義手の探偵

御伽 白

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見覚え

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「改めて自己紹介しますね。私は千里橋 ナユタです。それでこっちの変態が」
「千里橋 シロノです。さっきは悪ふざけしてすみませんでした。・・・・・・ぐすん」
 涙目でシロノは誠に謝罪した。ナユタが帰ってきて、状況を確認するとシロノは首根っこを掴まれ、別の部屋に連れていかれ、帰ってきた頃には、目が死んでいた。
 一体何があったのかは分からないが、連れていく時のナユタの冷たい表情は、誠とダンボールを運んでいた時とは、酷くかけ離れていた。
「まったく・・・・・・私のお客さんにセクハラするなんて・・・・・・すみません。美琴さん、根は悪い子じゃないんです。ただ、致命的なぐらい馬鹿なだけなんです」
 そういってシロノの頭を無理矢理下げさせて、ナユタは誠に再度謝る。
「シロノさんは別に頭は悪くは・・・・・・」
「シロノ?」
「大馬鹿ものです。ごめんなさい」
 ナユタの圧に負けてシロノの意見は黙殺された。見ている誠の方が不便に感じるほど、上下関係が出来上がっている。
「次から気を付けていただければ・・・・・・それよりも、お二人は姉妹なんですか?」
 明らかに髪の色の異なる二人だが、二人とも千里橋の名字を名乗っていることが気になった。シロノは、透き通った綺麗な銀髪であり、ナユタは闇色の艶のある髪である。シロノの方は異国の血が明らかに混じっているとしか思えなかったが、流暢に日本語を話しているため、育ちは間違いなく日本なのだろうと誠は予想していた。
「いえ、身寄りがない私をナユタのお父さんが引き取ってくださったんです。なので、ナユタとは血の繋がりはありません。というか、記憶もないので自分が何者なのかも、よく分かってないんですけどね。」
「・・・・・・記憶喪失ってことですか?」
 衝撃的な告白に誠は驚いていたが、シロノは特に気にした素振りもなくあっさりと首肯した。シロノにとって、その辺りは踏ん切りがついていることである様で、表情にも笑顔が見られる。
「ここでの生活は楽しいですし、ナユタとナユタのお父さんに拾っていただいて助かりました」
 そうでなければ、今頃、露頭に迷って、体を売って生きていたかもしれない。とシロノは裾で涙を拭う振りをする。存外、否定出来ない話に誠もどう反応すれば良いのか分からない。
「シロノは、口だけなので、絶対そんなこと出来ませんよ」
「ナユタはシロノさんの本気を知らないからそんなこと言えるんですよ。シロノさんが本気を出せば、この溢れんばかりの魅力で傾国させるのも夢じゃないですよ。見てくださいこの艶かしいポーズ!」
「うわー、魅力がすごーい」
「馬鹿にしてますよね!?」
「してないよ。あまりの魅力に笑いが止まらなくなりそう」
「馬鹿にしてるじゃないですか! うがー!」
 二人のじゃれ合う様な掛け合いは親しさが感じられ、誠も微笑ましくその様子を眺めていた。
(けど、やっぱりシロノさんって・・・・・・)
 誠は状況を整理しながら、出されたお茶とお菓子をいただく事にした。
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