蜂蜜色の苦い恋人

橘 志摩

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27.蜂蜜色の苦い恋人

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 ピピピッと軽快な音を鳴らした体温計を、彼の脇から取り出してその表示を見る。
 数字は37.9度を示していて、ふうと溜息を着いた。

「……ぶり返さないでねって言ったのに」
「…ごめんなさい…」

 頬を赤く染めて、苦しげな息をこぼしながら寝ている彼に、笑みがこぼれる。
 言っても、煽ったのは自分だ、この人だけを責められる訳じゃない。
 それに、弱っている彼を看病できるのが自分だということが嬉しかった。

「なんてね、嘘。本当は、私も嬉しかったら、…抱いて欲しかったから、青葉のことだけ言えないの。謝らなきゃいけないの、私なんだから」
「陽菜は謝ることないよ、俺が、もうちょっと自制聞かせてればよかっただけの話なんだし」
「じゃあ、抱いて欲しいって思って、煽った私も同罪ね」
「…陽菜、」
「…今はゆっくり休んで。私、ずっとここにいるから」

 そう言って汗に濡れた彼の前髪を払うと、青葉は嬉しそうに顔を崩す。
 ごはんを食べさせて薬も飲ませたし、熱はすぐに下がってくれるだろう。
 下がらなかったらもう一度病院に行ったほうがいいかな。

 頭の中で色々考えつつ、夕食の支度をしようと立ち上がろうとした瞬間、その手をぎゅっと握られた。

「…どうしたの?」
「あのさ」
「うん?」

 くんっと、力のはいらない手で引かれ、再びその場に座らされた。

 視線を合わせると、青葉は何か楽しそうに笑った。

「明日さ、俺の熱が下がったら、一緒に出かけてくれる?」
「出かけるってどこに? 熱が下がってても大事とって休んだほうがいいよ」
「うん、でも、俺、陽菜さんのこと誰にも取られたくないからさ」
「青葉?」
「指輪。買いに行きたい。陽菜とお揃いの。それ買ったらおとなしくベッドに寝てるから。ね?」

 そう言って彼は、握ったままの私の手を口元に寄せた。
 左手の薬指にチクッとした小さな痛みが走る。

 青葉の唇が離れたそこには、赤く鮮やかな鬱血がついていた。
 それはいわゆるキスマークというやつで、それを自覚した瞬間、顔全体が一気に赤くなった。

「陽菜は、もう俺の。誰にもやらない。だから、早くここに、俺専用の印、つけたい」
「…あ、青葉…」
「…俺さ、陽菜より年下だし、頼りないかもしれないけど」

 これから先ずっと、陽菜のこと守るよ。

 熱をだして苦しいくせに、風邪を引いて弱ってるくせに、なんてことを言うんだろう。
 顔を真っ赤に染めたままの私はその言葉に何も答えられなくて、はくはくと口を動かしてしまう。

 だがすぐに、諦めた。
 結局、私は私を最大限に甘やかしてくるこの年下の男の子には弱いのだ。
 抗うことを考えるだけ無駄だというのはもう、理解した。

「……だったら、絶対、その熱今日中に下げてね。…私も、青葉専用の印、欲しい」

 私の言葉に彼は、力強く頷いた。

 甘くて甘くて、だけど少し苦い。
 表面は蜂蜜色なのに、味わうと甘味の中に苦味がある可愛くてかっこいい年下の男の子。

 愛しくて止まない彼は、今、私の恋人になりました。





 fin.
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