義手の探偵

御伽 白

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作戦会議?

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「それで情報は集まったんですか?」

 自室で横になりながら、シロノは誠とスマホで通話を繋げる。

 シロノの部屋は、白と黒の物が基調とされた小綺麗な印象の部屋である。そのほとんどが、シロノが神社の手伝いでもらったお小遣いを利用して買ったものだ。

 ナユタのお父さんは、基本的にナユタと仲のいいシロノにも甘いので事あるごとにおやつやお小遣いを一緒に渡してれるので、一年で随分ものが増えていた。

『うん。一応ね。ざっくりだけど話そうか? あのね。名前は、桐生 真斗。年齢はーーー』
 誠が口から桐生 真斗に関する膨大な情報が伝えられる。最近の趣味や行きつけのお店などが列挙される。

「ちょ、ちょっと待ってください! ついさっきでなんでそこまで詳しいんですか⁉︎」

『え? ちょっと知り合いを通じて調べただけだよ。今回は、悪名もそれなりにある人物だったしね』
 さらりとそんなことを話す誠に背筋が寒くなるのを感じる。個人情報なんてものが存在しない。

『気にしない方が良い。誠はそれぐらいしか役に立たない』

 電話の向こうから女性の声が聞こえてシロノは少し驚く。

『流石に酷くないかなぁ。あ、ごめんね。シロノさん。公園で一緒にいた女性いたでしょ? あの子』

 そう言われ、シロノはすぐに思い出す。銀色の髪の綺麗な女の人だ。暗がりで見えにくかったこともあってはっきりとした顔は分からないがなんとなく美人の気配がした。自分が視線を向けられることに慣れているそんな雰囲気を放っている。それがシロノが玲子に感じた印象であった。

 しかし、どうしてこんな夜遅くにその女性が一緒にいるのだろう。

「でもなんで、その方が電話に? 今どちらにいらっしゃるんですか?」

『ん? 玲子の家だけど、料理を作りに来てるから』

「・・・・・・誠さん。世の中には美人局と言うものがありまして」

『いや、僕達はそういう関係じゃないからね⁉︎ 玲子は放っておくと永遠に趣味に没頭するタイプだから、放って置けないだけだからね⁉︎』

「そんなツンデレ彼女みたいな反応されると下手に勘繰っちゃいますけど」

『いや、本当に違うからね。関係性で言うとシロノさんとナユタさんみたいな感じだよ。友達っていうか』

「私、ナユタの子供を産む覚悟がありますけど」

『ごめん。失言だった』

『誠、私の子を産む気だったのか』

『玲子には付いてないでしょ!』

(仲良いなこの人達)

 少し微笑ましさを感じながら、シロノは情報を整理する。

 縁を切る関係上、数日中に糸を切らなければ、結婚が成立してしまう。

 それ以降に切ると書類上では夫婦ということになって今後に影響が出てしまう。

『縁結びの関係消滅能力は、記録には影響が出ないんだよね。写真とか、書類とか』

「はい。糸を切ると相手のことを思い出せなくなります。あくまで記憶だけなので、書類関連とか写真は無理ですね」

 具体的に理解している訳ではないが、幻想遺物「縁結び」は、結んだ縁を因果関係を無理矢理に繋げ、より強固な縁にするものである。しかし、繋いだ糸が切れるとその相手に関することを思い出せなくなってしまう。そして、出会うこともなくなってしまう。完全に縁を無くすことになる。

 ある意味、縁を一度切ってしまえば、悠美を守る最強の加護になる訳である。

 しかし、書類上、例えば結婚の申請をしてしまうとどうなるのかは、皆目見当が付かない。知らず知らずのうちに見知らぬ人と結婚していることになれば、離婚手続きなどの作業で会うことになりそうな気もするが、その辺りも縁を切った効果でなんとかなるのか分からない。

『聞いた話によると桐生 真斗は数日中に籍を入れて結婚するらしい。結婚式はその後に考えてるみたいだけど』

「早いですね。なんだか、かなり焦っている様な・・・・・・」

『桐生 真斗にも幻想遺物の影響が出てるのかもしれないね。関係性がマイナスになっている相手を無理矢理、熟年夫婦ぐらいの関係に仕立て上げるなら、ある意味当然な速度なのかもしれない』

「確かにそうですね。つまり、時間はそれほどないってことですね」

『そういうことになるね。期間は数日中だ。出来れば説得したいところだけど、人柄が噂通りなら難しいだろうね』

 お世辞にも品行方正とは言えない人物である。糸を切るリスクについてもシロノはきちんと説明しているので、糸を切ることに協力をしてくれるとは思えない。

「非合法なやり方をするんですか?」

『まあ、それも視野に入れて考えてるよ。幻想遺物関連の問題は、基本的に刑事事件には出来ないからね』

 幻想遺物のような超常現象を起こす物は、事象を他者に説明出来ない。例えば、シロノの持つ縁結びは、やっていることは、糸で物同士を結ぶという行為だけである。

 それだけで、罪に問われることはない。それの因果関係は確かに存在しているのだが、それを論理的に説明を出来ない。

『とはいえ、まずは明日にでも危険性を話して説得してみるよ』

「え、誠さんが行くんですか?」

 思わぬ言葉にシロノは、体を慌てて起こした。とてもではないが、誠は荒事が得意なタイプではない。

『流石に女子高生に行かせる訳には行かないよ』

「でも、それじゃあ・・・・・・私は何も協力が出来ません」

 自分の不始末を他人にさせるのが嫌で、シロノは弱々しく呟いた。

「元はと言えば、私がくだらない自己満足のためにやったことが原因です。人の運命に干渉するような大きな力を何も考えずに使って、その結果、人の人生を壊しかけている。のうのうと誠さんに代わりに説得してもらって、はい、終わりなんて都合の良いことは、私自身が許せません」

『・・・・・・わかった。じゃあ、シロノさんに説得をお願いする。一人では行かせられない。僕と玲子も一緒に行く』

「玲子さんも?」 

『うん。玲子は最悪の事態になった時に一番頼りになるよ。多分』

『元から、誠よりも頼りになる。誠の頼りなさは、金魚掬いのポイと同じレベル』

『確かに荒事は向かないけどさ・・・・・・もう少し容赦をね』

 電話の向こうで項垂れた誠の声が聞こえて、少し同情する。

「でも、ちょっと分かるんだよなぁ」

 シロノは電話に聞こえないように呟いた。
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