Eternal Dear3

堂宮ツキ乃

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1章

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 今、3年生の家庭科の授業ではポケットティッシュカバーを作っている。ちなみに手縫い。

 各自で購入してきた布と糸を使い、手順にしたがって作成していく。作成速度は各々の器用さによる。

 麓が使っている布は、ゴールデンウイーク中に寮長と買いに行ったもの。ブルーの下地に黄色の小さな星がプリントされている。一目見て気に入った布だ。

「目ェ疲れた…。休憩!」

 見た目通り、と言ったら嵐は怒るだろうが、スポーツ万能な彼女は細かい作業が苦手であった。1番最初にギブアップするのはいつものこと。

 麓は黙々と縫い終え、手際よく玉留めをした。最初は苦手だった作業だが、今となってはお手の物だ。

「これ、縫ってる間にシワが寄っちゃったからアイロンかけてくるね」

「行てら~。ヤケドに気をつけてね」

 作業を中断している嵐に言われ、麓は席を立ってアイロンが設置されている作業台に布を置いた。

 ツリーハウスにいた頃はいつもこうして、自分で衣服にアイロンをかけていた。今では全て、学園にいる間に寮長がやってくれる。

 隣に気配を感じて顔を上げると、オレンジの髪が視界に入った。

 その手元にある布は、白地に水色の雪結晶。今の季節に不釣り合いだ。

 そのオレンジの髪の持ち主である女子────立花たちばなは、麓のことを見てにっこりと笑った。思わず、ぞっとしそうなにこやかさだ。

「あら麓さん。こうしてお話するのは久しぶりね」

「そうですね…。そういえば」

「ごめんなさい。クラスマッチの時のお礼をなかなか言えなくて」

「いえ。私は大したことをしてないので」

 麓は恐縮しつつ、アイロンを元に戻した。

 実は立花は、凪に想いを寄せる女子の1人。麓は彼女に"クラスマッチの時に凪と引き合わせてほしい"と頼まれたことがある。

 引き合わせたのはいいのだが、凪に聞いたら。

────付き合ってほしいって言われたから断った。

 らしい。実は全部、建物の陰に隠れて聞いていたのだが。

 その日以来、なぜか立花は学園に来る日数がしばらく少なくなり、話す機会がなかった。

「凪様に告白したんだけどフラれちゃって…残念だったわ」

「そうでしたか…。そんなに気を落とさないで下さいね」

 立花は目を伏せて毛先を弄んでいたが、顔を上げて吹っ切れた笑顔を見せた。

「大丈夫よ。もう凪様のことはきっぱり諦めたから。あの時は本当にありがとう。これからも同じクラスメイトとしてよろしく」

「こちらこそ」

 麓が軽く会釈した時に立花は妖しげにほほえんでいた。

 その目つきは見下しているような憎んでいるような────
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