Eternal Dear7

堂宮ツキ乃

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2章

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 まさか本当にこのことが起きるなんて。

 というかそれ以前に、なぜ事前に今日のことが見えたのか…。

 娘は発覚した不思議な力に嫌悪感を抱きました。

 もしこの先、誰かの不幸な未来が見えてしまったら────?

 しばらくはこのことで悩みました。

 しかし娘は一晩眠ってしまえば、気になっていた悩みを忘れられるタイプ。

 次の日には忘れた…わけではありませんでしたが、嫌な方向に捉えることはなくなりました。

 娘にはそんなことよりも、大事なことがあるからです。

 彼女は長年、ある夢を持ち続けていました。

 それは、多くの子どもたちに学問を教えること。

 彼女は弟より頭の出来が劣ると言っても、十分に優秀な学力を持っています。

 さらに、様々なことを学ぶことが好きでした。

 そのことを家族に話した時は、貴族の娘が先生のごっこ遊びでも始める気か、と鼻で笑われてしまいました。

 しかし娘は必死に頼み込み、とうとう折れた家族から許しをもらって教鞭を持つことができるようになりました。

 田舎にポツン、とある小さな私塾。

 そこが娘の勤め先です。

 当時にしては珍しい、学力のあるものでしたが教える側としては全くの素人。まずは、初老のおだやかな男性主宰の補佐から始まりました。

 子どもの数は多くはありませんが、皆素直でいい子たちばかりでした。

 そして皆一様に、娘も主宰のことを慕っていました。

 やがて彼女も子供たちに慕われ、授業が終わるとよく遊んでいました。

 そんなある日。

 露店が立ち並ぶ町で、主宰のお使いをしていた時のことでした。

 野菜を大量購入しようと店の女将に合計金額を聞くと、所持金ではあとわずか足りない。

(先生ー! お小遣い足りないわよ! 何がこんなもんでいいじゃろ、よっ!)

 娘が心の中で悪態をつき、どうしたらいいものかと悩んでいると、横からスッと現れた人がいました。

「女将。いくらだ?」

 娘が財布から目を離すと、そこには非常に端正な作りの顔をした男がいました。

 美しい、よりも麗しい、が似合いそうなきれいな青年。

 肌は嫉妬しそうなほど白くきれいで、黒髪は水に濡れたような見事な艶を放っていました。

 彼女はしばしその青年に目を奪われてしまいました。

 近所に住む意地っ張りな青年も美形ではありますが、今目の前にいる彼は違ったあでやかさがありました。

「もし、お嬢さん。足りない分は私が払おう」

「は、はい…」

 男に促されて娘はガラにもなく、呆けて小さな声で返事をしました。

 いつもだったらこんな、いかにも女な声は出さないのに。

 彼女は女将に所持金を全て渡し、大量の野菜を受け取りました。

 両手で抱え持ちきれないほどの量。

 それを男は横から取り、軽々と持ち上げました。

「私が持っていこう。家はどこだ?」

「あ、えっと…家じゃないんですけど」

 娘は未経験なことに胸を高鳴らせながら、道案内をしました。

 町から私塾までは距離があるので、2人は歩きながらたくさんのことを話しました。

 聞けば紳士風の落ち着いた青年は、娘より年下。

 相変わらず心臓は早鐘を打ってうるさいが、次第にいつもの調子に戻っていきました。

 隣に立っていると、彼は冷たい表情をしていることが多いことに気が付きました。

 しかし彼は笑いながら時々、優しい笑顔を見せるのです。

 表情とはちぐはぐな優しさに、娘は顔が赤くなりました。

 それを見られるのが恥ずかしくてつい、顔をそらしてしまいます。

「…どうした?」

「う。ううん、何もない!」

「そうか? 顔があk」

「夕陽のせいよ!」

 娘は彼の言葉を食い気味に遮りました。

 やがて私塾に着くと、青年は主宰からお礼として受け取った漬物を受け取って帰ろうとしました。

 主宰は橙色の空に向かっていくカラスを見送り、娘にも”今日は帰りなさい”と言いました。

 それを聞いた青年は、娘を彼女の家まで送っていくと申し出ました。

「教職は君によく似合っている」

「あ…ありがと…! 長年の夢だったの」

 教師となったことを認められたように思えて、お礼を言う声が力んでしまった。

「ところでさっき…」

「ん?」

「なんで私がお金が足りないって分かったの? 態度に出したつもりはなかったんだけど」

「…あぁ。そのことか」

 男はフッと目を閉じて口元をゆるめると、いたずらっぽい顔になって片目を閉じた。

「実は私はな…相手の心が読めるんだ」

 娘はポカーンとして、彼が言ったことをリカできませんでした。

 やっと頭が働いてくると、彼女は田んぼに囲まれた道のど真ん中で笑いました。

「アハ…ハハハハハッ! あんたでもそんな酔狂なことを言うのね! アハハ!」

「…笑いすぎだろ」

 青年は娘の口元に、長くほっそりとした人差し指を当てました。

 その表情は冷たさから一転して、娘のことを愛おしそうに見つめるものになっていました。

「こらこら。伊達に貴族のお嬢様ってわけじゃないだろ? でかい口を開けて笑うなんてみっともない」

「な゛っ。悪かったわね。ていうか私にはお嬢様なんて大層な称号は似合わないわよ。無理して呼ばなくていいわ。なんせ、こんなみっともない顔を平気で人に見せるんだから」

「私は無理などしていないが。ごく自然に言ったつもりだ」

 娘はハッと息を呑んでしまいました。

 今まで、誰にもそんなことを言われたことがなかったからです。

 青年がお世辞で言っているようには見えませんでした。

 体中の血液が沸騰し始めたようでした。

 茹で切ったタコのような顔をした娘の横髪に、青年はゆっくりと指を絡めました。

 瞳をやわらかく細め、表情は甘くとろけていきました。

「おもしろいお嬢さんだ…こんなに顔を赤くして。これは夕陽のせいじゃないな? だとしたら────」

「あ…あんたのせいよバカッ! 初対面で口説き文句紛いなことばっか吐きよってからに! そ、そんなことを言われたら顔の1つや2つは赤くなるわよ!」

「顔は1人に1つしかない」

「うるさーい! 言葉の綾よ!」

 娘は茹でダコの顔で青年に噛みつきました。

 しかし彼は楽しそうにほほえみ、指先で髪をいじっているだけでした。

 この時すでに、2人の心には恋と言う名の感情が芽生えていました。

 いわゆる、”一目ぼれ”というヤツでした。

 2人はそれ以降も行き会いました。

 町に出掛ける度に会うだけだったのが、次第に私塾の帰りや休日にも、と回数が増えていきました。
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