義手の探偵

御伽 白

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縁結びの女の子

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 流暢な口調で話す女の子は、普段から言い慣れているという印象を与えた。
 誠は現れた少女に対して物怖じした様子もなく軽く一礼して、要件を話す。
「いえ、依頼したいのは別の人なんですが、どういう縁結びが出来るのか聞いてきて欲しいと言われたんです。良縁祈願みたいなことが出来るなら、お願いしたいと言われまして。」
「なるほど、アルミマンがご友人のために・・・・・・。それは、アイアンーーーー」
「アルミマンは今関係ないので!」
 少し慌てて否定する誠を見て女の子は、鈴を転がすように笑った。
(年下の女の子にまで遊ばれるのは、ある意味才能かもしれない)
 玲子はその姿を見ながらそんなことを考えていた。
「失礼しました。残念ながら良縁祈願なんかの漠然とした相手との縁は結べないんです。あくまで、一対一の縁結びのみに限らせていただいてます」
「なるほど。それでは、友人にもそう伝えておきます」
「申し訳ありません。もし、気になる方がいらっしゃるなら、一度いらしてください。とお伝えください」
「縁結びというのは、どうやってやるものなの? あなたには超常的な力があるとか?」
 玲子の質問に対して女の子は、付けていたサイドポーチから針と糸を取り出した。
 一見するとただの糸と針のように見える。糸に関しては市販品に間違いない。糸を巻いている厚紙に大手企業のロゴが入っている。
 重要なのは、針の方だとすぐに分かった。なんの変哲もない針ではあるが、年季の入った品で非常に丈夫そうだった。幻想遺物アーティファクト は一見してそれが奇跡の産物であると分かるものは少ない。玲子の腕などは、見れば明かに異質なものであると分かるが、大抵は見たところで効果が現れなければ、すぐには分からない。
「この針で誰かの普段使っている所有物同士を縫い合わせるとその方同士の縁が深くなるのです。五回縫えば、友人。十回縫えば、親友、恋人。十五回縫えば、家族、夫婦のような関係になれるんです。死ぬまで関係が終わることはありません。」
 玲子はその話を聞いて確信した。目の前に存在する針は幻想遺物だと。誠も同様らしく興味深そうに針を見ていた。
「縁を結ぶって具体的には、どうなるんですか?」
「関係性を生み出すんです。困っているところを助ける。家が偶然、隣になり仲良くなる。ご都合主義の様に関係が進展します。そして、結果的には縫った回数に応じた関係性になるのです。」
 都合の良い運命を勝手に作り出す幻想遺物アーティファクト 
 とんでもない代物である。悪用すれば、いくらでも悪いことが出来そうな能力の幻想遺物に玲子は、冷や汗が出る。
 玲子のそんな感情を察したのか女の子は、慌てて説明を付け足す。
「ああ、でも、勿論、お一人でくる方には、五回から十回です。十回の場合もお話を聞いて、関係性を判断してます。カップルで来られる方には十五回縫うこともありますけど・・・・・・」
 女の子自身もこの能力の強力さに関して理解はしている様で、ある程度制限をかけている様だった。
 依頼者の希望を叶えていけば、明らかに変な事態になるのは目に見えている。
 その辺りの基準を設けているのであれば、多少は安心出来る。彼女の判断を誤る可能性もゼロではないため、危険性は変わらず存在しているが・・・・・・
「さて、お話も終わりましたし、いただいても良いですか?」
 女の子は、玲子に催促する様に手を出した。
 どうやら、話だけでも油揚げは持って行くらしい。玲子は、油揚げの入った袋を差し出すと女の子は、嬉しそうに袋を受け取ると匂いを嗅いで、うっとりした表情を見せた。
「今夜は、いなりご飯ですかね。楽しみです。ナユタは神社の娘のくせに私にケチケチしてますし、現物を持っていけば流石に作らざるをえまい」
 その場で踊り出しそうなほど上機嫌な女の子は、ひとしきり匂いを堪能すると玲子達に頭を下げた。
「それでは、御機嫌よう。御用の際は、同じようにお願いしますね」
 スキップで去って行く女の子を見送る。
 悪い人間には思えない。どちらかというと欲望に素直な分かりやすいタイプだと玲子は思った。
「なんか普通の女の子だったね。」
 誠も女の子に対して脅威や危険を感じなかった様だった。
「ただ間違いなくあれは幻想遺物だった。でも、私の腕を外すのには使えなさそう。まあ、最初から分かってたけど・・・・・・」
 強力な能力を持つ幻想遺物ではあったが、玲子の願いを叶えてくれる代物ではなかった。
 特定の相手としか縁を結べないのなら、そもそも悪い男としか縁のない香穂には使えない。
「もう会うことはないかな。それよりもお腹が空いた」
「ああ、そうだね。どうするどこかで食べて帰る?」
 誠の誘いに玲子は首を振った。今日は、特大油揚げを購入しているので家に帰って、きつねうどんを食べる予定を建てている。
「家に帰って、きつねうどんを食べる」
「あ、玲子も買ったんだ」
「そう。一緒に二個買った。高かったし、どんな味か気になる。帰ってたべ・・・・・・」
 玲子は、自分のミスに気がついた。油揚げを分けて入れてもらうのを忘れていた。玲子は自分の油揚げまで女の子に渡してしまっていた。
 玲子は慌てて、女の子が去っていった方向に目をやるが、既に少女の姿はなく追いかけるのは不可能だった。
「どうしたの? 玲子」
「誠、うどんを食べに行こう。きつねうどんを」
 落胆した気持ちを抱きながら玲子は、いまさら別のものを食べる気にもなれずに誠をうどん屋に誘った。
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