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花奈の告白と

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 約束の日を迎えた大野家。
 これから花奈と精吸行為をするのだという事に、拓哉は落ち着かない様子で二人が来るのを待っていた。
 ――優香の時はいきなりで頭が追い付かなかったりしたから、こうして待つってのはなんか緊張するな……。
 普段している優香との精吸行為では慣れてきたのもあってこのようなことはないのだが、今回は花奈が初めてだというのも相まって少しソワソワとしているのだった。
 そこにインターホンの音が鳴り響く。拓哉は一瞬息を呑んだが、平然を装って応答する。
「来たわよ」
 彼は「今開ける」とだけ返して玄関へ向かう。
「いらっしゃい」
「お、お邪魔しますっ!」
 ドアを開けると勢いよくお辞儀をする花奈の姿があった。緊張しているのが拓哉にも目に見えて分かる。
 彼は苦笑いを浮かべながら二人を招き入れる。
「花奈、ずっとそんなだと後で持たないわよ?」
「わ、分かってるけど……っ!」
 そんな花奈の様子を見て、拓哉は逆に先程までの緊張が解れていくのを感じた。
「はぁ……とりあえず拓哉の部屋に行くわよ」
 優香はそう言って先に部屋に進んでいく。
「花奈ちゃん、大丈夫?」
「うっ、うん! 大丈夫!」
 ――ちゃんと決めたんだから。拓哉お兄ちゃんに気持ちを伝えるんだって……!
 昨日、姉にもあんな啖呵たんかを切ったのだ。後悔しない為にも、こんなところで震えている場合ではない。そう彼女は気持ちを切り替える。
「ちょっと二人共ー?」
 先に行った優香の声が響く。
「ああ――」
「今行くーっ!」
 返事を遮られた拓哉は少し驚いたが、花奈の表情に緊張の色が見られなくなったことに彼は安心して部屋へと向かった。

 優香に遅れて部屋に入る。すると先に待っていたはずの彼女が「それじゃ、後は頼んだから」と口にして部屋を出ようとした。
「え、お姉ちゃんはここに居ないの?」
「いや、誰が好き好んで妹と自分の彼氏がエッチするとこ見てなきゃいけないのよ……」
 その言葉に、拓哉も心の中でそうだろうなと同意する。
 花奈としても彼との性行為を見られるのはこれ以上ない程に恥ずかしいと思っているのだが、同時に初めての精吸に不安を感じている部分があった。
 何かあった時の為に傍に居て欲しいと。その気持ちは優香も理解している。
「もし花奈が暴走しちゃっても、私がしっかり止めるから」
 いざという時に備えて、彼女は母――佳奈から対処法を教わっていた。
「それに……」
「それに?」
「二人のを見てたら、私が我慢出来なくなって邪魔しちゃいそうだし♪」
 悪い笑みを浮かべる優香に、拓哉は「勘弁してくれ」と思わず口にする。
 一方の花奈はムッとした表情を見せる。
「昨日は独占はしないとかお姉ちゃん言ってたのに……」
「邪魔しない、とは言ってないでしょ? でも今日はちゃんと花奈に貸してあげる」
 まるで物の貸し借りをするように言う二人に、拓哉も溜息を漏らすが、文句を言ったところで特に優香には意味がないので諦めた。
「まぁそういう訳で私はリビングに居るから。何かあったら呼んで」
 あっさりとした口調で優香は告げると、そのまま拓哉の部屋を後にする。
 残された二人は互いに顔を見合わせるだけだった。

「――そろそろ始めようか」
 しばらくして拓哉から声をかける。
 花奈はドキリと心臓が跳ねたが、大きく深呼吸をして彼を見据える。
「その前に、拓哉お兄ちゃんに聞いて欲しい事があるの」
 一歩、前に出る。
「――好きです」
 ハッキリと。噛み締めるように。
「小さい頃から、ずっと拓哉お兄ちゃんのことが好きです」
「花奈ちゃん……」
「お姉ちゃんと付き合うって聞いた時は、なんでもっと早く言わなかったんだろうって思ったりもしたけど――」
 告白を続けていた花奈は抱き付くように拓哉の胸に飛び込むと、迷うことなく彼の唇にキスをした。
 ――ッ!?
 驚きと共に彼女を受け止める拓哉。だが、花奈はほんの一瞬で唇を離す。
「今は……精吸する間だけでも、私のことを彼女みたいに扱って欲しい」
 姉を煽るような事を口にしたものの、実のところでは二人の間に自分は入れないだろうなと彼女は思っていた。
 だから、せめて精吸行為をしている時は叶わなかった夢を見ていたい。そう考えていたのだ。
「……分かった」
 拓哉は少し戸惑い、その脳裏に優香の顔も思い浮かびはしたが、今は花奈の気持ちに応えることにした。
「じゃあ、もっとキスしてもいい?」
 上目遣いで聞いてくる彼女に、拓哉は静かにその唇に口付けをし、そのまま二度、三度と二人はついばむようにキスをする。
「続きはベッドでしようか」
 拓哉の言葉に、花奈はゆっくりと頷く。
 ベッドに近付いたところで、拓哉は彼女の服を脱がせるべきかと考えて目をやる。しかし彼が行動する前に、既に花奈が自分で着ていた物を脱いでいくのが見えた。
 あっという間に下着姿になった彼女は、拓哉と目が合うと恥ずかしそうに視線を下げる。
「ど、どうかな……?」
 頬を赤くしながら、可愛らしい薄いピンク色の下着を少し隠すように、もじもじと動く花奈。
 それに拓哉は素直に「可愛いよ」と答える。
「お姉ちゃんみたいに胸とか大きくないよ?」
「大きさなんて関係ない――なんてのは月並みの言葉だけど、俺は気にしないよ」
 苦笑いを浮かべながらそう口にする拓哉に、
「そこは嘘でも小さい方が好きって言って欲しかったけど」
 と花奈は少々不満気な表情を見せた。
 わずかながら姉に対抗心を燃やす彼女としては、この瞬間だけでも拓哉からそのような言葉を聞きたかったのである。
 だが拓哉としても軽々しく言えないものだ。
「もし優香に聞かれたら、後が怖いんだよなぁ……」
 ただ怒られるだけならまだいい方だ。彼はそう思っていた。
 ――優香のことだ。「そんなことを言う拓哉にはお仕置きだね♪」とか言いながら、アイツが満足するまで搾られるのが目に見えてる。
 普段から精吸によって搾り取られているのだから、そんな状況になるのは可能な限り避けたい。それが彼の思惑であった。
 花奈からすれば拓哉のその考えは知らないことであるのだから、不満を漏らすのも仕方のない話なのだが。

「……とにかく、俺は胸の大きさに好き嫌いはないからね」
「ケチ」
 抗議する彼女の表情に、拓哉は本当に優香に似ているなと感じる。
 だが彼も引き下がりはしない。自分の上着に手をかけて、さっさと脱いでいく。
「あ……」
 目の前で拓哉が――下着を残して――服を脱いでいくのを花奈は、思わず息を呑む。
 ――小さい時にお風呂で拓哉お兄ちゃんの裸は見た事あるけど……。
 それはまだ三人共が小さかった頃の話だ。
 幼馴染である拓哉と優香、花奈は一緒に過ごす時間が長かった。三人で入浴するのも多かったため、裸を見る事自体はこれが初めてという訳ではない。
 拓哉と優香が思春期を迎える辺りから、流石にそのような機会もなくなっていったのだが。
 久しぶりに見る彼の身体がその頃と全然違うという事実に、花奈の心臓はその鼓動を速くしていく。
「花奈ちゃん?」
 拓哉の声にハッとした彼女は慌てて目を逸らす。
「な、なんでもないよ! ほら、するんでしょ!?」
 誤魔化しながら下着姿のままベッドに身を預ける花奈。拓哉はその様子を少し気にするが、特に追及する事なく横たわる彼女の上に覆い被さる。
「っ……!」
 彼の顔が近付き、そのまま再び二人は唇を重ねた。

 しばらくキスを続けていたところで花奈の身体に変化が訪れる。
 優香よりも一回り程小さめだが、サキュバスの角や翼、尻尾が現れたのだ。
 ――ん……安心したら出ちゃった……。
 花奈はサキュバスに覚醒してから、まだ完全に身体の変化を制御出来ているとは言えなかった。
 初めて覚醒した時もそうだが、彼女はリラックスした状態だと自分の意思とは関係なく、今のようにサキュバスの身体に変化してしまうのである。
 花奈がサキュバス化した事により、キスをしている拓哉にも影響が出始める。
「くっ……!」
 彼女の唾液とサキュバスの気によって発揮される催淫効果。だが何度も優香とした精吸行為で、多少の耐性が付いてきている彼は本能に任せないようにこらえた。
「拓哉お兄ちゃん、大丈夫――」
 ふと拓哉の下腹部が花奈の視界に入る。そこには勃起した肉棒が、下着越しにその存在を主張していた。
「――我慢しなくていいよ、拓哉お兄ちゃん」
 彼が衝動を我慢しているのが分かった彼女は、受け入れるように拓哉の身体を抱きしめる。
「でも花奈ちゃんは初めてなんだから……」
「うん。だから優しくはして欲しいな」
 花奈はそう言って微笑む。

 我慢をしなくていいと言われた拓哉は、彼女のブラジャーを脱がしていく。それでもやはり勢いに任せたりはしない。
 再び優しく触れる程度のキスを一つ。続けて首筋、胸元と口付けをしていく。
「ん、ちょっと……あははっ!」
 くすぐったさに思わず花奈は笑ってしまうが、それでも段々と彼の唇が胸に迫ってくる感覚に鼓動が速くなる。
「あっ……」
 そして拓哉の唇が彼女の胸に触れた。と言ってもまだ乳輪にも触れていない。
 しかしその瞬間に自分から漏れ出た嬌声きょうせいに、彼女自身が驚いてしまった。
 ――うそ、まだちゃんと触られたわけじゃないのに……これで先っぽとか触られちゃったら、私……どうなっちゃうの?
 花奈のそんな反応を見た拓哉は、強い刺激にならないようにゆっくりと彼女の胸に指をわせる。
「んっ」
 撫でるだけで花奈の身体が震えた。
「花奈ちゃん、胸の感度いいんだね」
「恥ずかし、いっ……!」
 拓哉が胸を撫でる指に少しだけ力を加える。たったそれだけでも、彼女の身体を快感が駆け抜けていった。
「こっちも触ってみようか?」
 そう言って彼は指先を乳輪に近付ける。
 近付けただけで、まだ触れてはいない。それなのに花奈の乳頭はこれから味わうであろう快感への期待で、既にピンと硬くなっていた。
 頬を赤く染めて息が荒くなる彼女を尻目に、拓哉はそっと乳輪を指先や爪先でくように触れる。
「ん、ふっ……は、ッ……」
 じわじわと鈍い快感が花奈を襲う。
 そのもどかしさに、彼女はより強い刺激を求めて誘うような表情を見せる。
 ――花奈ちゃんもそんな顔するんだな……。
 小さい頃から知っている花奈のそんな表情に、拓哉は少し複雑な心境だ。優香はよく煽ってくる顔をするためそういうのは見慣れているが、彼女の煽情的な表情は初めて見るものだった。
 それでも彼は愛撫する手を止めはしない。
 触って欲しいとさらに存在を主張している乳首の片方を指で摘まみ、同時にもう片方へ一気に吸い付く。
「ひゃあ゛ぁあぁぁッ!?」
 待ち望んでいたはずの刺激の強さに耐えられず、花奈の身体は快感から逃れるようにして大きく震える。だが拓哉は逃すまいと摘まんだ突起をクニクニと指の腹で押し潰しながら、口にした方は舌で円を描くようにねぶっていく。
「や、それ――んんっ!」
 指で撫で転がし。軽く引っ張り。口で吸って。キスをする。

 反応を拓哉はもう少し見ていたくなるが、あまり意地悪をするのも悪いなと思い、そろそろと彼女のショーツに手を掛ける。
「……いい?」
 彼の問いかけに花奈は静かに頷くだけだ。
 ショーツを脱がせると、クロッチ部と濡れた陰部が粘度のある愛液の糸で繋がっているのが見える。それはもう陰茎を挿入するのには十分なほどに。
 だが拓哉は彼女を刺激に慣れさせるのと破瓜の痛み――サキュバスはそれをあまり感じないのだが――を和らげる為にも、いきなり挿入はせずに性器への愛撫をするべきだと考えた。
「触るよ」
 指先で愛液をすくい取るように付け、そのまま花奈のクリトリスへ指を滑らせる。
「あっ――ん、はぁっ!」
 まだ皮の上からとは言え、陰核に触れられた花奈を先程よりも鋭い快感が襲う。すっかり濡れた指で愛液を塗り広げるように上下、左右と動かしていくと、彼女は気持ち良さに無意識のうちに脚を広げて身体を震わせる。
 頃合いを見て、拓哉は膣穴の入り口に指先を挿入した。
「んあぁっ!?」
 処女膜を傷付けないように深くは入れない。それでも彼の指に、花奈の膣肉はまるでそれがペニスであるかのようにちゅうちゅうと吸い付く。
「こっちは待ち切れないって感じだね」
 彼女の身体はサキュバスの本能が精を求めて、受け入れる準備はすっかりと出来ている。
「た、拓哉お兄ちゃん……も、もう大丈夫だから……入れて……!」
 これ以上、下腹部――子宮の熱と疼きに耐えられない花奈は、拓哉の剛直を今すぐ欲しいと必死の表情で訴える。サキュバスからすれば、極限の空腹状態のままお預けをされているようなものだった。

「――分かった」
 そう応えた拓哉は指を抜き、正常位の位置に動いては亀頭を彼女の蜜壺に宛がう。
「それじゃあ入れるよ」
「うん……っ!」
 遂に、と花奈が息を呑む。
 その瞬間、彼の肉棒がゆっくりとだが、確かに入ってくるのを彼女は感じ取った。そしてある程度入ってきたところで拓哉の動きが止まる。
 処女膜の存在だ。
「花奈ちゃん、痛かったら――」
「いいから……早く……っ!」
 急かす彼女の様子に拓哉は思わず苦笑いを浮かべたものの、すぐに気を取り直して奥までペニスを挿入する事にした。
「一気に行くからね」
 そう言って腰を前へ突き出す。それまで抵抗していた処女膜も、ほんの一瞬で押し破られた。
「ッ……!!」
 破瓜はかの痛みが身体を駆け抜ける。
 だがサキュバスである花奈は、その痛みよりも気持ち良さの方が何倍も強い。そして何よりも嬉しいと心の底から感じていた。
 そんな彼女の心境を表すように肉襞が絡み付いてうねる。
「うっ、くぅ……!」
 ――まだ入れただけで……!
 比べる訳ではないが、優香と違ってそれほどほぐれていない膣穴の狭さに、油断して射精してしまわないようにと拓哉はなんとか堪える。
「……動くからね」
 しばらくして落ち着いたところで徐々に腰を振り始めた。
「ん、あッ、これ――いい、かも……ッ!」
 ゆっくりとした動きではあるが、膣内を刺激される感覚に早くも花奈は甘い声を漏らす。
 分泌される愛液の量は増え、段々と奥がその熱を増して拓哉が動く度に蜜壺からにちゅにちゅと音が鳴り響く。
「もう少し強くするよ」
 拓哉はそう言ってさらに腰を振る速度を上げた。
「う、んッ!? あっ、はぁっ! んんッ!!」
 花奈は膣奥を剛直で突かれ、頭の先まで快感が弾ける感覚が走る。そんな刺激の中でも彼女は拓哉の両手を取ると、自然と指先を絡めて――いわゆる恋人繋ぎ――強く握っていた。
 突然の事に彼も少し驚きはしたが、彼女のように扱って欲しいという言葉を思い出してそのまま受け入れる。
「苦しくない?」
 膣奥を突く勢いと手を握る力の強さに気を配りながら、花奈が気持ち良くなれるように動き続ける。
「あはっ! 気持ち良すぎて、こんなの知っちゃったらハマっちゃうよぉ!」
 彼女はすっかり、姉と同じようなサキュバスらしい姿、表情を見せていた。
「それなら良かったけど……」

 一方で、もう少し耐えられるかと思われた拓哉もそろそろ限界を迎えようとしていた。
 耐性が付き始めているとは言っても、サキュバスとのキスで生じた催淫効果と、強く締め付けてくる花奈の膣穴は彼の想像以上に快感をもたらしていたのである。
 そんな拓哉の状態を、震える肉棒から本能的に感じ取った花奈の身体は精液を搾り取ろうと、さらに肉襞を絡ませ子宮口が彼の亀頭に吸い付く。
「んっ、いつでも出していいよ♡」
 その刺激がトドメとなって精巣から一気に精子達が駆け上る。
「――ぐッ、出る……ッ!!」
 遂に鈴口から溢れ出す白濁した汁が彼女の子宮内を満たしていった。
「っ!♡♡♡」
 子宮に熱い精液が吐き出される感覚で、花奈も途轍とてつもなく幸せな気持ちと共に絶頂を迎える。
 ――あぁっ、これぇ……!
 堪らない、という表情を浮かべる彼女は、拓哉へ脚も絡めるようにして全身で抱き付いていた。
「はぁ……はぁ……」
 拓哉は最後まで射精しきったところで呼吸を整えて落ち着くと、少しばかり小さくなったペニスを引き抜こうとする。
「花奈ちゃん、これで――」
 一度休憩を挟もうと提案するはずだった彼の言葉は、最後まで口にすることが出来なかった。彼女の――サキュバスの目を見てしまったからだ。
 無意識のうちに発動してしまった相手を魅了する花奈の目を。
「ん、ふふっ……もっと頂戴?♡」
 まずいと思った拓哉だったが、その思考も一瞬で消えていってしまう。こうなってしまってはチャームの魔法を解除するまで、彼は本能のままに彼女に精気を捧げる事になる。
 だが、それはここにいるのが二人だけだった場合の話だ。
「やっぱりこうなっちゃうかぁ……」
 呆れるような声と共に、花奈は眠るようにして気を失った。それによって拓哉にかけられたチャームの魔法も無事に解除される。
「拓哉も気を付けなさいよね」
 その声の正体はリビングにいるはずの優香だった。
「悪い……助かった」
 魅了した際に発するわずかに魔力を感じ取った彼女は、暴走しそうになっていた花奈を母から教わった魔法で眠らせていた。
「貸し一つね♪」
「……分かったよ」
 思わず文句を言いそうになった拓哉だが、優香に助けられなければ今頃は暴走した花奈に、精気を――文字通り死ぬほど――搾り取られていたところだったと思い直し、素直に聞き入れることにするのだった。

 × × ×

「ん……」
 眠っていた花奈がゆっくりと目を開ける。その光景を見ていた拓哉は、初めて優香がサキュバスになった時の事を思い出していた。
「今、懐かしいなぁとか思ってるでしょ」
 優香の言葉に、思わずドキリとする。
「なんで分かんだよ……」
「アンタの考える事なんかお見通しってのと、あぁ私の時もこんな感じだったんだろうなーって、見てて思った」
 拓哉はなんだよそれと言いたげな顔をするが、それよりも今は花奈の方が心配だった。
「大丈夫?」
「あ、れ……私……?」
 起き上がった花奈は周りを見て、ここが拓哉の部屋だと再認識する。
 ――私、さっきまで拓哉お兄ちゃんとエッチしてて……お腹の中に熱いの貰って……それから……?
「いきなり精液を中に出されて、サキュバスの血が暴走しちゃったのよ」
 優香からそう告げられた花奈は血の気が引く。
「それって拓哉お兄ちゃんを襲ったってこと!?」
「チャームは使っちゃってたけど、本格的に発動する前に花奈を眠らせて解除したから、問題なし!」
 得意気な姉とは対照的に、花奈の表情は暗いままだ。
「今日はお姉ちゃんがすぐ助けてくれたけど、お姉ちゃんがいない時に暴走しちゃったら……」
「花奈の場合は今まで精吸してなかったところに、初めてシて中出しされたのが引き金になったんだから、これから慣れていくしかないわよ」
 優香は優しく言い聞かせるように語りかけながら、花奈の頭をポンポンと軽く撫でる。
 それを見て、こういうところはしっかり姉なんだな、と改めて感じていた拓哉はふとあることを思い付く。
「チャームが発動しても大丈夫なように目隠しするってのはどう?」
 頭に浮かんだことをそのまま口にした彼に、優香は「はぁ?」と呆れた顔で返す。
「妹にそんな特殊プレイみたいな事やらせるわけないでしょ」
「じゃ、じゃあ俺が目隠しを――」
「もっとダメな絵面じゃない! もう、拓哉は少し黙っててっ!」
 二人のやり取りを聞いていた花奈はしばし呆気に取られた後、さっきまであった不安も忘れて、思わず吹き出して笑ってしまう。
 そんな様子の彼女に、拓哉と優香も互いに顔を見合わせた。
「私も、目隠ししてる拓哉お兄ちゃんとはあんまりシたくはないかなぁ」
 そう言われた拓哉は複雑な表情をするのだった。

 しばらくして、眠っている間にサキュバスの姿から人間の姿に戻った妹の身体を、優香は念の為、何か変化が出ていないかを確認していた。
「――外見は普段通りね」
 姉に身体をじっと見られる事に、花奈は言い知れぬ気恥ずかしさを覚えてもじもじと動く。
「身体の調子は? 違和感あるところとかある?」
「え、えっと……お腹の下の辺りがなんだか温かいぐらいで、他は多分いつも通り……って言うか、むしろ調子がいいかも……?」
 彼女のその言葉を聞いた優香は「なら大丈夫ね」と言って頷いた。
 初めての精吸で暴走してしまった花奈。その影響で身体に思わぬ負荷がかかっていないかと心配するのは、これで完全に覚醒したと言えるサキュバスの血が、妹の身体にどういう影響を及ぼすか分からなかったというのが理由であった。
 大丈夫だと聞いた拓哉も一安心といった様子を見せる。
「でも今日のところはこれぐらいにして、あとは家でゆっくり休んだ方がいいわね」
「えー……」
 優香の提案に残念がる花奈。
「これで終わりじゃないんだから、まずは魔力が戻った状態の身体に慣れるのを優先すること」
 姉にそう諭された彼女自身も、その方がいいだろうというのは分かっていた。
「はーい……」
 渋々、といった様子ではあるが花奈は帰り支度を始める。

 二人の見送りに拓哉も玄関まで付いて行く。
「拓哉お兄ちゃん、今日はありがとね」
 花奈は笑顔で伝える。
 そこには彼が自分を助けるのに協力してくれた事だけではなく、彼女のように扱って欲しいという願いを叶えてくれた事への感謝の意味も込められていた。
「いや……とにかく、花奈ちゃんが無事でよかった」
 拓哉も優しい表情を浮かべて答える。
 そんな二人の様子に、優香は心の隅にモヤモヤとした感覚を持った。
「……拓哉」
「んぁ?」
「――さっきの貸し、忘れないでよね」
 文句の一つでも言ってやろうかと思った彼女は、直前でその感情を押しとどめる。
「あぁ、分かってるって」
 拓哉はそんな事かと言う風に返す。その返答に優香は溜息をいて「帰るわよ」と花奈に声をかけた。
「う、うん……。それじゃあ拓哉お兄ちゃん、またね」
「じゃあね。……なんだったんだ、アイツ」
 二人が帰った玄関で、拓哉は最後に見せた優香の不機嫌そうな顔が少し引っかかっていた。
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