ガルデニアの残り香

板久咲絢芽

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眼光紙背に徹して

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おにいちゃんは私の前から、いな、誰の前からも、文字通り
おにいちゃんが言った通り、周囲はあっと言う間におにいちゃんという存在の喪失を受け入れた。

いや、違う。
おにいちゃんという存在を、根幹からなかったものとして受け入れた。
私だけ取り残して、私にだけ爪痕つめあとのこして、日常はおにいちゃんの闖入ちんにゅう前に戻った。

私には納得がいかなかった。
おにいちゃんのこれは本当に、おにいちゃんの望んでいたそれなのか、わからなかったからだ。
幸い、おにいちゃんが前に言っていたメモはすぐに回収できた。
ノートですらない紙の切れ端の束は、おにいちゃんの部屋とされていたその部屋の片隅に置かれていた。
おにいちゃんの本懐ほんかいに沿っているのか、それを確認するために、私はその紙切れどもを読みくしかなかった。

だが、それにも随分ずいぶんと長い時間を使ってしまった。
手当り次第と言ってもいいような、何ヶ国語にも及ぶメモは、古いと言ってもせいぜいが二桁年以内だろうもので、きっとおにいちゃんが、何度も何度も書き継いで、書き直して来たものだと容易に知れた。
まず、どこがどの言語で書いてあるか、あたりをつけるところから始めるしかなかった。
それから、古めの言語から順に本やネットの情報を手がかりに訳していった。
古めの言語から調べれば、その後に現れるその言語から派生した言語の読解の手がかりになるからだ。
時折のぞく、おにいちゃんらしくもない乱雑な筆跡や、悲歎ひたんに暮れたような単語選びに、死ぬためそれにかけた労力を知った。

それでも訳したからといって、すぐに理解できるものでもなかった。
今までおにいちゃんとの会話で出た数多あまたのワードを記憶を頼りに洗い出して、メモを読んで、情報を調べて、結果を精査して。

そうしてようやく、ようやく読解は成ったのだ。
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