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「ねぇ、私はアリス王国の公爵令嬢なんだけど、私とエッチしてみない?」


 私は何を隠そう、正真正銘の公爵令嬢だ。父親はアリス王国で最も広い土地を治めている公爵で、私もそれなりに名の知れた御令嬢である。


 しかし、遠い旅先の地では私の顔と名前を知っているものなど1人もいない。私はそう、そんなあまりにも離れたところに1人で旅にきてしまったのだ。


 お父上には内緒で、少しの反抗心というか、私もそんなお年頃なのです。家に閉じこもってばかりの生活では人間ダメになってしまう。本を読んで、たくさんの価値観に触れた私は、当然のようにそれに耐えきれなくなり、懇意にしていたメイドさんに手伝ってもらって、旅という名の脱出に成功したのでした。


「お嬢ちゃん、嘘はいけぇぜ。公爵令嬢がこんな辺境の地にいるわけねぇ。もっとマシな嘘を考えてくるんだな。だが、なんだって? エッチがしたい? それは本当かね??」


「ええ、私、これでも生娘なの」


「これでもってか?? いやいや、ぱっと見どうみても生娘じゃねぇか。お嬢ちゃんは面白いやつだな」


「それで? エッチしてくれるの?」


「あ?? それ、本気で言ってるのかい? こんな男っけのある酒場で言うようなセリフじゃねぇ。本当にお嬢ちゃん食われちまうぞ」


「あら、それならあなたが貰ってくれない? 私の処女。他の男のかたから私を守って欲しいな」


「…………こっちへこい」


「あらら、そんな真剣な顔しちゃって。やっぱり男って、どいつもこいつも『男』なのね」


 私はそう言って、いかつい体をした、しかしそれでいてとても誠実そうな方の後ろについていくのでした。


 そして、その夜。私は抱かれました。


 出会ってばかりの男性の方に。激しく、バックで騎乗位で、松葉がえしで。


 いろんなことを教えてもらいながらセックスに耽りました。


 公爵令嬢の私でいた頃には、到底経験し得ないことを、この短時間で全てやり尽くしてしまった、そんなかんじ。


「ああんっっっ。エッチって!! セックスって!! こんなに気持ちのいいものなのね!!!」


「ああそうだ、セックスがあるからこそ、こうして人間は繁栄し続けられているんだ! セックスは人間の根源にあるものなんだ!!」


「そうなのね!! お父様ったらこんな気持ちのいい娯楽を私から遠ざけ続けていたなんて!!!」


 パンパンパンパン……


 その夜はずっと宿屋の一室で瑞々しい果実が弾けるような、爽快感あふれるリズムで、さまざまな音が鳴り続けた。


 彼女の人生は、今後そういった音で溢れかえっていく。


 公爵令嬢は二度と戻れない。


 旅は麻薬だ。

 セックスは麻薬だ。

 どうか、幸せな人生を。

 幸せなセックスを。
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