咲かない桜

御伽 白

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4章

Part 268『フロー』

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 胸の中に燃える言い様のない衝動を俺は感じていた。木箱の中から道具を取り出すのすらもどかしく感じるほどに、その衝動は、勢いを強めていく。

 鉛筆である程度の下書きをしてからそれに沿って、石に削り針を使って形をある程度整える。

 ここ数日、どうすれば良いのかを考えた俺は、象牙細工の職人の動画をネット上で漁った。本来ならば石細工の職人を探すべきだったのだろうが、一般的な石細工は、俺の作業に明らかに向いていなかった。

 作るものが石像などであり、等身大の人形などの大き物を作るならば良いが、俺が作ろうとしているのは逆にかなり小型で、大きくても20cmを越えることはない。

 削るために使用している機械も削り針などよりも近代的で大型の機械で行われていたため、参考にするのは難しかった。

 それ以前に現代の科学技術では、削り針ほどコンパクトで手軽に石を削れる道具も珍しいというのも理由ではあった。

 そこで思い出したのが象牙細工であった。仏像などやそれこそ、篝さんの作業はそちらに近い印象だった。木よりも丈夫で石よりも柔らかく加工がしやすい方法こそ違うが、確かに似ている部分はいくつかあった。

 ある程度の作業を動画で確認して、気付いたことは実践した。篝さんの作業も観察しながらどの作業の時にどの道具を使っているのかなどについても確認しては、応用していった。

 最初は、太い削り針をそこから少しずつ削り具合に応じて使う針を細くしていく。

 ここでの作業は気が散らない。山の上に位置するこの家の周りは、基本的に静かで落ち着いている。集中して作業をするのに非常に適していた。

 一つ一つの動作に注意しながら作業を進める。欲張って削り過ぎず、少しだけ削っていく。やらなさ過ぎは後で修正できるが、やり過ぎは、作品自体を大幅に修正したり、最悪修正不可能になってしまう。

 しかし、ここ数日で確かに人の形になっている。女性特有の身体付きにもなってきて、明らかに女性だと分かる程度には仕上がっている。

 作業をすればするほど、意識はクリアになっていくし、倦怠感もそれほど感じていない。最初の頃聞こえていた小さな音も頭に入ってこなくなる。

 時間を忘れる感覚、本当に一つの事にしか意識が回っていない状態で、そのほかの一切に思考を回している余裕がないほどに集中された状態だ。

 この感覚に入れるのは、一週間に一度あれば良い方で、こういった時は、良いものが出来ると体感的に分かっている。サクヤの前で作業をしていた時もこの感覚だった。

 そうして、作業して一時間後、俺の集中は途切れて、目の前にいるサクヤに気付いた。心なしかその目は冷ややかだ。

 「あ、サクヤ・・・・・・もう、そんな時間か・・・・・・」

 俺がそう呟くとサクヤは、「はい」と返事はしてくれるが、どことなく、機嫌が悪い。

 サクヤは、ずっと俺の作品を見ているようだった。グラビアアイドルのセクシーなポーズをしている女性の石像に
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