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スピンオフ~レイヤーさんの青い時代~
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レイコの桜井との付き合いが始まった。
彼氏彼女になったからと言って呼び方が変わるわけでもなく。相変わらず苗字で呼びあっていた。
2人が文化祭を境に付き合い始めたことはあっという間に学年中に知れ渡った。誰から見てもお似合いのカップルだと。
人懐っこくて誰からも好かれる桜井は見た目も良く、彼に想いを寄せる女子も多い。だが、ほとんどが儚い恋だった…と諦めた。
一部、レイコに反感を覚えた女子がいたが、彼女の時々強くなる気と口調に刃向かおうとする者はいなかった。
レイコに想いを寄せる男子もいたが、彼女の性質を知っているので何も行動を起こせずに終わった。
レイコは初め、軽い気持ちで付き合うことを決めたのだが、一緒にいる時間が長くなるにつれて恋愛的な意味で彼に惹かれていった。
周りをよく見ていて気遣いが細やかなこと、笑った顔が子どものように無邪気で見とれてしまうこと。
そんな彼と特に甘い展開が起きるわけでもなく、3年生になった。
3年生の夏休み間近。
卒業したら就職すると決めているレイコは、入社試験を受ける会社がすでに決まっていた。
保護者会も終わり、あとは夏休みを待つばかりという今日この頃。
最近は午前で授業が終わるので、午後は生徒がほとんどいない。
レイコは自分以外、誰もいない教室でアイスを食べていた。食堂にある自販機で買ったものだ。
クーラーを程よく効かせた教室で食べるアイスはおいしい。彼女のお気に入りはキャラメル味。夏になるとしょっちゅう食べる。
「桧山ー」
「あ、やっと来た。遅い」
「ごめんごめん。担任に呼び出されてさ…」
教室に現れた桜井は、両手を合わせて頭を下げている。
3年になってからクラスが別になった。
だが相変わらず関係は変わらない。
最近はレイコが桜井に勉強を教えている。彼は大学に行くらしいが、今の成績では少し難しいらしい。
2人は1つの机に向かい合わせになって座った。
「私立かー。お金すごそう」
「それな…。大学入ったらバイトしないと」
「うんがんばれ」
他人事のように手をひらひらとさせているレイコに、桜井は眉を寄せた。
「お前なぁ…。1人だけ気楽そうに…」
「だってあんたの将来でしょ? あたしが変わるんじゃないもん」
「そうだけどさ~…」
「だーかーら、こうして一緒に勉強するんでしょ」
レイコは口の端を上げて片目を閉じ、アイスを持っていない方の手で桜井の頭をわしゃわしゃとなでた。
「ちょっガキか俺は!」
「ガキでしょ。あたしより数ヶ月誕生日遅いから」
「数ヶ月! それだけでいばるな! アイス俺にも寄越せコノヤロー!」
「ヤローじゃない! アイスは誰にもやらんわ!」
アイスを引っ込めたせいか身を乗り出した桜井はバランスを崩し、慌てて机に手をついた。
バンッという大きな音でレイコは肩をビクつかせ、近距離にある桜井の顔にも驚いて固まった。
気まずくなったのは桜井も同じか、レイコのことをまじまじと見つめていた。
徐々に互いの顔が赤くなり、さすがにうつむこうと思ったレイコは、アゴに手を優しく添えられて上を向かされた。
何よ、とは聞けなかった。
気づけば桜井に唇の自由を奪われていた。
これがレイコのファーストキス。
桜井も決して慣れているわけではないらしい。重ねた唇が震えており、ゆっくりと離れて桜井は震える声を放った。
「嫌だった…?」
無言で首を振る。嫌なわけがない。惹かれてきたんだから。
本当は誰かに自慢したいくらい嬉しい。だがそんな風に可愛らしく返せるわけがなく、レイコは火照った頬を冷まそうとアイスを食べる。
手の体温でとけてしまっている。慌てて少ない残りを食べてしまおうとすると、今度は唇の横にキスをされた。
「やっとアイス食えたわ。正確には舐めれた?」
「そういう言い方すんな!」
いつもの調子に戻ったレイコに、桜井は柔らかく笑ってみせた。
そんな彼とキス以上のスキンシップをしたのは夏休みに入ってから。
「親いないから家に来る?」と誘われた。その日は珍しく図書館で勉強しようと考えたのだが、思っていたより静かで、説明しながら勉強はできない雰囲気だった。それなら…と提案したのは桜井だった。
「あっ下心があってとかじゃないからな!? 今日は学校開いてないし、でも勉強教えて欲しいから…」
「はいはい分かってますから。言い訳それ以上並べたらさすがに怪しいけど」
レイコがジト目で見ると、桜井はものすごい勢いで頭を横に振った。
桜井の勉強力は、ここしばらくの間でメキメキと上達した。これなら二学期の成績は伸びている、と確信できるくらいまで。
休憩しようか、ということで教科書やノートを閉じた。
「クーラー効いてるけど頭使うと暑いかも…」
「知恵熱か」
レイコは桜井の額に手をやった。日に焼けた彼の肌に、日焼け止めクリームを欠かさないレイコの白い肌が目立つ。
「桧山白すぎね? 吸血鬼かよ」
「これでもちょっと焼けた。吸血鬼にはなりきれなかった…」
「何目指してんだよ」
レイコはフッと笑い、タンクトップの襟をつまんであおいでいる桜井の首元を見て────チラ見が凝視に変わった。
くっきりと浮き出た鎖骨。襟をつまむ太い腕にわずかに浮き上がった血管。彼女のフェチはわりと少女マンガチックだった。
「何? 俺に見とれた?」
気づけば桜井がニヤケている。事実だったので瞬時に言い返せず、上目遣いでにらむだけ。
するとレイコは細い腕を取られ、桜井の腕と見比べられた。
自分より高い体温にふれて自分の体温が跳ね上がった気がした。
腕を戻され、物足りなさげに腕を伸ばして彼の鎖骨にふれる。
桜井はハッとした表情になり、レイコと視線を交わす。
その瞳同士で感情を交わし、桜井はレイコを力強く引き寄せてかみつくようなキスをした。
彼氏彼女になったからと言って呼び方が変わるわけでもなく。相変わらず苗字で呼びあっていた。
2人が文化祭を境に付き合い始めたことはあっという間に学年中に知れ渡った。誰から見てもお似合いのカップルだと。
人懐っこくて誰からも好かれる桜井は見た目も良く、彼に想いを寄せる女子も多い。だが、ほとんどが儚い恋だった…と諦めた。
一部、レイコに反感を覚えた女子がいたが、彼女の時々強くなる気と口調に刃向かおうとする者はいなかった。
レイコに想いを寄せる男子もいたが、彼女の性質を知っているので何も行動を起こせずに終わった。
レイコは初め、軽い気持ちで付き合うことを決めたのだが、一緒にいる時間が長くなるにつれて恋愛的な意味で彼に惹かれていった。
周りをよく見ていて気遣いが細やかなこと、笑った顔が子どものように無邪気で見とれてしまうこと。
そんな彼と特に甘い展開が起きるわけでもなく、3年生になった。
3年生の夏休み間近。
卒業したら就職すると決めているレイコは、入社試験を受ける会社がすでに決まっていた。
保護者会も終わり、あとは夏休みを待つばかりという今日この頃。
最近は午前で授業が終わるので、午後は生徒がほとんどいない。
レイコは自分以外、誰もいない教室でアイスを食べていた。食堂にある自販機で買ったものだ。
クーラーを程よく効かせた教室で食べるアイスはおいしい。彼女のお気に入りはキャラメル味。夏になるとしょっちゅう食べる。
「桧山ー」
「あ、やっと来た。遅い」
「ごめんごめん。担任に呼び出されてさ…」
教室に現れた桜井は、両手を合わせて頭を下げている。
3年になってからクラスが別になった。
だが相変わらず関係は変わらない。
最近はレイコが桜井に勉強を教えている。彼は大学に行くらしいが、今の成績では少し難しいらしい。
2人は1つの机に向かい合わせになって座った。
「私立かー。お金すごそう」
「それな…。大学入ったらバイトしないと」
「うんがんばれ」
他人事のように手をひらひらとさせているレイコに、桜井は眉を寄せた。
「お前なぁ…。1人だけ気楽そうに…」
「だってあんたの将来でしょ? あたしが変わるんじゃないもん」
「そうだけどさ~…」
「だーかーら、こうして一緒に勉強するんでしょ」
レイコは口の端を上げて片目を閉じ、アイスを持っていない方の手で桜井の頭をわしゃわしゃとなでた。
「ちょっガキか俺は!」
「ガキでしょ。あたしより数ヶ月誕生日遅いから」
「数ヶ月! それだけでいばるな! アイス俺にも寄越せコノヤロー!」
「ヤローじゃない! アイスは誰にもやらんわ!」
アイスを引っ込めたせいか身を乗り出した桜井はバランスを崩し、慌てて机に手をついた。
バンッという大きな音でレイコは肩をビクつかせ、近距離にある桜井の顔にも驚いて固まった。
気まずくなったのは桜井も同じか、レイコのことをまじまじと見つめていた。
徐々に互いの顔が赤くなり、さすがにうつむこうと思ったレイコは、アゴに手を優しく添えられて上を向かされた。
何よ、とは聞けなかった。
気づけば桜井に唇の自由を奪われていた。
これがレイコのファーストキス。
桜井も決して慣れているわけではないらしい。重ねた唇が震えており、ゆっくりと離れて桜井は震える声を放った。
「嫌だった…?」
無言で首を振る。嫌なわけがない。惹かれてきたんだから。
本当は誰かに自慢したいくらい嬉しい。だがそんな風に可愛らしく返せるわけがなく、レイコは火照った頬を冷まそうとアイスを食べる。
手の体温でとけてしまっている。慌てて少ない残りを食べてしまおうとすると、今度は唇の横にキスをされた。
「やっとアイス食えたわ。正確には舐めれた?」
「そういう言い方すんな!」
いつもの調子に戻ったレイコに、桜井は柔らかく笑ってみせた。
そんな彼とキス以上のスキンシップをしたのは夏休みに入ってから。
「親いないから家に来る?」と誘われた。その日は珍しく図書館で勉強しようと考えたのだが、思っていたより静かで、説明しながら勉強はできない雰囲気だった。それなら…と提案したのは桜井だった。
「あっ下心があってとかじゃないからな!? 今日は学校開いてないし、でも勉強教えて欲しいから…」
「はいはい分かってますから。言い訳それ以上並べたらさすがに怪しいけど」
レイコがジト目で見ると、桜井はものすごい勢いで頭を横に振った。
桜井の勉強力は、ここしばらくの間でメキメキと上達した。これなら二学期の成績は伸びている、と確信できるくらいまで。
休憩しようか、ということで教科書やノートを閉じた。
「クーラー効いてるけど頭使うと暑いかも…」
「知恵熱か」
レイコは桜井の額に手をやった。日に焼けた彼の肌に、日焼け止めクリームを欠かさないレイコの白い肌が目立つ。
「桧山白すぎね? 吸血鬼かよ」
「これでもちょっと焼けた。吸血鬼にはなりきれなかった…」
「何目指してんだよ」
レイコはフッと笑い、タンクトップの襟をつまんであおいでいる桜井の首元を見て────チラ見が凝視に変わった。
くっきりと浮き出た鎖骨。襟をつまむ太い腕にわずかに浮き上がった血管。彼女のフェチはわりと少女マンガチックだった。
「何? 俺に見とれた?」
気づけば桜井がニヤケている。事実だったので瞬時に言い返せず、上目遣いでにらむだけ。
するとレイコは細い腕を取られ、桜井の腕と見比べられた。
自分より高い体温にふれて自分の体温が跳ね上がった気がした。
腕を戻され、物足りなさげに腕を伸ばして彼の鎖骨にふれる。
桜井はハッとした表情になり、レイコと視線を交わす。
その瞳同士で感情を交わし、桜井はレイコを力強く引き寄せてかみつくようなキスをした。
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