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2章
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あの日から麓の上靴は神隠しにあうようになった。
始めは週1、次第に週3、この頃はほぼ毎日。
その度に嵐たちが一緒に探してくれたが、結局いつも扇にスリッパを借りに行っていた。上靴は必ず帰りのホームルームの後に発見された。
それぐらいならまだ麓は耐えられた。
しかしその隠す、無くなるという対象物かま大きいとなると心へのダメージは変わる。
その日も上靴はなく、スリッパを履いて嵐と教室に向かった。
さりげなく励ましの言葉をかけてくれるのはありがたかったが、今は素直に喜ぶことはできなかった。
彼らの話すことは身に入らず、教室に入った瞬間に麓の歩みと表情が凍った。
自分の席があるべき場所には何も無かった。
「なん…で? 無くなってんの…麓の、席」
隣にいた嵐まだ表情を硬くし、声を絞り出した。
教室には気まずい空気が漂っており、クラスメイトはいつも以上に麓のことを哀れむような視線で見ていた。
「ねぇ、誰も知らないの!? 麓の机とイス…」
教室内は誰が話す? という視線が交錯され、2人の近くにいた男子が口を開いた。
「お前だっけ? 1番最初に来たの」
彼は少し離れた席の女子を見た。
「そうだけど…来た時にはもう無かったよ。もしかして、と思って他の教室を見たけど見当たらなかったよ…」
嵐は彼女に近寄って食い入るように話しかけた。
「なんか怪しいヤツとすれ違ってない?」
彼女は目を伏せて首を振った。
悔しそうな嵐は険しさも含有させた表情で、重々しく声を出す。
「ねぇ…誰も本当に何も知らないんだよね…?」
「何が言いたい?」
1番最初に話した男子は嵐のことを睨めつけた。
嵐の言葉の裏に気づいたのは彼だけでない。この場の空気が一変し、剣呑な雰囲気になっていく。
「…ぶっちゃけ、このクラス全員を疑ってんの」
「嵐さん…!?」
その中で嵐は爆弾発言をした。
全員が一斉に眉をひそめ嵐のことを見た。彼女の表情は半分本気、残りの半分は絶対そんなことはないと叫んでいる。
「はぁ? ずっと黙ってたけど自分はどうなんだよ。いつも一緒にいて恨みの1つ2つができて隠したんじゃねーの?」
「あたしたちがそんな陰気なことをするワケないじゃん! 恨みなんてあるワケない。もしあっても直接言うし」
嵐が感情的になって言い返すと、男子は鼻でせせら笑った。
「どうだか。お前は口だけ"は"達者だからな。こっちが騙されないように気をつけねーと」
「何を…!」
「朝から何熱くなっとんねん」
口喧嘩がヒートアップする直前、不意にそれを止める声が響いた。
「いい歳した精霊同士見苦しい」
関西弁と無機質た声。どう考えてもあのコンビだ。
「蔓…露…」
「おはようさん。もう秋に近づいとるんや、熱くならんでもえぇやろ。1回、冷静になって考えてみぃ。当事者の麓抜きで話してもただただケンカにになるだけや。麓自身の話を聞いてみたらどうなん」
「麓、話して。麓の気持ち」
一斉にクラス全員が麓に注目する。相変わらずこのような状況に慣れない麓は一瞬だけ怯んだが、やがて決心して視線をクラス全体に向けて芯のある声で話し始めた。
「…このクラスにいないと思います。最近のこと…。私は皆さんのことを疑っていないし疑いたくないです。それに犯人が誰とか、理由も知りたいと思っていません。…最近のことをやめてくれたら、ですけど」
麓の瞳には固い意志が見え隠れしている。
彼女の思いが浸透していったのか、周囲を取り巻く空気はおだやかなものに変わっていった。
空気が柔らかくなったとは言え、麓の心が癒されることはなかった。
扇が教室に来て、今回は麓が自分で説明してパイプイスを貸してもらった。
ホームルーム中、麓は嵐の席の後ろで1人だけパイプ椅子に座り、呆然とした表情でうつむきがちに扇の話を聞いていた。
ショックのせいか内容はほとんど入ってこない。さっきの毅然とした態度はまるで嘘のようだ。
しかし他の者たちは、見たことのない扇の様子に恐れていた。
いつもラフなイメージの彼が怒りのオーラをまとわせている。苛立ちを隠せないと言わんばかりに、細長い指で教卓をトントンと叩いている。
「…さっき麓さんから話を聞いた。担任している生徒を疑いたくないけど…この中でやったヤツがいんの? 麓さんはあぁ言ってたけど、ここまでやること進むと…しかも同じ人目当てだと、さすがにこのクラスが怪しい。靴隠す次は机とイス? やることがいちいちチキンだろ。こんなことしていいと────」
「…オウちゃん」
扇の言葉をやんわりと抑えようとした光の声が重なる。彼は扇のことを見てゆっくりと首を振った。これ以上言ってはダメだと。まだあるのから寮で聞く、とその顔は語っている。
扇は"あ"というかたちの口をして教室を見回した。
自分のことを見ている生徒たちの顔は強ばっていた。女子の中には泣きだしそうな者もいる。
やっとそれに気づいた扇は反省し、両手を教卓につけて素直に頭を下げた。
「あー…ごめん。大人げなかったね…り今のことは未来永劫忘れて。んでナイショね。訴えてやる!とか勘弁だよ。慰謝料は払うから…」
いつもの扇に戻って、やっと生徒たちは安心した表情になった。
始めは週1、次第に週3、この頃はほぼ毎日。
その度に嵐たちが一緒に探してくれたが、結局いつも扇にスリッパを借りに行っていた。上靴は必ず帰りのホームルームの後に発見された。
それぐらいならまだ麓は耐えられた。
しかしその隠す、無くなるという対象物かま大きいとなると心へのダメージは変わる。
その日も上靴はなく、スリッパを履いて嵐と教室に向かった。
さりげなく励ましの言葉をかけてくれるのはありがたかったが、今は素直に喜ぶことはできなかった。
彼らの話すことは身に入らず、教室に入った瞬間に麓の歩みと表情が凍った。
自分の席があるべき場所には何も無かった。
「なん…で? 無くなってんの…麓の、席」
隣にいた嵐まだ表情を硬くし、声を絞り出した。
教室には気まずい空気が漂っており、クラスメイトはいつも以上に麓のことを哀れむような視線で見ていた。
「ねぇ、誰も知らないの!? 麓の机とイス…」
教室内は誰が話す? という視線が交錯され、2人の近くにいた男子が口を開いた。
「お前だっけ? 1番最初に来たの」
彼は少し離れた席の女子を見た。
「そうだけど…来た時にはもう無かったよ。もしかして、と思って他の教室を見たけど見当たらなかったよ…」
嵐は彼女に近寄って食い入るように話しかけた。
「なんか怪しいヤツとすれ違ってない?」
彼女は目を伏せて首を振った。
悔しそうな嵐は険しさも含有させた表情で、重々しく声を出す。
「ねぇ…誰も本当に何も知らないんだよね…?」
「何が言いたい?」
1番最初に話した男子は嵐のことを睨めつけた。
嵐の言葉の裏に気づいたのは彼だけでない。この場の空気が一変し、剣呑な雰囲気になっていく。
「…ぶっちゃけ、このクラス全員を疑ってんの」
「嵐さん…!?」
その中で嵐は爆弾発言をした。
全員が一斉に眉をひそめ嵐のことを見た。彼女の表情は半分本気、残りの半分は絶対そんなことはないと叫んでいる。
「はぁ? ずっと黙ってたけど自分はどうなんだよ。いつも一緒にいて恨みの1つ2つができて隠したんじゃねーの?」
「あたしたちがそんな陰気なことをするワケないじゃん! 恨みなんてあるワケない。もしあっても直接言うし」
嵐が感情的になって言い返すと、男子は鼻でせせら笑った。
「どうだか。お前は口だけ"は"達者だからな。こっちが騙されないように気をつけねーと」
「何を…!」
「朝から何熱くなっとんねん」
口喧嘩がヒートアップする直前、不意にそれを止める声が響いた。
「いい歳した精霊同士見苦しい」
関西弁と無機質た声。どう考えてもあのコンビだ。
「蔓…露…」
「おはようさん。もう秋に近づいとるんや、熱くならんでもえぇやろ。1回、冷静になって考えてみぃ。当事者の麓抜きで話してもただただケンカにになるだけや。麓自身の話を聞いてみたらどうなん」
「麓、話して。麓の気持ち」
一斉にクラス全員が麓に注目する。相変わらずこのような状況に慣れない麓は一瞬だけ怯んだが、やがて決心して視線をクラス全体に向けて芯のある声で話し始めた。
「…このクラスにいないと思います。最近のこと…。私は皆さんのことを疑っていないし疑いたくないです。それに犯人が誰とか、理由も知りたいと思っていません。…最近のことをやめてくれたら、ですけど」
麓の瞳には固い意志が見え隠れしている。
彼女の思いが浸透していったのか、周囲を取り巻く空気はおだやかなものに変わっていった。
空気が柔らかくなったとは言え、麓の心が癒されることはなかった。
扇が教室に来て、今回は麓が自分で説明してパイプイスを貸してもらった。
ホームルーム中、麓は嵐の席の後ろで1人だけパイプ椅子に座り、呆然とした表情でうつむきがちに扇の話を聞いていた。
ショックのせいか内容はほとんど入ってこない。さっきの毅然とした態度はまるで嘘のようだ。
しかし他の者たちは、見たことのない扇の様子に恐れていた。
いつもラフなイメージの彼が怒りのオーラをまとわせている。苛立ちを隠せないと言わんばかりに、細長い指で教卓をトントンと叩いている。
「…さっき麓さんから話を聞いた。担任している生徒を疑いたくないけど…この中でやったヤツがいんの? 麓さんはあぁ言ってたけど、ここまでやること進むと…しかも同じ人目当てだと、さすがにこのクラスが怪しい。靴隠す次は机とイス? やることがいちいちチキンだろ。こんなことしていいと────」
「…オウちゃん」
扇の言葉をやんわりと抑えようとした光の声が重なる。彼は扇のことを見てゆっくりと首を振った。これ以上言ってはダメだと。まだあるのから寮で聞く、とその顔は語っている。
扇は"あ"というかたちの口をして教室を見回した。
自分のことを見ている生徒たちの顔は強ばっていた。女子の中には泣きだしそうな者もいる。
やっとそれに気づいた扇は反省し、両手を教卓につけて素直に頭を下げた。
「あー…ごめん。大人げなかったね…り今のことは未来永劫忘れて。んでナイショね。訴えてやる!とか勘弁だよ。慰謝料は払うから…」
いつもの扇に戻って、やっと生徒たちは安心した表情になった。
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