怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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昔話2 弘の話

犬神 7

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犬神いぬがみが人為的に作り出すことができるものであるとする伝承がある、ということは、犬神いぬがみは作り出すことによって何かしらの利益を受ける人間がある怪異であると考えられる。犯罪捜査におけるCui bono?誰が得するかに似た観点から、そうした利益を受ける側の人間を犬神いぬがみきと判別したわけだけど……犬神いぬがみ外道げどうと言われた通り、一般的認識における正道せいどうではない、つまり邪法じゃほうと解された霊能力でもある」
賢い女wise woman魔女witchの違いみたいなところがある?」

たぶん断片的に拾い上げて考えているはずのロビンが、目を細めてそう言った。

「そうだね。もともと古くから日本の各地には非正規の、つまり寺社仏閣に属さない霊能者というのは存在していたんだ。さっきひろちゃんが言ったあずさ巫女みこ、歩き巫女みこは流浪をともなうそうした霊能者の一種だ。流浪をともなわずに定住するものもある。有名なのは恐山おそれざんのイタコかな。アレも同じく非正規の霊能者である市子いちこなまったと考えられているけれど、どちらも寺社仏閣という霊能における権威の正道せいどうには属さない。つまり、本来的にはローカルな民間信仰の域を出ない。西洋の教会に対しての白も黒もひっくるめた魔術と同じ、外道げどうの側なんだ」
「……なるほどI see.。立ち位置はわかった」

つまり、とロビンが言う。

「寺社仏閣に属さないあらゆる霊能者は犬神いぬがみきとされる可能性がある、ってことだね」
「……はい?」

ひろが目を丸くしてロビンを見た。
そして、信じられないという表情で僕の方に顔を向けた。

「……まあ、乱暴ではあるけど、そういうこと。正道せいどうにおける異質性はその権威で聖性としか解釈されないけど、正道せいどうでない異質性は聖と邪の両義性を持つから」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
「うん? ひろちゃん、やっぱり受け入れがたい?」

混乱しているひろに向けてそういえば、図星らしく、うっ、とひろは言葉に詰まった。

「慣れてるからいいよ。理屈は理性で考えられるけど、感情的に受け入れられるかは別だからね。けれど、霊能力というのは一般的人間から見た時に大きな異質性の一つであるのは変わりない。だよね?」
「ええと、はい」
「そして、一般的人間ができる範囲外の事が可能だ。そうだね?」
「はい」
「じゃあ、それを私欲のためにもちいるのは?」
「それは、状況次第しだいですが、基本的にはめられた事では……」

言いよどひろに向けて、うなずいて見せる。

「そう、当事者の僕ら自身としても、められた事ではないと考える。まして一般人としては『我々にはできない事で我々を出し抜いた、なんてズルいやつなんだ、とがめるべきだ』となっておかしくない。まあ、一般人には観測するすべもないから、当然としてその本人も事象も、本物かどうかなんて判別のつけようがない。それらしい事が起きたらそのせいと決めつけた上で、理屈上でだけ犯人に仕立て上げるしかないんだよ」
「……つまり、本当に霊能力に由来するものであるかはどうでもいい上、誰が得するかと考えた結果と、それらしい本物が合致しなければ、確実に無辜むこの人間が排斥はいせきされる、と」
「そうだよ。言っただろ、犬神いぬがみは魔女と同じ、理不尽の万能の受け皿って。だから、その排斥はいせきは西洋の魔女狩りとも似ている。共同体共通の敵とされるわけだからね」

そう言えば、青褪あおざめた顔でひろは唇を引き結んだ。

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