ぼっちな魔女の魔法人形

御伽 白

文字の大きさ
30 / 33

お買い物と秩序のギルド

しおりを挟む
 この街のことを私はほとんど知りません。

 煉瓦で作られた街並みは、中世の世界のようですが、中世の世界と違うものが、いくつかあります。

 一つは、様々な種族の人々がいること。やはり、人間が圧倒的に多いですが、獣人、一纏めに呼んでしまいましたが、猫や狼、兎を思わせる姿をした人。長い耳を持った綺麗なエルフ、小柄で髭を蓄えたドワーフ、鬼を思わせる角の生えた人、明らかにトカゲの姿をした者までいるのですから、この世界の種族は、かなりの数、存在しているのでしょう。

 異世界ならではの光景です。そして、さらにこの世界にしかないもの、魔道具の存在でしょう。
 
 等間隔に設置された電灯や調理に使われている器具、この世界の道具のほとんどが、魔道具を使用しています。

 魔道具の良いところは、全てが内臓された魔石によって事象を起こすので、配線を外部から引く必要がりません。

 その辺に水やりをしているホースも取手と発射口が存在するだけの非常にコンパクトなデザインですし、水やりに水道設備が必ずしも必要ではないのが、この技術の特異な部分でしょう。

 私は、物珍しげに周囲を歩き、立ち止まりました。
 
「それで、どこに行けば、調理器具は購入できるのですか?」

「あんた、目的地も知らないで歩いてたのかよ」

「この街は、初めてなので、どこに何があるか知りません」

 ただ、買い物で街を見回る機会がなかったので、ついでに歩いてただけですからね。

「よくもまあ、それで、自信満々に先頭を歩いてたな」

「褒めても何も出ませんよ?」

「褒めてねぇよ」

「それで調理器具はどこに?」

「まあ、工房に行けば色々手に入るんじゃないか?」

「工房? なんの工房ですか?」

「そりゃあ、魔道具のだろ。まあ、武具なんかも取り扱ってる場所もあるが、それは別の場所だな。魔道具の店が多いのはこっちだ」

 やはり、この町に住んでいるだけあって、詳しいですね。

 ガルダさんに案内されていく場所は、少し先ほどに比べて、高級感のある建物が増えてきました。数階建てのレンガ造りの建物ですが、豪華な装飾が施された建物には、巨大なガラスがはめ込まれており、内装がしっかりと見えるようになっています。

 ウィンドウショッピングの出来る場所として、存在している感じでしょうか。魔道具だけではなくて、服なども飾られている所を見ると本当に様々な品が取り揃えられている場所なのでしょう。

 そんな雰囲気のい場所のせいか、客層が少し変化してきます。

 先ほどに比べて、住人の服装の質が良くなっています。布も艶のあるものが多く、高級感を感じられる服装を着ている人も大勢見られるようになりました。

 もしかして、この地域は、富裕層の方が多いんでしょうか。

「随分と人の雰囲気が変わりましたね」

「まあ、魔道具は高いものも多いからな。金持ちがよく利用してる」

「もしかして、調理用の魔道具って高額だったりしますか?」

「いや、素材にこだわらなければ、銅貨8枚ぐらいで変えると思うが」

 それは良かった。私も多少は懐が温かいとはいえ、高額すぎるものを買えるほどではないですからね。

 ガルダさんに案内された先は、1つの小さな工房でした。煌びやかな印象の道を通り抜け、裏手にある小さな建物です。

 ガルダさんは、躊躇なく扉を開くと「じゃまするぞ」と店内に入っていきます。

 もしかして、なじみの店なんでしょうか?

 私もガルダさんに続いていて、店内に入っていくと、長いひげをたくわえた老人が座っていました。

 かなり小柄な老人ですが、その体に弱弱しさはなく、どちらかというと筋肉質な印象を感じます。

 ドワーフの老人ですね。いえ、もしかすると老人に見えるだけで、老人ではないのかもしれません。

「おお、ガルダ。久しいな。買い物にでも来たのか?」

「ああ、今日は、客を連れてきたんだ」

「どうも。初めまして」

 ガルダさんが、私の方を見るので、一礼して挨拶をします。ドワーフの老人は少し驚いた表情を浮かべますが、ニヤリと笑いました。
 
「こりゃあ、かなりの美人を連れてきたな。お前の良い相手か?」

「いいえ、微塵もそのような可能性はない関係です」

 さすがに私の好みの相手ではないので、そう思われるのは癪です。

 私、どちらかというと女性が好みなので。ガルダさんの顔、ちょっと野性味が強すぎるので、タイプでもないですし。

 私がそういうと、ドワーフのおじさんは、ガハハと豪快に笑いました。ちょっと、この人山賊っぽい感じしますね。
 
「随分と脈のない相手を連れてきたもんだな。ガルダよ」

「うるせぇよ。さっさと仕事しろ」

「ああ、悪い悪い。んで、お嬢ちゃんは、何が欲しんだ?」

「コンロですね。それから、調理器具がある程度、見繕えれば良いでしょうか。価格は、銀貨5枚までで」

「なるほど。それなら、シンプルだが良い物があるぜ」

 そう言って、老人は奥の方から、箱を取り出しました。

 箱の中から取り出したのは、鉄板です。この鉄板が魔道具なんですか?

「小型コンロだ。特殊な魔法を組み込んでるから、上に鍋やフライパンなんかを置けば、温められる」

「IHですね」

「IH?」

「ああ、いえ、こっちの話です」

 そうですか、この世界にはない単語ですか。でも、機能的な部分では、IHクッキングヒーターです。

「価格は、銀貨3枚だ。問題点としては、火力が、強と弱の2つしか幅がないことだ。その分、細かな術式はないし軽くてコンパクトに使える」

「良いですね。買います」

「気前が良い嬢ちゃんだ。良いね。銀貨2枚で収まるように他も準備するから、ちょっと待ってな」

「よろしくお願いします」

 正直、調理器具の良し悪しは、私には分かりませんから、勝手に準備してくれるなら、それにこしたことはありません。

 切れない包丁とか渡されたら流石に困りますけど。

「俺らに教えるためだけにそんな高価な代物買っていいのかよ」

 まあ、確かに安くはない金額です。

 料理を教えたら、この道具類は彼らにあげるつもりですし。

 道具がなければ、今後、料理をすることも出来ませんしね。

 見ず知らずの犯罪者にこれだけ支援をしているのか、自分でもよく分かりませんけど、誘拐されたことの恨みよりも同情心の方が勝ってしまっているのです。

「私が、困ってる人を助けたくなる聖人だからでしょうか」

「お前、それ本気で言ってる?」

「いえ、まったく。正直、同情がないとは言い切れません。もしかしたら、ガルダさんの場所に私がいたかもしれませんから」

「物好きだな」

「あれ? 同情なんかいらねぇ! って突き返すのかと思いましたが」

「同情だろうとなんだろうと、得られるもんがあるなら、なんだっていいよ」

「そういうストイックなところは少し好感が持てます」

 プライドでは、飯は食えません。同情されたからって、それで人の価値は下がりませんからね。
 
「なら、頑張って今日中に私から学べるところは学んでくださいな」

「用意出来たぞ」

 私とガルダさんが話していると大きな袋を持った店主が出てきました。
 
 軽く中身を確認してみますが、それほど、見慣れない調理器具は見当たりません。包丁、おたま、ヘラ、まな板。うん。見慣れた品々です。

「さて、戻りますか」

 店主に軽くお礼を言ってから、ガルダさんの家に戻りました。

 そこで、私達は、家のそばで立ち止まりました。人通りの少ない路地裏にあるガルダさんの家に来客が数名いました。青い制服に身を包んだ男達です。

 私が近づくと男達はこちらに気づき、駆け寄ってきます。

「ご無事でしたか。あなたが拉致されたと連絡があり、救助に来ました」

 一人の男が私の前に声をかけてきます。少し神経質そうな印象の男の人ですが、私に対して微笑みかけると私を庇うように引き寄せました。
 
「・・・・・・はい?」

「男は確保しろ」

「了解いたしました」

 突如、男の言葉と共に背後にいた男達が、ガルダさんに近づき襲い掛かりました。ガルダさんは、少し抵抗しようとしますが、抵抗も虚しくあっという間に地面に倒され、押さえつけられます。

「お前を女性拉致の罪で捉える」

どういうことですか!?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

悪役令嬢と入れ替えられた村娘の崖っぷち領地再生記

逢神天景
ファンタジー
とある村の平凡な娘に転生した主人公。 「あれ、これって『ダンシング・プリンス』の世界じゃない」 ある意味好きだった乙女ゲームの世界に転生していたと悟るが、特に重要人物でも無かったため平凡にのんびりと過ごしていた。 しかしそんなある日、とある小娘チート魔法使いのせいで日常が一変する。なんと全てのルートで破滅し、死亡する運命にある中ボス悪役令嬢と魂を入れ替えられてしまった! そして小娘チート魔法使いから手渡されたのはでかでかと真っ赤な字で、八桁の数字が並んでいるこの領地収支報告書……! 「さあ、一緒にこの崖っぷちの領地をどうにかしましょう!」 「ふざっけんなぁあああああああ!!!!」 これは豊富とはいえない金融知識と、とんでもチートな能力を活かし、ゲーム本編を成立させれる程度には領地を再生させる、ドSで百合な少女の物語である!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

処理中です...