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第15話 心内エクスタピー

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悪夢から覚めた信二は、茜のぬくもりを感じながら二度寝をかましていたが、最後の登校日のために登校しなけらばならなかった。

 

 そうだ。明日からは夏休みだ。

 

 信二にとって高校生2回目の夏休み。しかも初めての絶賛二股中での夏休み。



 信二の胸は期待に胸が膨らむ一方で、それとなく不安な気持ちも漂っている。

 

 予定が被ったりして怪しまれたりしないだろうか、とか。



 こんなに長い期間あるんだから、予定が被ることなんてそうそうないし、被ったとしてもそこまで怪しまれないよね、とか。



 まぁ、浮気男にとってはあるあるのことを信二も体験しているといったところだろうか。



 当事者の信二はそんな感じで少しの焦燥感と優越感とでもいうのだろうか。そのような浮ついた様子で夏休み前日の学校へと、茜と一緒に登校していった。

 

 朝帰りならぬ、彼女の家から彼女と一緒に高校に登校する男子高校生なんて、全国津津浦々の男子高校生の怨念で呪い殺されてしまいそうだが……



 呪い殺されるのは、まだまだ信二には早いだろう……





★★★★★★★★★★★★




 信二は茜の胸の感触を、特に二の腕あたりで丹念に味わいながら、登校を終えて……



 2限目の世界史の授業を受けていた。




「え~。であるからして……。歴史は繰り返すということが一番の歴史から学べる教訓であるからして……。わたしたちは世界平和を謳うことを前提にしながらですねぇ、来るべき世の乱れに準備しなくてはならないわけですよ。学校における教育、こと受験勉強なんてものは右から左へ流してうまく世渡りしてもらってですねぇ

。君たちにはこういう既存概念を揺らがすようなレベルでの教育をしてあげたいものなんですよぇ~」




 世界史の先生は、授業中かならず一回はこのような受験戦争批判を挟む。正直もう聞き飽きた下りなのだが、言っていることとしては共感しかないので、特に反論はない。



 ただ、話に幅のない授業は、たいして既存概念など揺さぶられるものではないのでそろそろ退屈にはなってきている。



 それがクラスメイト全体の所感だ。



 もちろん、信二もそのうちの一人だ。




「え~。そこでですね。私は思うんですよ。果たして先生の役割とはどのいったものなのかと。このような時代に生きる我々、先生としてのあるべき姿とは何なのか」




 先生の授業はある種、自問自答に近いところがある。それを永遠と聞かさせる生徒の身にもなって欲しい。校長先生のありがたいお話は、校長先生だけでいいのだ。




「私どもとしても、今の教育にかなりの不満を持っているのです。点取り競争というゲーム性のなかに埋もれてしまっていい代物ではないんですよ、学問というものは! なかにはこう言う人もいます……『今の子たちはそんな熱血教師、望んでいないんだよぉ。見てみろよ、今のクイズ番組のムーブメントをよぉ。あれが日本人の総意なんだよ。儲からないことはやらないテレビ局のことだ。あれやるとがっぽり視聴率稼げるからやってんだろ。だから、そういうことだよ。学問の本質がクイズ番組とか受験勉強にあるって思ってるやつらが増えてきてるから、クイズ番組なんてもんが巷に蔓延ってるんだよぉおおおおおおお!!!!』。私は心底そのような人たちを軽蔑しています……」




 やばい。世界史の先生、いつにも増して熱血してらっしゃる。前衛に控えている学生に、これでもかというほど、唾の飛沫を飛ばしている。



 今の時代にはありえない反エチケット主義だ。こんなのやってまだ、この先生が生き残れてるこの自称進学校は前時代的なのかもしれない。




「先生ともあろうものが、そんな憶測でものを語って良いはずがありません!!!」




 あ……、そのクイズ番組批判してる人。学校の先生だったんだ。





「柏木ぃ!!!!!あとで職員室でズタボロにしてやるからなぁああああ!!!!」




 ああ、実名出しちゃったよ。しかもこれ、倫理・政治・経済のサブカル好きのおじいちゃん先生だよ。●袋のピンクの映画館に入り浸ってるとか噂のザ・昭和世代の先生だよ。駄目だよ、その年で血圧上がるような議論交わしちゃ……




「なに諦めんてんだよぉおおおおお!!!現実直視できる頭あるんだったら、世の中変えるために何か行動でもしたらいいじゃないですかああああ!?大学では哲学とかいう御硬い学問、専攻してたんでしょぉおおお!?だったらさぁ森鴎外の諦念?諦観?だっけ。その言葉見習って、自分の信念だけには嘘つくようなことすんなよ!!!諦めた数だけ大人になるっていう言葉の典型的な例だよ!あんたはぁああああああああああああああああああ!!!!」




 世界史先生ヒートアップ



 俺らの心はクールダウン



 今日も今日とてブルースカイ



 鳥は既に消え去って



 残るはブラックギャラクシー



 談論好きのおじさんは



 思いの丈を吐きつける



 こうして乱れる人間模様



 そこには決して踏み入るな



 承認欲求解消は



 大事な人といることで



 すぐに解決あらハッピー



 飲んでくれるな安ホッピー



 家にまっすぐ帰りなよ



 世知辛いよね世の中は



 今日も今日とて……




「俺たち先生が、子どもたちに何を残してあげられるか考えようよ!!!!!!!柏木ぃいいいい!!!!!!!!」




 思いの丈を叫ぶのです




 …………



 …………





(ふぅ……なんかこの人見てると。いろいろと考えさせられるな……)





 信二はそんなことを思いながら、机の引き出しの奥にしまった手紙を取り出した。




 それは言わずもがな、とでも言うべきだろうか。。。



 昨日の昼休みの体育館の裏での出来事。



 西園寺佐奈からの告白について返答を求める手紙だった。




(僕は覚えてたから、今日中に返事をしに行こうと思ってたんだけど。今日で学校最後ってことに彼女も気がついたのかな。手紙をまた書いてくれるなんて。ちょっと悪いことしたかな。僕が優柔不断なところもあったからな。男だったらすぐにあの場で伝えるべきだったよな)




 信二はその文面を読み返す。




★★★★★★★★★★★★




 終業式が終わって放課後になったら、第二校舎裏で待ってます。返事を聞かせてほしいです。




★★★★★★★★★★★★





(僕の考えはもう決まってる。今朝はあんな悪夢も見たけど、僕は僕の道を進むって決めたんだ。どんなことがあっても、自分が納得するまでこの恋を続ける。これが僕の今の、恋愛に対する考え方だ……)




 果たして信二はどのような選択をするのか。決断を下すのか。




 世界史の先生のせいで、少々落ち着かない心持ちの信二ではあるが……





(僕はもう前に進むしかないんだ)





 どこまでも青い空が、青春を青く染め上げる夏休みの前日。



  

 信二にとって、初めての、慌ただしい夏休みが始まることは……



 

 間違いないようだ。





「さて、どうするかな」





 信二の静かな声がかき消されるような2限目の時分。




 ツイッ●ーのような役割を果たしている、この特殊な教室という空間のなか。




 高校2年生という青春がただただ、一方的に流れていった……
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