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不思議な三角関係

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「は、はぁ? お前何言い出しちゃってんだよ!」

 驚きのあまりか、男声丸出しでそういうバーベナのドレスの裾を、アリシアは掴む。

「仮にも、身代わりといえど、私の婚約者に向かってそんなことを言うなんて。不敬にも程があります!」

 気を取り直し、女声でそう言うバーベナだったが。明らかに動揺した様子だ。

「不敬は承知の上。しかし姫には私を罰する権限はないはずでは? 姫はあくまでお飾りの妃であり、『人質』なのですから」

 バーベナは眉間に皺を寄せ、グッと唇を噛む。

「それにその下品な言葉遣い。ロベリアの姫の品格が疑われますね」

 姫も身代わりの男だとバレてはいないらしい。日頃のバーベナの演技の賜物か、多少声を荒げたくらいでは疑いは持たれなかったようだ。

「それでもアリシアは、私の大事な人です」

 そう言い返したバーベナに、セオドアは絶対零度の笑顔を向ける。

「もしや姫は女性をお好みですか? しかし相手もそうとは限りません。アリシア、あなたはどうなのです?」

 突然水を向けられ、どう答えたらいいかわからず。もごもごと口ごもればセオドアに答えを急かされる。

「え、えと。一個人として言えば、異性が好き、ですけど……。あ、でも、姫のことは同志として、大事に思っています!」

「同志として、ですよね。それであれば、恋人という意味でのあなたの隣は空いているわけだ」

「とりあえず、セオドアはアリシアから手を離してくださる?」

 アリシアの横になるベッドを挟み、二人の男は火花を散らしている。困ったことになったと思いながら、アリシアは場を納めようとない頭をフル回転させた。

「セオドア!」

「はい、なんでしょう」

「とにかく今は、上位騎士に薬を盛った犯人を見つけなきゃでしょう? セオドアは、犯人の捜索に全力を尽くして! 私の方は大丈夫だから! それに疲れたし、そろそろ眠りたいし!」

「そうですね。ではまた、追って様子を伺いに参ります」

 ようやく彼の大きな手から解放され、ホッと息をつく。

「さっさと行きやがれ」

 そう小声で悪態をつくバーベナを目で諌めつつ。アリシアはセオドアが部屋を出ていくのを見届ける。
 彼が出て行った後バーベナは椅子に座り直すと、腕を組み、足を広げて男モードに切り替わった。

「アリシアはさ」

「なに?」

「俺のことどー思ってんの」

「だから同志……」

「違くて」

「ええ?」

 紫色の目がこちらを向く。不機嫌そうな顔をしていると思いきや、寄る辺のない子どものような表情をしていてどきりとする。

「異性として……男としてどう思ってんのかって聞いてんの」

「! それは……」

 なんと答えればいいのだろう。言葉が見つからない。彼のことは好ましく思っている。一緒にいる時間は楽しいし、彼に触れられると心臓の音が早くなる。できればずっと一緒にいられればいいとも思っていて。

 ––––でも、これを恋って呼んでいいんだろうか。バーベナのことを、異性として好きって言えるんだろうか。

 アリシアは恋をしたこともないし、誰かに愛されたこともない。今のセオドアの愛の告白のような言葉も、驚きはしたが戸惑いの気持ちが強いし、実感がない。

 バーベナへの気持ちとセオドアに対する信頼感は明確に違う。
 でもだからと言って、「異性としてキリヤをどう思っているか」というバーベナの質問に返せる言葉を持ち合わせていなかった。

 唇が震えて、言葉は紡げぬまま。答えられずにいるうち、バーベナは席を立っていた。顔を俯かせていて、表情は見えない。

「よく考えればさ。あんただってこんな女装男より、セオドアみたいな筋骨隆々の騎士がお相手の方がいいよね。お姫様みたく扱ってくれそうだし?」

「ちょ、ちょっと待ってよ、バーベナ」

「いいよ、気を遣ってくれなくて。よかったじゃん。あんたが自由になれる方法も一緒に探してくれるみたいだし? 守ってくれるって言うし」

「なんでそんな言い方するの?」

「別に? これまで色々と協力ありがと。今回の件で浮き上がった怪しい奴らのことは、俺の方でも調査を進めておくから。あんたはとりあえず寝てなよ。報告だけはするから」

 そこまで捲し立てるように言えば、バーベナは早足で扉の方に向かう。

「ちょっと待ってって」

「もう俺と無理に仲良くしなくていいから!」

 バーベナを追おうとして立ちあがろうとするも、傷のあまりの痛みに体が悲鳴をあげる。命に別状はないが、動けば支障がある程度ではあるらしい。

「もう、なんでこんなことに……」

 アリシアは両手で髪をぐしゃぐしゃとこねる。
 あれこれと悩んでいるうち、疲れが先にたったのか、アリシアは眠りに落ちていた。
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