義手の探偵

御伽 白

文字の大きさ
上 下
14 / 45

まことちゃん

しおりを挟む
「私はとんでもない者を生み出してしまったかもしれない」
 メイクが終了した香穂が誠の顔を見ながらそう呟いた。
「これほどとは・・・・・・恐ろしいものを私達は発掘してしまった」
「いや、人を科学者が研究の末に作ってしまった怪物みたいに言わないでよ」
 スウェットシャツにロングのスカートに着替えさせられた誠は、二人の反応に憂鬱げに呟いた。
 ウィッグも付けられており、その姿は紛れもなく女性にしか見えなくなっていた。元々、女性と比べても貧弱な細い体に髭一つ生えてこない顔。軽くメイクをすれば、女性に見せることは容易い見た目だった。しかし、香穂のメイクによってその原石は徹底的に磨かれ輝きを放つ宝石に生まれ変わった。
 誠は美女に変身を遂げていた。それは誠の面影を多少は残しながらも数少ない男性らしさを消し、女性らしさを引き立てていた。
 元々、男性ホルモンの薄い顔立ちだったが、ここまで引き立てられたのは、間違いなく香穂のメイク技術によるところが大きいだろう。
「これは誰が見ても女だ」
 玲子は満足げにそう呟き、
「いつでもお嫁に行けるよ! 誠くん! いや、誠ちゃん!」
 香穂はキラキラした表情を浮かべながなら、誠を褒め称えた。
「微塵も望んでないんですけど・・・・・・」
 誠は香穂から手鏡を貰って確認して、言葉を失った。そこに映るのは自分とは思えない誰かだったからだ。整った自分に少し似た美少女がいることに頭の理解が追いつかず、自分の顔を確かめる様に顔を触るがそれを鏡はしっかりと真似た。紛れもなく、自分の顔だった。
 誠は信じられないと視線をあげると自信満々な表情を浮かべる香穂と目が合った。
「ばっちり似合ってるでしょ?」
「気合い入れすぎじゃないですか。いや、たしかに自分とは思えないレベルですけど」
「はぁ、残念だなぁ。他の子に見せられないのが」
 香穂はそう呟きながらメイク道具を片付けていく。自分がメイクしただけあって人に見せびらかしたいという欲求があるが、誠の条件で人に見せないという条件が含まれているので、無理強いは出来ない。
 (ただ、嫌そうなこと言ってるけど、容姿に関して否定していないところが、可能性だなぁ)
 まだ、種を植えている段階、焦る段階ではない。女装に関して否定的な意見はないので、今後、こちら側に来てくれるかもしれない。と香穂はそう思いながら、悟ったような表情を見せる。
「見せても良いんじゃない? 多分、誰も誠だって気付かないし、せっかく、美人になったのに見せないのもったいない」
「いや、根本から間違ってるよ? 僕は別に美人になりたかったんじゃなくて」
 誠の言葉を遮るようにドアが勢いよく開いた。
しおりを挟む

処理中です...