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2章
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「気絶している間に景色変わるなんてことある? これはドッキリなの? あたしはここへ運ばれたのか?」
レイコは男と共に近くを歩き回った。
驚くことに気絶していた場所以外も景色が変わっており、更衣室があった場所は更地。
「ここはホントにどこ────?」
絶望したようにつぶやく。
男はそれまで黙っていたが、ふと思いついたように口を開いた。
「よく分からぬことを申しておるのは頭を強く打ったせいではないか? 記憶障害なるものを聞いたことがある。知り合いの医者の所へ行こうか」
「ん~…そんな自覚はないけど…行った方がいいかな?」
「あぁ。さっきからのお主を見ておると哀れだ。早い所解決した方がいいだろう」
そう提案され、レイコはおとなしく男についていった。が。
公園を出ようとした男を慌てて引き止める。
「待った! 着替えてからじゃないと…。そもそもここ、イベントの範囲外でしょ?」
「いべんと? なんだそれは。また始まったな」
「だってこんな格好で街に出たらイベントがなくなるかもじゃん! 規約違反を犯した人がいてイベント会場じゃなくなった所が多いって優人っちが…!」
「こんな格好って…それは奇抜な着物のお主限定だろう。皆、俺のような格好だぞ。おなごは着物だが」
…。
レイコは冷水をかけられた気分になった。
この男がデタラメを言っているようには聞こえない。根っからの生真面目な性格らしいし。
そしてこれまでの会話。お互いにおかしなことを言っていると思ったが、もしかしたらそれはレイコだけかもしれない。
「ね、ねぇお兄さん…今って2016年ですよね…?」
青ざめた表情で聞いたレイコに、男は怪訝な顔をした。
「何を言って…って、もう今さらか。今は天正3年だろう」
テンショウサンネン。今度はレイコがはて? となる番だった。
そしてようやく今までの食い違いを理解した。
ひきつる表情筋。震え始めた体。レイコは空に向かって叫んだ。いつの時代も変わらない、変わってないはずのものに。
「あたしタイムスリップしてる!? 時〇けか! ドラ〇もんかァ!」
「…未来から、か。世の中には魔訶不思議なことがあるものだな」
男の家は、緑地公園(になる場所)から5分ほど歩いた場所にある。
藁葺きの屋根に木の壁。未来から来たという彼はどれも珍しそうに眺め、カメラとやらをカシャカシャと音を鳴らせていた。どうやらこの先の未来に生まれる道具らしい。
(そういえば名前を聞いてなかった…。俺も名乗ってない)
ぼんやりと考え、縁側で空を見上げていた。
レイコは「化粧落として着替えたい。絶対のぞくな」と言って奥へ引っ込んで湯浴みをしている。別に男同士なら気にすることじゃないだろう…と言ったら「…あ。一応女です」と。
その間に彼も袴から着流しに変えた。
(どう見ても男だったが…)
うーんと首をかしげると、後ろで人の気配がした。
振り向くと────見たことがない若い女が立っていた。着ているものは同じだが、全くの別人。
驚くことに髪の色も長さも違う。
しかけは彼女が湯浴みする前に教えてくれた。
「…どうよ。一応女なの納得した?」
「ほう…これは見事だな。化粧をしてウィッグとやらをかぶっただけで男になれるとは」
「その逆もあるよ。まぁコスプレは一部の人間の趣味かな。あたしが生きてる時代の文化になりつつあるよ」
レイコはしっとりとした髪を背中に払い、男の横へ来て座った。
「そういえば名前は? まだ聞いてなかったから」
「黒木吉高。お主は?」
「桧山レイコ。ねぇ吉高さん、女物の着物とかない?」
「ない。あいにく1人暮らしでな…。貸してくれそうな知り合いはいるぞ。行ってみるか?」
「ぜひ! 衣装は普段着にしたくないんだよね…。それに今日のは初出しだし」
レイコは男と共に近くを歩き回った。
驚くことに気絶していた場所以外も景色が変わっており、更衣室があった場所は更地。
「ここはホントにどこ────?」
絶望したようにつぶやく。
男はそれまで黙っていたが、ふと思いついたように口を開いた。
「よく分からぬことを申しておるのは頭を強く打ったせいではないか? 記憶障害なるものを聞いたことがある。知り合いの医者の所へ行こうか」
「ん~…そんな自覚はないけど…行った方がいいかな?」
「あぁ。さっきからのお主を見ておると哀れだ。早い所解決した方がいいだろう」
そう提案され、レイコはおとなしく男についていった。が。
公園を出ようとした男を慌てて引き止める。
「待った! 着替えてからじゃないと…。そもそもここ、イベントの範囲外でしょ?」
「いべんと? なんだそれは。また始まったな」
「だってこんな格好で街に出たらイベントがなくなるかもじゃん! 規約違反を犯した人がいてイベント会場じゃなくなった所が多いって優人っちが…!」
「こんな格好って…それは奇抜な着物のお主限定だろう。皆、俺のような格好だぞ。おなごは着物だが」
…。
レイコは冷水をかけられた気分になった。
この男がデタラメを言っているようには聞こえない。根っからの生真面目な性格らしいし。
そしてこれまでの会話。お互いにおかしなことを言っていると思ったが、もしかしたらそれはレイコだけかもしれない。
「ね、ねぇお兄さん…今って2016年ですよね…?」
青ざめた表情で聞いたレイコに、男は怪訝な顔をした。
「何を言って…って、もう今さらか。今は天正3年だろう」
テンショウサンネン。今度はレイコがはて? となる番だった。
そしてようやく今までの食い違いを理解した。
ひきつる表情筋。震え始めた体。レイコは空に向かって叫んだ。いつの時代も変わらない、変わってないはずのものに。
「あたしタイムスリップしてる!? 時〇けか! ドラ〇もんかァ!」
「…未来から、か。世の中には魔訶不思議なことがあるものだな」
男の家は、緑地公園(になる場所)から5分ほど歩いた場所にある。
藁葺きの屋根に木の壁。未来から来たという彼はどれも珍しそうに眺め、カメラとやらをカシャカシャと音を鳴らせていた。どうやらこの先の未来に生まれる道具らしい。
(そういえば名前を聞いてなかった…。俺も名乗ってない)
ぼんやりと考え、縁側で空を見上げていた。
レイコは「化粧落として着替えたい。絶対のぞくな」と言って奥へ引っ込んで湯浴みをしている。別に男同士なら気にすることじゃないだろう…と言ったら「…あ。一応女です」と。
その間に彼も袴から着流しに変えた。
(どう見ても男だったが…)
うーんと首をかしげると、後ろで人の気配がした。
振り向くと────見たことがない若い女が立っていた。着ているものは同じだが、全くの別人。
驚くことに髪の色も長さも違う。
しかけは彼女が湯浴みする前に教えてくれた。
「…どうよ。一応女なの納得した?」
「ほう…これは見事だな。化粧をしてウィッグとやらをかぶっただけで男になれるとは」
「その逆もあるよ。まぁコスプレは一部の人間の趣味かな。あたしが生きてる時代の文化になりつつあるよ」
レイコはしっとりとした髪を背中に払い、男の横へ来て座った。
「そういえば名前は? まだ聞いてなかったから」
「黒木吉高。お主は?」
「桧山レイコ。ねぇ吉高さん、女物の着物とかない?」
「ない。あいにく1人暮らしでな…。貸してくれそうな知り合いはいるぞ。行ってみるか?」
「ぜひ! 衣装は普段着にしたくないんだよね…。それに今日のは初出しだし」
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