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1章
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昨年の秋。精霊たちが通う八百万学園から見える山々が赤や橙や黄の紗をまとい始めた頃、学園に通う風紀委員たちは紅葉狩りへ出かけた。
市電に乗って5、6つ先の電停の場所にある富橋公園。
地元住民からは桜の名所としても数えられている。
秋になると桜の葉が紅に染まり、やがて葉が散っていく。さながら秋の桜の舞だ。
広い公園を風紀委員一行はゆっくりと歩きながら紅葉を楽しんだ。
手作り弁当を持ってきてシートを敷き、桜紅葉に囲まれて食事をするのは格別だった。ちなみに弁当を作ったのは寮長と麓。
地面も鮮やかに染まるこの景色は、凪と同じ学年でありながら何百歳も歳が離れている焔によく似合っていた。彼の髪色は燃える炎そのものを表しているように見えるからだろう。
弁当の後は麓と同学年の光が鬼ごっこをやろうと提案し、寮長と麓以外が巻き込まれ、横腹を痛めながら走り回った。
年長者である凪や扇や霞がムキになって走り回っている姿は、子どものように見えておもしろかった。寮長と麓はシートの上でお茶を楽しみながら笑った。
しかし霞が一番最初にギブアップ。後ろでまとめた長髪をサラッとほどき、麓と寮長の元へ戻ってきた。
彼が麓の隣に座ることは何ら問題はないのだが。
霞はおとなしく正座している麓から、不自然な距離を取って腰を下ろし、ゆっくりと体を傾けて彼女の膝枕を借りた。
急に熱と重さを感じた太ももに麓は戸惑い、頬を染めて寮長に視線で助けを求めた。しかし、寮長はほほえむだけ。
カモミールの香りがする麓に癒されながら霞はいい気になっていたが、猛獣が彼に迫っていた。
鬼ごっこの鬼役になっていた凪が、蒼を追いかけるのをやめて方向転換し、まっすぐに霞に向かって襲い掛かった。
凪は霞を宙へ蹴り上げ説教を始めた。
こういった麓へのスキンシップと凪からのお咎めは、もはやワンセットとして恒例となっている。委員たちはシートから放り出された霞を指さして笑った。うなだれる彼の頭の上に紅葉が1枚、はらりと舞い落ちた。
その次の春。つまり今年の4月。
風紀委員は誰も進級することなく新学期がスタートした。
教師である霞や扇には進級なんてものはないが、大きな問題がある。それは凪からしたら実に下らないことだが、彼らは大真面目だ。
その問題というのは────どちらが今年の麓の担任になれるか、というもの。
始業式前夜は霞も扇も気になって気になってぐっすり眠ることができなかったらしい。さながら遠足前の小学生だ。
そして運命の日。軍配が上がったのは霞だった。
彼は他の教師や生徒に見られているのにも関わらず、飛び上がって喜び拳を突き上げた。反対に扇はその場で膝をついて落胆した。
彼らがオーバーな反応を取った理由は、(麓をのぞく)風紀委員以外は知らない。
そしてそれぞれが、新たな1年のスタートを切った。同時に麓が学園に入学してから1年が経った。
麓の学年、3年生は誰1人としてメンツは変わらなかった。その方が慣れているし過ごしやすい。
テストやクラスマッチなどといった行事はあっという間に過ぎ、夏休みに入った。
風紀委員恒例の夏の行事、凪の故郷である前波の滞在。
麓にとって2回目の前波。海は彼女にとって憧れの地であり、凪がずっと過ごしていたという別荘での滞在は新鮮だった。
前波だけでなく、そこへ行くまでの行程も彼女は好きだ。市電に乗って富橋駅まで行き、そこから電車に乗る。去年と同じように凪と2人で。…去年、電車に乗る前のハプニングを思い出して麓の顔は赤くなった。凪は覚えていないだろう────電車がホームに滑り込んでくる一瞬の出来事など。
凪の別荘の隣には沖田という一族が住んでいる。彼らは代々凪と交流しており、同時に人の姿をした精霊のことを知っている。
涼し気に肩を出すデザインのワンピースを着た麓は、扇と夜の海岸を歩いた。遠くにフェリーや二河港の光がぼんやりと見える様子はどこか幻想的だった。
麓がその景色をしばらく楽しんでいたくて立ち止まったら、ずっと歩調を合わせていていた扇が隣に立った。
彼は細い指で麓の髪をなでた。クシャッと髪をかき回すような、ではなく、そっと繊細なものにふれるように。
その手が毛先まで届くとゆっくりと移動し、腰に腕を回して引き寄せた。
手の動きは優しいが扇情的で、麓の胸の高鳴りを控えさせてくれなかった。
それからまた秋が来てテストが終わり、今年も残り1ヶ月を切った。後は冬休みを待つばかり。さらにクリスマスという冬ならではの行事が待っている。
市電に乗って5、6つ先の電停の場所にある富橋公園。
地元住民からは桜の名所としても数えられている。
秋になると桜の葉が紅に染まり、やがて葉が散っていく。さながら秋の桜の舞だ。
広い公園を風紀委員一行はゆっくりと歩きながら紅葉を楽しんだ。
手作り弁当を持ってきてシートを敷き、桜紅葉に囲まれて食事をするのは格別だった。ちなみに弁当を作ったのは寮長と麓。
地面も鮮やかに染まるこの景色は、凪と同じ学年でありながら何百歳も歳が離れている焔によく似合っていた。彼の髪色は燃える炎そのものを表しているように見えるからだろう。
弁当の後は麓と同学年の光が鬼ごっこをやろうと提案し、寮長と麓以外が巻き込まれ、横腹を痛めながら走り回った。
年長者である凪や扇や霞がムキになって走り回っている姿は、子どものように見えておもしろかった。寮長と麓はシートの上でお茶を楽しみながら笑った。
しかし霞が一番最初にギブアップ。後ろでまとめた長髪をサラッとほどき、麓と寮長の元へ戻ってきた。
彼が麓の隣に座ることは何ら問題はないのだが。
霞はおとなしく正座している麓から、不自然な距離を取って腰を下ろし、ゆっくりと体を傾けて彼女の膝枕を借りた。
急に熱と重さを感じた太ももに麓は戸惑い、頬を染めて寮長に視線で助けを求めた。しかし、寮長はほほえむだけ。
カモミールの香りがする麓に癒されながら霞はいい気になっていたが、猛獣が彼に迫っていた。
鬼ごっこの鬼役になっていた凪が、蒼を追いかけるのをやめて方向転換し、まっすぐに霞に向かって襲い掛かった。
凪は霞を宙へ蹴り上げ説教を始めた。
こういった麓へのスキンシップと凪からのお咎めは、もはやワンセットとして恒例となっている。委員たちはシートから放り出された霞を指さして笑った。うなだれる彼の頭の上に紅葉が1枚、はらりと舞い落ちた。
その次の春。つまり今年の4月。
風紀委員は誰も進級することなく新学期がスタートした。
教師である霞や扇には進級なんてものはないが、大きな問題がある。それは凪からしたら実に下らないことだが、彼らは大真面目だ。
その問題というのは────どちらが今年の麓の担任になれるか、というもの。
始業式前夜は霞も扇も気になって気になってぐっすり眠ることができなかったらしい。さながら遠足前の小学生だ。
そして運命の日。軍配が上がったのは霞だった。
彼は他の教師や生徒に見られているのにも関わらず、飛び上がって喜び拳を突き上げた。反対に扇はその場で膝をついて落胆した。
彼らがオーバーな反応を取った理由は、(麓をのぞく)風紀委員以外は知らない。
そしてそれぞれが、新たな1年のスタートを切った。同時に麓が学園に入学してから1年が経った。
麓の学年、3年生は誰1人としてメンツは変わらなかった。その方が慣れているし過ごしやすい。
テストやクラスマッチなどといった行事はあっという間に過ぎ、夏休みに入った。
風紀委員恒例の夏の行事、凪の故郷である前波の滞在。
麓にとって2回目の前波。海は彼女にとって憧れの地であり、凪がずっと過ごしていたという別荘での滞在は新鮮だった。
前波だけでなく、そこへ行くまでの行程も彼女は好きだ。市電に乗って富橋駅まで行き、そこから電車に乗る。去年と同じように凪と2人で。…去年、電車に乗る前のハプニングを思い出して麓の顔は赤くなった。凪は覚えていないだろう────電車がホームに滑り込んでくる一瞬の出来事など。
凪の別荘の隣には沖田という一族が住んでいる。彼らは代々凪と交流しており、同時に人の姿をした精霊のことを知っている。
涼し気に肩を出すデザインのワンピースを着た麓は、扇と夜の海岸を歩いた。遠くにフェリーや二河港の光がぼんやりと見える様子はどこか幻想的だった。
麓がその景色をしばらく楽しんでいたくて立ち止まったら、ずっと歩調を合わせていていた扇が隣に立った。
彼は細い指で麓の髪をなでた。クシャッと髪をかき回すような、ではなく、そっと繊細なものにふれるように。
その手が毛先まで届くとゆっくりと移動し、腰に腕を回して引き寄せた。
手の動きは優しいが扇情的で、麓の胸の高鳴りを控えさせてくれなかった。
それからまた秋が来てテストが終わり、今年も残り1ヶ月を切った。後は冬休みを待つばかり。さらにクリスマスという冬ならではの行事が待っている。
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