13 / 48
4章
2
しおりを挟む
宿場町に着き、Uターンしたところで家に向かう。
散歩は行きと帰りがあるのか謎だ。用事がないからか。
何も無いのに歩くというのもいい。何も無いからこそ、ひたすら無心に歩ける。
レイコは雨の中の散歩を楽しんでいた。
吉高の腕はもう離されているが、距離はずっと近いまま。
心拍数はさすがに収まってきたが、気恥しくて視線は下に落としている。不自然に体の前で手を組んだ。
「レイコ」
「んっ!?」
「なんだ考え事でもしてたのか?」
「いえ何も」
「そうか。寒くはないか?」
「平気。歩いてたら体あったまってきたから」
ここまで視線を合わせないのも不自然かと思い、彼に顔を向ける。
目の前には傘の柄を握る彼の手。今までまじまじと見たことがなかったが、大きくて骨ばっている。ゴツゴツとした男らしい手。
(武士じゃなくても日々の鍛錬として武術をたしなんでるとか?)
「ねぇ、吉高さんって戦に出るんだよね?」
「あ、あぁ…」
今度不意をつかれたのは吉高の方だった。少し目を見開き、顔はレイコに向けているが視線はあらぬ方向へ。
「強そうだね。帯刀してると貫禄があって」
「────そうか」
「何暗い顔してんの。めっちゃ褒めてるよ? ここは照れて頭かく所でしょうが」
「そういうものか?」
「そういうモンだよ」
はぁ、と曖昧な返事をした吉高は反応にとまどい、指で頬をかく。
意外な言葉をもらって驚くどころか戸惑っている、と言いたげな表情。
レイコはわずかに首をかしげ、彼の愛刀を見た。
太刀の柄は青く、脇差の柄は赤い。しかしどちらも鞘は黒。
「意外と刀ってカラフルだよね~。あ。カラフルは彩り豊か、って意味」
本場の刀を見つめていたらとあるゲームを思い出した。有名な刀剣が擬人化されて、プレイヤーが主になるヤツ。みいなと優人が熱を入れている。
「吉高さんの刀も名前あるの? いい刀────」
「いい刀持ってんじゃねぇか」
それあたしが言おうとしたヤツ、と口を開きかけたら、吉高がレイコの前に腕を伸ばして動きを制した。
「ちょっと何…」
「しかも女連れか」
目の前にはボロボロの着物をまとい、ボサボサの頭で錆びた刀を肩に担いだ大柄な男。
「うんわ山賊? 盗賊? これもまさかモノホンを見ることになるとは…」
「何が目的だ」
吉高の警戒心の塊のような固い声が響く。レイコは軽口を叩いた口をつぐんだ。
「おめぇが持ってる刀とその女。こっちに寄越せ」
「しっかもベタな答えなのね…。見た目だけじゃなく。おもしろくないわ~」
いかにもガラが悪い相手にはとことん嫌味な口答えが止まらなくなるという属性を持つ彼女は、時代が違っても発揮。
レイコの単語の意味は伝わらなくとも、雰囲気と蔑んだような細めた目は伝わったのだろう。男の放つ空気が剣呑なものに変わった。
「バカにしやがって生意気な女が…!」
男が咆哮と共に錆びた刀を振り上げた。
これはマズい。本能が告げたそれにレイコは恐怖を感じなかった。
男が刀を振り下ろす前に吉高が懐に飛び込み、みぞおちに拳をめり込ませていたから。電光石火の速さで。
「ぐっ…! いつの間に…」
「速さには自信があってな。お主相手なら刀を抜くまででもない。同じ目に遭いたくなくば、二度と俺たちの前に姿を現すな」
静かに語る吉高の言葉が終わると同時に、男は仰向けに倒れた。
図体がデカいだけあって倒れた時の音は派手だった。
傘はいつの間にかレイコの手に預けられていた。
散歩は行きと帰りがあるのか謎だ。用事がないからか。
何も無いのに歩くというのもいい。何も無いからこそ、ひたすら無心に歩ける。
レイコは雨の中の散歩を楽しんでいた。
吉高の腕はもう離されているが、距離はずっと近いまま。
心拍数はさすがに収まってきたが、気恥しくて視線は下に落としている。不自然に体の前で手を組んだ。
「レイコ」
「んっ!?」
「なんだ考え事でもしてたのか?」
「いえ何も」
「そうか。寒くはないか?」
「平気。歩いてたら体あったまってきたから」
ここまで視線を合わせないのも不自然かと思い、彼に顔を向ける。
目の前には傘の柄を握る彼の手。今までまじまじと見たことがなかったが、大きくて骨ばっている。ゴツゴツとした男らしい手。
(武士じゃなくても日々の鍛錬として武術をたしなんでるとか?)
「ねぇ、吉高さんって戦に出るんだよね?」
「あ、あぁ…」
今度不意をつかれたのは吉高の方だった。少し目を見開き、顔はレイコに向けているが視線はあらぬ方向へ。
「強そうだね。帯刀してると貫禄があって」
「────そうか」
「何暗い顔してんの。めっちゃ褒めてるよ? ここは照れて頭かく所でしょうが」
「そういうものか?」
「そういうモンだよ」
はぁ、と曖昧な返事をした吉高は反応にとまどい、指で頬をかく。
意外な言葉をもらって驚くどころか戸惑っている、と言いたげな表情。
レイコはわずかに首をかしげ、彼の愛刀を見た。
太刀の柄は青く、脇差の柄は赤い。しかしどちらも鞘は黒。
「意外と刀ってカラフルだよね~。あ。カラフルは彩り豊か、って意味」
本場の刀を見つめていたらとあるゲームを思い出した。有名な刀剣が擬人化されて、プレイヤーが主になるヤツ。みいなと優人が熱を入れている。
「吉高さんの刀も名前あるの? いい刀────」
「いい刀持ってんじゃねぇか」
それあたしが言おうとしたヤツ、と口を開きかけたら、吉高がレイコの前に腕を伸ばして動きを制した。
「ちょっと何…」
「しかも女連れか」
目の前にはボロボロの着物をまとい、ボサボサの頭で錆びた刀を肩に担いだ大柄な男。
「うんわ山賊? 盗賊? これもまさかモノホンを見ることになるとは…」
「何が目的だ」
吉高の警戒心の塊のような固い声が響く。レイコは軽口を叩いた口をつぐんだ。
「おめぇが持ってる刀とその女。こっちに寄越せ」
「しっかもベタな答えなのね…。見た目だけじゃなく。おもしろくないわ~」
いかにもガラが悪い相手にはとことん嫌味な口答えが止まらなくなるという属性を持つ彼女は、時代が違っても発揮。
レイコの単語の意味は伝わらなくとも、雰囲気と蔑んだような細めた目は伝わったのだろう。男の放つ空気が剣呑なものに変わった。
「バカにしやがって生意気な女が…!」
男が咆哮と共に錆びた刀を振り上げた。
これはマズい。本能が告げたそれにレイコは恐怖を感じなかった。
男が刀を振り下ろす前に吉高が懐に飛び込み、みぞおちに拳をめり込ませていたから。電光石火の速さで。
「ぐっ…! いつの間に…」
「速さには自信があってな。お主相手なら刀を抜くまででもない。同じ目に遭いたくなくば、二度と俺たちの前に姿を現すな」
静かに語る吉高の言葉が終わると同時に、男は仰向けに倒れた。
図体がデカいだけあって倒れた時の音は派手だった。
傘はいつの間にかレイコの手に預けられていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
16
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる