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予定外
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計画実行は、翌日に行われることになった。
三時過ぎに悠美を果穂の店に待ち合わせておいてもらう。果穂にも協力を依頼して、連絡を断つために電波の入りにくい場所に移動をし、連絡がつかないようにしてもらう。
そうすれば、強迫行為の事実関係を証明することは出来ない。
客観的に相手は、誠の主張を否定することが出来なくなる。
誠の荒唐無稽な話も無視は出来なくなる。
「悠美さんのことが好きだったんです。彼女が自分の気持ちを曲げられて付き合うぐらいならこの手で殺してしまお
うと思うんです」
練習するように誠は、自分の中の設定を口に出す。
「なんというか、自分で言ってて胡散臭い」
言えば言うほど全く現実味が感じられない。
誠の恋愛観の中で、人を殺してまで愛したいと言う欲求を抱いたことがない。それほどまでに強い感情を他人に対して抱いたことがない。
未知の物を理解するのは難しい。人間に鳥が空を飛ぶ気持ちを理解するのが難しいように、想像でしかない代物を演じることは難しい。
それほどまでに我を忘れるほどの強い感情を誠は抱いたことがない。
だからこそ、演じることが出来ない。出来る気がしない。
しかし、それは相手も同じことだ。相手にもそんな決死の覚悟が理解できる訳がない。 誠は、マンションのエントランスから、真斗の家のチャイムを鳴らす。呼び鈴が鳴り返事を持つ。
しかし、いくら待っても返事がない。
何度か呼び出してみるが、反応が全くない。
「外出中? おかしいな。悠美さんに一応、家にいるかどうかを確認してもらってたんだけど」
留守では、人質計画も無駄になってしまう。その可能性を省くために家を訪ねる前に悠美に果穂経由で尋ねてもらうように依頼していた。家を出る前に真斗に確認してもらって、家にいる予定だと話を聞いていた。
誠は、エントランスから出て、裏手の駐車場に足を運んだ。
いくつもの車が停められた駐車場には番号が白い文字で書かれており、部屋番号から真斗の駐車スペースを推測することが出来る。
部屋番号の場所を探してみると真斗の車はない。間違いなく外出している。
「急用? にしては、悠美さんが家を出てからすぐに出てるだろうし」
誠が来たのは、悠美が家を出てから一時間程度しか経っていない。
在宅業の真斗は、他に比べて仕事などで外出することは少ない。交友関係もそれほど多い訳ではない。誠は、調べ上げた事実から、違和感を少し感じる。
「そんなに外出が好きなタイプではないらしいから、何か理由があるとは思うんだけど、流石にこれだけじゃ、何も分からないよね」
「あなた、何をしてるんですか?」
突然、背後から声をかけられ、誠はびくりと体を跳ねさせる。
慌てて後ろを振り返るとそこには、中年の男がいた。それなりに恰幅の良い男で、温和そうな雰囲気を放っている。
手には、箒が握られており、駐車場の掃除をしていたようだった。
誠は慌てて「僕は怪しいものではなくてですね。ちょっと、知り合いが出かけてるか、確認したくて」と事情を話す。
「ああ、桐生さんか。一時間前ぐらいに出て行ったけどなぁ」
「一時間くらい前にですか?」
「多分、それぐらいだったはずだけどな」
出かける予定がないと言っておきながら、悠美が外出した途端に家を出る。その行為の脈絡のなさに違和感がより強くなる。
何か後ろめたいことでもやろうとしているのだろうか。
「なるほど、じゃあ、また今度、会いにきます。ありがとうございます」
「そうかい」
誠は、男にお礼を言ってその場を離れると玲子とシロノに連絡を入れる。
『外出してて不在だった。悠美さんが出かけてからすぐに外出してるみたい』
『了解。なら、別のタイミングを作るしかない』
玲子からはすぐに返信が来るが、シロノからの連絡は返ってこない。
時刻は、四時半。そろそろ高校生の下校時刻であるため、連絡が遅くなっていても不自然ではないのだが、この一件に非常に気にしていたシロノからの連絡がないことが誠は気になった。
「まあ、一応、連絡しておくか」
スマホを取り出して、シロノに電話をかけてみることにする。
『おかけになった電話番号は、電源が入っていないか、電波の届かない場所にあるため、かかりません』
すぐに電話からそんな声が聞こえてくる。
「おかしいよな。これ」
突然の音信不通。何かあったのか不安にならない訳がない。シロノの身に何かあったと考えるのは、突飛な思考ではない。
そして、このタイミングで外出している理人との因果関係を感じざるを得ない。
「逆にシロノさんが誘拐されたんじゃないのか? これ」
誠は、そう呟いて慌ててシロノの家に向かった。
三時過ぎに悠美を果穂の店に待ち合わせておいてもらう。果穂にも協力を依頼して、連絡を断つために電波の入りにくい場所に移動をし、連絡がつかないようにしてもらう。
そうすれば、強迫行為の事実関係を証明することは出来ない。
客観的に相手は、誠の主張を否定することが出来なくなる。
誠の荒唐無稽な話も無視は出来なくなる。
「悠美さんのことが好きだったんです。彼女が自分の気持ちを曲げられて付き合うぐらいならこの手で殺してしまお
うと思うんです」
練習するように誠は、自分の中の設定を口に出す。
「なんというか、自分で言ってて胡散臭い」
言えば言うほど全く現実味が感じられない。
誠の恋愛観の中で、人を殺してまで愛したいと言う欲求を抱いたことがない。それほどまでに強い感情を他人に対して抱いたことがない。
未知の物を理解するのは難しい。人間に鳥が空を飛ぶ気持ちを理解するのが難しいように、想像でしかない代物を演じることは難しい。
それほどまでに我を忘れるほどの強い感情を誠は抱いたことがない。
だからこそ、演じることが出来ない。出来る気がしない。
しかし、それは相手も同じことだ。相手にもそんな決死の覚悟が理解できる訳がない。 誠は、マンションのエントランスから、真斗の家のチャイムを鳴らす。呼び鈴が鳴り返事を持つ。
しかし、いくら待っても返事がない。
何度か呼び出してみるが、反応が全くない。
「外出中? おかしいな。悠美さんに一応、家にいるかどうかを確認してもらってたんだけど」
留守では、人質計画も無駄になってしまう。その可能性を省くために家を訪ねる前に悠美に果穂経由で尋ねてもらうように依頼していた。家を出る前に真斗に確認してもらって、家にいる予定だと話を聞いていた。
誠は、エントランスから出て、裏手の駐車場に足を運んだ。
いくつもの車が停められた駐車場には番号が白い文字で書かれており、部屋番号から真斗の駐車スペースを推測することが出来る。
部屋番号の場所を探してみると真斗の車はない。間違いなく外出している。
「急用? にしては、悠美さんが家を出てからすぐに出てるだろうし」
誠が来たのは、悠美が家を出てから一時間程度しか経っていない。
在宅業の真斗は、他に比べて仕事などで外出することは少ない。交友関係もそれほど多い訳ではない。誠は、調べ上げた事実から、違和感を少し感じる。
「そんなに外出が好きなタイプではないらしいから、何か理由があるとは思うんだけど、流石にこれだけじゃ、何も分からないよね」
「あなた、何をしてるんですか?」
突然、背後から声をかけられ、誠はびくりと体を跳ねさせる。
慌てて後ろを振り返るとそこには、中年の男がいた。それなりに恰幅の良い男で、温和そうな雰囲気を放っている。
手には、箒が握られており、駐車場の掃除をしていたようだった。
誠は慌てて「僕は怪しいものではなくてですね。ちょっと、知り合いが出かけてるか、確認したくて」と事情を話す。
「ああ、桐生さんか。一時間前ぐらいに出て行ったけどなぁ」
「一時間くらい前にですか?」
「多分、それぐらいだったはずだけどな」
出かける予定がないと言っておきながら、悠美が外出した途端に家を出る。その行為の脈絡のなさに違和感がより強くなる。
何か後ろめたいことでもやろうとしているのだろうか。
「なるほど、じゃあ、また今度、会いにきます。ありがとうございます」
「そうかい」
誠は、男にお礼を言ってその場を離れると玲子とシロノに連絡を入れる。
『外出してて不在だった。悠美さんが出かけてからすぐに外出してるみたい』
『了解。なら、別のタイミングを作るしかない』
玲子からはすぐに返信が来るが、シロノからの連絡は返ってこない。
時刻は、四時半。そろそろ高校生の下校時刻であるため、連絡が遅くなっていても不自然ではないのだが、この一件に非常に気にしていたシロノからの連絡がないことが誠は気になった。
「まあ、一応、連絡しておくか」
スマホを取り出して、シロノに電話をかけてみることにする。
『おかけになった電話番号は、電源が入っていないか、電波の届かない場所にあるため、かかりません』
すぐに電話からそんな声が聞こえてくる。
「おかしいよな。これ」
突然の音信不通。何かあったのか不安にならない訳がない。シロノの身に何かあったと考えるのは、突飛な思考ではない。
そして、このタイミングで外出している理人との因果関係を感じざるを得ない。
「逆にシロノさんが誘拐されたんじゃないのか? これ」
誠は、そう呟いて慌ててシロノの家に向かった。
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