乗り鉄けもニキ

鷹尾(たかお)

文字の大きさ
40 / 41

くまどり電車

しおりを挟む
「あ、あの…神様。モトクマがどうなったかご存知でしょうか?オコゼさん達に食べられたと思うのですが。」

今までの電車とは違い、乗客は男性と山の神様しかいない。
電車のガタンゴトンという音が、やけにいつもより大きく聞こえる。

「部下はあやつを食べてなどおらぬ。お前から引き離して天国に連行したのじゃ。人間をこちらの世界へ連れてくるという殺人未遂の容疑でな。それに、あれだけ大きな騒ぎを起こしたのじゃ。しばらく人間界行きの切符は発行できんな。」

「待ってください!私を助けようとしてくれた事なんです。モトクマはずっと人間になるのが夢だったんです。なんとかこの電車に乗せて貰えませんか?」

「ならぬ。あやつの切符でお主が帰れば、殺人未遂はで終わるので良い。しかし、切符を持たぬあやつを乗せる訳にはいかぬ。あのホームにいた動物達の半数は、皆転生を目指して地道に頑張ってきたのだ。その者達を無視して、巨大化して駄々をこねたお主らに、簡単に切符を発行する訳にはいかぬ。」

もっともな意見だ。
棚ぼたの自分が感情論で手に入れて良いような切符では無い。

「分かりました。」

「あやつとのパートナー契約は一度解除する。罪人をこの神聖なくまどり電車に乗せる訳にはいかない。修行した後、新人と同様に筆記試験からやり直しじゃ。再びあやつが努力して、成果を上げるのを待つよりあるまい。」

2回目のチャンスは与えてくれると言う事なのか。
山の神様は厳しいようで実は優しい。

ガタン…ゴトン…。

電車が徐々に速度を落としてゆく。
もう人間界に着いたのだろうか。
きちんとみんなにお別れを言えなかった。
というより、ありがとうを言えなかった事が残念だ。
あんなに沢山の動物が自分を応援してくれたのに……。

「…!?どうした、なぜ止まる!」

神様が少し慌てた様子で運転席へ近づいた。
ここは目的地ではないのだろうか。

「電車すれ違いのための待機です。」

運転手のオコゼが神様に答えた。

「いつもはあちら側の藍色電車が待機しているはずだろう!」

「それが、7つの車両でシステムトラブルが起きているようで、大幅な遅延が発生しています。」

「どう言う事じゃ!?」

「ただ今エンジニアが各電車へ移動し、対応しております。詳しくはそちらから…。」

そう言うと運転手は、手にしていたスマホをスピーカーフォンに切り替えた。





「あ、お疲れ様です山神様。」

「どういう状況じゃ?」

「それがですね。7つの車両の両替機からお金があふれて止まらないんですよ。」

電話の相手であるモグラのエンジニアは、パソコンを片手に、紫電車の両替機を開いている所だった。
両替機の硬貨排出口からは絶えずお金が出ている。
モグラの横ではネズミ車掌がスマホを持ち、モグラの声を拾いやすいようにしていた。
滅多にないトラブルに興味を持った一般の動物達は、電車の外から様子をうかがっている。

「何じゃそれは!原因は?」

「それが…誰かが書いたレポートの価値が、ぐーんと上がった事が原因のようです。」

「レポートと言うと、動物達が車内で書いているものか?人間達の願いや夢を解析している?」

「はい。そのレポートが天国まで送信され、ひらめきのかけらとなって地上に降り注ぎますよね。どうやらそれを受け取った人間が、絵本を書いて投稿サイトにアップしたようです。」

「それで?」

「その絵本自体は、全然大した事は無いようです。ですが、それの読者に素晴らしい人が多いようで、読んだ人間がそれぞれの目標に向かって努力した結果、“世の中が少し良い方へ変わる”という未来のルートが出来たようです。その功績がとても大きなものだと算出されたようで、追加の報酬が機械から溢れ出ているんですな、コレ。」

「そのような事があるのか!?」

「通常追加報酬は、連動している財布に自動振り込みされるはずです。これも滅多にない事ですけどね。きっとレポート報告者の財布がパンパンなのでしょう。各車両に逆流しちゃってますからねw」

「一体誰なのじゃ…?」

山神は腕組みをしていた右手を口元へ当てて考えた。

「あの…すみません。」

男性が恐る恐る、山神に声をかける。

「ん?何じゃ。」

「なんか、財布が噴水なんですケドモ…。」

「「お前かい!!」」

山神とオコゼは、どんどん硬貨が溢れ出る七宝柄のがまぐち財布を見て、男性につっこんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~

たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。 たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。 薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。 仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。 剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。 ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

処理中です...