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ダメ元で召喚魔法陣使ってみた

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 俺の名前は葉隠太一。普通の高校生といえば高校生なのかもしれない。

 今、俺は自分の部屋にいるわけなのだが、目の前には一つの複雑な模様が描かれた一枚の紙が置かれている。

 これは俗に魔法陣と呼ばれているものだ。ファンタジー世界を描いた作品のなかには必ずといっていいほど登場する。

 しかし、この現実世界における魔法陣はほとんどが機能しないただの紙切れである。

 大抵は子供がアニメや漫画に感化されて自分でお絵描きをしたり……、あるいは大の大人がオタク趣味として買い漁ったりするなど……


 こういった用途や目的で現実世界においては魔法陣が消費されているわけだ。


 ということは俺もそのうちの一人なのかもしれない……。



 俺がこの魔法陣、詳細に言うと、この召喚魔法陣を手に入れたきっかけになったのは、最近になって発売された新刊のライトノベルだった。


 作者はすでに複数の作品がアニメ化されている、ベテランのライトノベル作家であり、彼の書く作品には絶対の「おもしろさ」が保証されている。


 今回の新作は簡単に言うと異世界から王女様がやってきて、こっちの世界で楽しく生活を満喫するといった内容だった。

 
 非常にシンプルな内容ではあったが、作者の凄腕により、かなり完成度が高く面白い作品に仕上がっていた。


 そして俺はこの作品の世界に浸ってしまい、ものすごく興奮してしまったというわけ。


「俺も異世界の王女様とウフフな生活がしたい!!」


 こんな感じでね……。


 まあこれは誰にでもよくある体験だし、俺がキモオタだからとか、そういうことは言わないでもらいたい。


 こうして俺はそのオタク特有の願望を抱きながら、毎日を過ごすことになったわけだ。


 そして、そんなときに俺はTwi〇〇erであるもの見つけてしまったのだ。



メ〇カリ珍百景



 たしかアカウント名はこんな感じだったと思う。


 そして、そのときにタイムラインに流れてきたバズツイはまさに俺が求めて止まない代物だったのだ!!


___________________

いやコイツ普通に頭イってるだろwwwwwwwww

(以下はスクショの内容)

商品名:召喚魔法陣

値段:50万円

商品説明: 
 
 写真を見て頂くと分かると思いますが、これは本物の魔法陣です。

 私は一切嘘をついておりません。

 私が自分の力で書き上げた魔法陣です。


 実を言うと、私は未来からやってきました。今から200年後の日本から、です。


 その頃の日本でもオタク文化は衰えておらず、いや、衰えるどころか経済活動の大半を娯楽文化、もといオタク文化が占めています。

 驚くかもしれませんが、今から200年後の世界では人類のほとんどが働かなくても良い世界になっています。


 そのために娯楽文化が経済活動の大半を担っているのです。


 残りの文字数も少なくなってきましたので、結論を言います。


 信じるか信じないかはあなた次第です。


 買っても買わなくても、どっちでも構いません。


 私はお小遣いが欲しくて過去に戻って来て自分の書いた魔法陣を売りたくなっただけなので……


 どうぞお好きになさってください。


 あ、説明書は同封してあるのでご心配なく。


 それではさようなら。


 あ、買うなら早く買ってくださいね。私はあなたたちと違って暇人ではないですので。

 ではでは。

 未来から来た人 より。


______________________


 ざっと要約するとこんな内容だったような気がする。


 俺はこのバズツイを見たとき、なぜかこれが本物のような気がしてならなかった。オタクの感というやつだ。


 まったく頼りにはならないが……


 ただ、俺には金があった。


 小学校低学年のころから、どっぷりとオタク文化に浸っていた俺を舐めてくれては困る。

 
 あらゆるオタク的手段を使って俺は今まで、ガッポガッポに稼いできたのだ。


 そんな俺にとっては、50万円などドブに落ちている100円玉のようなものだ。


 そういうわけで、俺はこのバズツイを見た瞬間的にメ〇カリに飛んで、迷わずに即購入した、というわけだ。



 …………



 こういう経緯で今、俺の目の前には召喚魔法陣が置いてあるわけだ。


 説明書も手書きのがしっかりと同封されていた。


 うん、この出品者からは善意が感じられるな……


 うんうん……


 きっと上手く魔法陣は動くさ……



 俺は迷わず購入はしたが、購入はしたといってもダメ元で、だ。


 この出品者を100%信用して買ったわけでは当然ない。



「頼む!! ダメ元ではあっても、せっかく買った魔法陣なんだ。動いてくれよ!!」


 俺は説明書を読み詠唱を開始する。



「来たれ!! はるか遠くの異世界より!! 俺が望む異世界に住まう美少女の王女様よ!!  来たるからには俺とこの世界でラブコメしろ!!!」 



 俺は胡散臭い、いかにもなセリフを口にした。


 そして詠唱から10秒の時が経とうとしていた。


「…………。やはりだめだったか……。現実はやはり世知辛いな……」


 そう悲嘆しかけた瞬間だった。


 魔法陣からまぶしい光が四方八方へあふれ出しているではないか!!



「な、なんだこれは!! ま、まさか!! これは!! まさか、なのか!!」


 魔法陣から発せられる光は次第に部屋全体を飲み込むようになった。


 そしてまた、高周波数の音も発生しだした。



 リーーーーーンと、次第に大きくなる音が部屋に反響する。



「来るのか!! 本当に来てしまうのか!! どうなんだ!!」


 俺は高鳴る胸を落ち着けることが出来ない。興奮を抑えることが出来ない。



「来い!! 異世界の王女様!! 来い来い来い来い!!!!!」


 すでに目を開けることが出来ないほどに光が部屋を満たしてしまっている。




 そして……… 




 俺は魔法陣から発せられていた光と音が落ち着いたのを確認すると、ゆっくりと目を開けることにした。


 すると……。


 そこには一人の美しい高貴そうな服を身に着けた女性がいるではないか!?


「本当だった……」


 俺は感動のあまりそれ以上の言葉が出てこなかった。


 彼女は突然に切り替わった視界に困惑しているのだろう。俺の部屋をキョロキョロと心配そうに見渡している。


 そして………



「あの、ここは一体……。あなたは誰なのですか……??」


 彼女から美しく透き通った声が俺に向けて発せられる。


 それを聞いた俺は、感動のあまりに……



「やったぞおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


 異世界から召喚された王女様の前で、失礼ながらも大声で雄たけびを上げてしまうのだった……。
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