチをこっそりオフにしてしまった。

 マイクは無線でスピーカーと繋がっている。それに干渉することなどメイにとっては容易い。まして教会は親王派の一部であるから、メイはここにある機械の全てを理解していた。遠隔で操作できるリモコンを持ち込めば造作もない。

(甘いね、持ち物検査がないなんて。ボクなら聖堂の照明を落とすことだってできるのに)

「代わりのマイクを持って来い!! 早く!!」

 ザキが慌てて部下に指示をするがざわめきは止まらない。教徒相手に王族であることをアピールされたら、教会に不利に働くかもしれない。

 しかしすでに鎧3人の承認も得ている。彼らがこれから何をしようと無駄だ。ザキは必死にそう言い聞かせた。

 沈黙が破られたことで少しだけ緊張がほぐれ、晴は言葉を続けることができた。

「私は皆さんに伝えたいことがあって来ました。皆さんはキレウィさんを慕い、信じ、この場に集まっておられるのだと思います。ヴィーゼルの一族を愛し忠誠を誓うあなたたちは、ち、父にとっても……叔父にとっても誇りであり、自慢の国民だったでしょう」

 ここまでは原稿通りだ。深く息を吸ってマイクを握りなおす。

「父は素晴らしい人でした。よく笑い、明るく、周りにいる私たちにも元気をくれる人でした。コワのこと、王様を辞めたこと、妻と娘のこと……。悩みは尽きなかったと思うけれど、それでもいつも笑顔で、自由に振る舞ってくれました。私は、コワのことはつい最近まで知らなかったんです。皆さんもボンドに娘がいたとは、知らなかったと思います」

 実の親子として過ごしてはこなかったが、それでも愛の父親としてボンドのことは少し知っている。それだけでも、彼は素晴らしい人だと自信を持って言える。

 愛も、頷いてくれるはずだ。

「父は人のことを1番に考えていました。家族はもちろん、他の人にも手を差し伸べる。全員が平等でみんなが幸せであるように……。それを実現するのは難しいとわかっています。父の方針が国の利益につながるかと言えば、そうではないのかもしれません」

 何を言っているのかよくわからなくなってきたが、とにかくボンドのことを思いながら言葉を繋いだ。心の中から出た正直な言葉を。

「でも、私はそんな父を素敵な人だと思います。いつだって優しさを忘れてはいけないと思うから。私は父を信じたい。父が目指した未来を叶えたい。でも、誰かを不幸にして叶える未来を私は望みません」

 そして、ボンドもそれを望まない。

「だから私は、皆さんを利用して無理やりに理想を叶えようとはしたくありませんし、しません。今の教祖さんがやっていることは……ま、間違っていると思うんです。今一度、考えてみませんか。他の人はどう考えるかとか、今までの王族とか……そういうのは一旦忘れて、それぞれで考えて欲しいんです。キレウィさんは、本当にこんなことを望んでいるんでしょうか」

 声が震えているのが自分でもよくわかる。それが余計に緊張を増幅させるが、ここでやらないとダメなんだと自分を奮い立たせた。守ってもらうだけじゃダメだと思ったから、晴は今ここに立っている。

「誰が誰を信じて慕うかは自由です。だけど、信仰によってあなたの価値が決まるわけじゃないと思います。あなたはあなたであることに価値があるんです」

 この言葉には、自分は王族であるから価値があるとは思いたくない晴の気持ちが込もっていた。

「キレウィさんを信じてるとか、ボンドさんを信じてるとか、革民党にいるとか……どれも自由だけど、それによって行動を制限されたり、家族と離れ離れにされるのは間違っていると思うんです。誰かが誰かを大切に思う気持ちは、誰にも邪魔できません」

 たとえ王様でも教祖様でも、好き勝手に人々の縁を引き裂くことは許されないのだ。そして許してはいけない。国は権力者のものではないから。

「国民が第一で、国民が幸せである国になって欲しいんです。これがきっと、父の願いでもあるはずだから」

 晴はまっすぐ前を見てそう締めくくった。


 まとまりがなく、話が飛び飛びでとても綺麗なスピーチとはいえない。だが、言いたいことはすべて言えたはずだ。終わったと実感した瞬間、一気に顔が熱くなってきた。

「お、終わりです。偉そうなことを言ってすみませんでした……」

 もう消えたい気分だ。つい熱が入ってしまった。随分と恥ずかしいことも言った気がする。

(消えたい…………!!)


 次の瞬間、猛烈な拍手が巻き起こった。


「素晴らしい!!!」
「晴すごーい!!」
「良かったぞ」

 国民は歓声を上げ、鎧たちも晴を讃えた。

「…………えっ」

 びっくりして言葉が出ず、震える唇を噛み締めながら会場を見回した。拍手が鳴り止まない。人々の笑顔が見える。

「……よく頑張ったじゃん」

 メイの言葉に一気に力が抜け、晴も笑顔になった。

(私、私……できたんだ!!!)

「えぇい、静かに……」

 ようやくマイクを手に入れたザキが声を上げる。だがそれを遮るように聖堂の扉がバン!と勢いよく開いた。

 一瞬で聖堂が静まり返り、人々が音のした方を振り返る。

 扉を開けたのは、息を切らしたエミレラだった。外のモニターで晴のスピーチを見届け、駆けつけてきたのだ。
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