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ひどいわ、あなた
しおりを挟むハンナは今はとても幸せだ。今日も愛する夫、ダニエルと夜の営みでお互いに愛し合っている。
「あなた、いいわ。もっと頂戴。あなたの愛をもっと……」
「本当にお前はおねだりさんだな。カワイイやつだな、お前は。よし、要望どおりたくさん可愛がってやるとするか」
「ああ、あなた……。いいわ、いいわ。もっと、もっと……」
ハンナとダニエルはつい最近、結婚したばかりだった。要するに今の二人は新婚ということだ。
新婚の男女ならば、動物のように体を求めあうのも納得がいく。
そう、まさに今、二人は動物のようにお互いをむさぼりあっていた……。
そして……
二人の激しい愛し合いも終わり、夜も更けてきたころ……
「あなた、今日は本当に激しかったわ。私、もうクタクタよ」
「ああ、そうだな。今日はいつも以上に気合が入ってしまったようだ」
「ああ、それほど私のことを愛してくれているのね、ダニエル。私は嬉しいわ」
「……。それにしても今日は外の月がきれいだな」
「あ、ああ……。そうね。今日は満月だから外もいつもより明るく見えるわね」
ダニエルはなにか少しだけ真剣な顔をしている。どうしたのだろうか。
「ダニエル? どうしたの。そんな怖い顔して」
「そうか、今俺は怖い顔をしていたのか……。そうか、そうか」
「どうしたのよ、ダニエル。いつものあなたじゃないわよ……」
「いつもの俺じゃない、か……。確かにそうだな」
ダニエルは含み笑いを作り、私の顔を見つめてくる。
「今日はお前に話があってな……」
「話ですって……。なにか大事な話でもあるのかしら」
「ああ、大事な大事なお話がある。二人の今後に関わってくる大事な話がな……」
「ど、どういうことなの!?」
「正直に言うぞ」
「…………」
「俺はもうお前を愛することはできない。だからこの家を出ていこうと思う」
「な、なにを言っているのよ、ダニエル。あなたは正気なの??」
「ああ、いたって正気だよ、ハンナ。俺はお前をもう愛することができなんだ」
「どうして? 今日はあんなに激しく愛し合ったというのに。どうしてそんなひどいことを言うのよ?」
「ああ、今日が最後の日になると分かっていたから、存分にハンナの体を最後に楽しんでおこうと思ってな。ああ、最後の女と分かってヤルのはやはり格別だったなぁ……」
ダニエルはにちゃぁといやらしい笑みを浮かべる。彼がそんな顔をしたことは今までで一度もなかった。
「何を言ってるのダニエル!! 冗談もいい加減にして頂戴!! これ以上ふざけたことを言うのならぶつわよ!!」
「ああ、そうか、そうか。俺はぶたれるのか。ああ、それは嫌だなあ」
「そうよ。私は嘘は言わないわよ。これ以上の戯言を言うのなら私はためらわずあなたをぶつ」
「それじゃあ、俺はぶたれたくないから、今すぐにこの家を出ていくことにするわ。じゃあな」
ダニエルはそう言うと、簡易な服を身に着けてそそくさと部屋から出ていった。一度も後ろを振り返らずに……
「えっ……。ちょっと待って。今もしかして……ダニエルは本当に私の部屋から出ていったの??」
私は急展開で彼がいなくなったことを、受け入れられないでいる。目の前にある現実が非現実としてしか考えることが出来ない。
「ダニエル!! ダニエル!! ダニエル……」
私の目からは大量の涙があふれだしてくる。頭では彼が私を置いて出ていったことを理解できていなくても、体は分かっているようだ。涙が止まらない。どんどんと溢れてくる。
「ああああああああああああああああ」
その日、私は絶望という言葉の意味を初めて知ることになった。
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