無恥な愛

辛羅

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無恥な愛

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 「嫌ってくれて構わない」彼女はそう言って彼を突き放した。彼女は傷つくことを恐れ、また彼は無知な為に彼女を苦しめる。
 
 あまりの冷気に空気が白く霞む季節。
 つい先ほどまで穏やかに熱を発していたはずの身体は、感覚を麻痺させるほどの冷たい外気にやられ、指先に関しては痛みしか感じない。
 「寒すぎて死にそうだ。」
 先日付き合い始めた子にそう訴える。
 「そんなので死んだりしないわよ。」
 そう笑ってかえす彼女の笑みの中には、やはり鋭く尖った何かが自分に向けられているような気がした。それもそうだ。玲奈は僕を彼氏とは認めていない。気持ちをアピールする手段の一環として、付き合っていると勝手に僕が言っているだけなのだ。
 始めて玲奈を見た時から何となく分かっていた。たぶん、この子のこと好きになるだろうな、気持ちが膨らんでいくだろうな、と。そして昨日、感じ始めていた玲奈への気持ちを伝えた。
 「俺さ、玲奈のこと好きなんだけど。」
 「だから何?」
 その口調はとても冷たかった。僕に興味が無いのかな、率直にそう思った。心苦しく感じた僕は気持ちを紛らわせようとしてか、こう言い放った。
 「今日から俺の彼女ね。」
 「は?意味わかんないんだけど。」
 しかし、玲奈の優しな声色、雰囲気は現実を直視出来ない僕の心を都合よく解釈させた。そして今に至る。
 放課後、同じ高校に通っている僕らは帰路につこうと、エアコンのない、それでも集った人々から発せられる熱のおかげで温もった教室を出て校門までの道を歩いている。
 今日もここでお別れか。
 「また明日。」
 彼女の返す表情に期待を込める。
 「またね。」
 現実を見てしまえば辛くなるであろう僕の心を、その言葉は逃避させ、その笑みに誤解する。
 
 辺りは酷い冷気で沈む午前七時。いつものように身支度をし、もうすぐあの子に会えると気持ちを膨らませていた時、凍てつくような言葉が無音の声として幼なじみの奏斗から携帯に送られてきた。それは、まだ屋内にいて温もっていた身体を外気に晒したかのように感じさせた。
 「昨日、同じクラスの玲奈って子と付き合うことになった」 
 僕にとってそれは許し難いものであり、奏斗を恨めしく思う。 
 重い足を学校へ運ばなければならない時刻になり、玄関の扉を開ける。
 既に冷めているように思われた身体も、やはり現実には相応の温もりを帯びており寒さを感じた。一方、心はといえばより一層凍えた。
 
 「おはよう。」
 いつもの笑みをその女の子は僕に向けてきた。
 「うん、おはよう。」
 先日の挨拶と変わりのないよう意識して返す。
 教室の空気は既に来ている人で暖かくなっており、暑く感じた僕はすぐに上着を脱いだ。
 「あれ、もしかして私に彼氏ができたこと知ってる?」
  不意を突かれた。恐らくはいつもと雰囲気か何かが違ったのだろう。彼女は僕に笑みを向ける。細かなことに気付く彼女に今の僕の心情が分からないはずがないと僕は思い、一連の彼女の言動に不快感を感じた。
 「一応言っとくけど、私の彼氏は奏斗くんだからね。」
 今までの浮かれていた気持ちが益々、馬鹿らしく思えてきた。やはり僕に興味は無かったんだ。 
 そして、この言葉を最後に彼女に向いていた温かな感情は一気に消え失せた。この人のことなんてどうでもいい、そう思った僕は奏斗にメールでこう送った。
 「俺、玲奈にもう興味無いから。どうでもいいね」
 
 冬の香りも薄れ、春の気配を運ぶ風を感じる頃。奏斗の話を聞いていた。それは、些細な諍いで玲奈と別れるかもしれないというものだった。――そしたらさ、嫌ってくれて構わないからって言うんだよ。だからさ、だったら別れようかって言ったら、本当に別れようとするんだよ。どう思う?――

 明くる日、僕は無意識にある人を探していた。その子は珍しく一人、席に静かに座っていた。
 「おはよう。」
 あれ以来、全く会話をしていない。久々に声をかけてみた。
 「おはよう。」 
 彼女は笑みをこちらに向けた。その中にはかつてのような鋭い何かは感じなかった。
 「奏斗から聞いたんだけどさ。」
 そう言うと彼女は溜め込んでたと言わんばかりに言葉を吐き出した。
 「私ね、本当は奏斗くんのこと好きなの。でも素直になれなかったのよ。奏斗くんへの気持ちが強くなるほど不安になっちゃって。裏切られたらどうしようとかって、それで強がって言っちゃったのよ。」
  
 その日の放課後、彼女から聞いた事実を僕は奏斗に伝えた。まだやり直せるぞと言い、更にはこう助言してやった。
 「たとえ好きな人から嫌われようが、その人のことを思い続ける、それが大事なことじゃないのか?」
 彼は怪訝そうに言う。
 「お前が言うか?」
 
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