バニーウォーカー_不老不死の郵便配達員 〜永遠の夜の伝言者〜

KUROGANE Tairo

文字の大きさ
17 / 24

第1通:永遠の夜に咲く青春_100年の青春をありがとう

しおりを挟む
 硫黄の流出を防いでいた亀裂の入った大きな石は、レイロンたちの調査により、地下に溜まっていた分は長い年月をかけて少しずつ抜け、今ではもう無害になっているらしい。

 呪いのイメージを払しょくするため、今後そこは、旅の名所として手入れされ、イーウェイの支援者たちが運営する庭園になるとのこと。

 カイランはレイロンの手配した街の病院で、治療を続けることになった。加護に重ねてさらに延命するような行為を受け入れるべきか悩んだが、取り戻した青春を1日でも続けるために受け入れることにしたのだ。

 レイロンが言うには、彼女が最後まで面倒をみるから心配ないとのこと。

 アレックスはレイロンの屋敷に居候しつつ、彼女の勧めで街中の配達をムーンキャリーで手伝うことになった。階段の多い街を駆け回り、体力をつけて人脈を得ることは将来的にも良いことだろう。いずれは、ノヴァ・トゥルースの捜査員としての訓練を受けるそうだ。

 イーウェイの食堂は支援者たちが経営を引き受けてくれることになり、彼女はムーンキャリー住み込みで働くことになった。

 また最近、妖狐族が文字の先生以外の仕事にもつき始めたことで、文字教室の先生が不足気味ということなので、文字を学ぶ機会がなかった子供たちや冒険者たちに向けての文字教室を不定期に開くことにもなった。

 彼女は生徒たちに狐ギャル先生コギャルせんせいと呼ばれ、開催日が決まるたびに予約で埋まるらしい。中には、本当に文字が書けないのか怪しい大人もいるが…郵便ギルドの窓口業務を兼ねた事務仕事と、文字教室でそれなりに忙しいが充実した日々になっている。

 ところで…ムーンキャリーはいきなり住み込み増やして大丈夫なのか?

 実はもともと人員が増えたときのことも想定して作った建物なので、新規メンバーを増やすちょうどいい機会だったのだ。

 ちなみに新しい食堂で働いていたフリータだが、彼もまたイーウェイガチ恋だったので、彼女に告白してみたが…

「いやー、100年以上フリーターとか、将来性マジないっしょー。ごめんねー。」

 と秒殺で失恋し、経営が支援者代表に変わった食堂でアルバイトを続けている。彼が極めたうどん打ちは、腰がないやわらかいうどんになり、薄味の出汁がよく染み込むと好評になるのだった。

 イーウェイは時間が取れれば、体が不自由なカイランの代わりに買い物をし、部屋に届けていた。

 さらにイーウェイとカイランは100年分の青春の空白を取り戻そうと、手紙のやり取りを始めた。手紙といっても郵便としてではなく、白葉バイイエに書いた文章をイーウェイがカイランの部屋に届け、彼の部屋にある白葉バイイエと交換するというものだった。

 2人の時の流れの差を感じさせない程、幸せな時間が流れていた。

 しかし、青春の終わりは突然訪れた…


***


 2年間の歳月が彼を変えた。かつての少年は、今や落ち着きと確かな自信を纏い、砂浜に静かに立っている。耳に届くのは、波が穏やかに岸を撫でる音だけ。手の中には、曾祖父の遺灰がそっと包まれていた。

 ルーリーのもとで配達員として街中を駆け回った日々は、彼の身体に基礎体力を刻み込んだ。その後、レイロンのもとで、ノヴァ・トゥルースの捜査員訓練に明け暮れた理由——それは、『アレックスとは別人だと信じさせなければ生き残れない』という、切羽詰まった状況に身を置いていたからだ。

 そうした積み重ねの結果、彼の身体は引き締まり、特に鍛え上げられた脚は健康的な力強さを宿している。成長期も重なり、身長は目に見えて伸び、少年から青年へと変貌しつつある。肉体だけでなく、厳しい環境と日々の鍛錬は彼の内面にも確かな成長をもたらしていた。

「ひいじーちゃん、ごめん…最後の時、傍にいられなくて…」

 言葉を紡ぎながら、彼はゆっくりと顔を伏せた。堰を切ったように、こらえていた涙が一筋、頬を伝い落ちる。

 あの時、曾祖父は加護の切れた寿命の果てに、レイロンとイーウェイの手を握りながら、まるで眠るように静かに息を引き取った。彼はその場に近づくことすら許されなかった。

 医療の術師たちが信頼できる者を連れてきていたとはいえ、元貴族としての彼の身を守るため、過激な市民の目から隠れる必要があった。居候を始めて間もなく、リスク回避のためにレイロンの養子となり、『レイアン』という新たな名を授かった。

 その名には、レイロンの一部を受け継ぎ、彼女が我が子のように見守る覚悟が込められている。別人として振る舞わざるを得ない彼は、カイランとの関係を疑われる行動を慎み、孤独な戦いを続けてきた。

 カイランの遺体が火葬される時も、ノヴァ・トゥルースの事務所でただ待つことしかできなかった。

 この世界では宗教が禁じられているため、火葬は宗教的な儀式ではなく、魔法と錬金術の力で遺体が素材として使われることを防ぐための処置だ。火葬後は指定された場所で散骨されるが、それはあくまで実務的な手続きに過ぎない。

 100年以上もだれかと繋がり続けた尊敬する曾祖父の最期に立ち会えなかったことは、彼にとって過去に虐げられた日々よりも深い痛みだった。

 ただ、唯一の救いは、散骨を委託できる取り決めがあったこと。舗装されていない険しい地形の外れで、体力的に散骨に行けない者も多いためだ。

 レイロンは重要な捜査で街を離れられず、イーウェイも憔悴を理由に行けないことにして、彼にその役目を託した。

 彼は人里離れた海岸で、限られた時間の中、アレックスに戻ることを許された。

 散骨を終えたレイアン…アレックスは、静かに右手の中指と人差し指だけをそっと伸ばした。残る三本の指は握りしめたまま、その伸ばした指先を額に軽く触れさせる。かつて曾祖父と交わした、身内にしか通じない特別な敬礼だった。

 海風にジャケットがはためくと、曾祖父から受け継いだ左脇のホルスター型アイテムポーチが、長い年月を経た色合いを見せている。

 遺灰の中には、イーウェイが託した別れの言葉を記した白葉バイイエが混じっていた。それは葬送の遺灰とともに、静かに水平線の彼方へと旅立つ。やがて、白葉バイイエは灰と溶け合うように、ゆっくりと姿を消していった。

 白葉バイイエに記された言葉は、静かに彼の胸に響いた。

 『100年の青春を、ありがとう――』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...