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4章
Part 317『これは自分勝手な想いだ。』
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***
殺したくはなかった。
相手は人生を一緒に歩みたいと思った女だ。たとえ異形に変わり果てたとしても共にありたかった。
しかし、それが俺のただの我儘であることを理解していた。
妻は美人な女ではなかった。けれど、人懐っこい性格で、花が咲いたような笑顔がとても魅力的な女だった。
知り合ったのは、本当に偶然だった。
売り物として出している石細工を見にきたあいつが興味を持って声をかけにきたのがきっかけだ。
修行ばかりの日々でまともに外の人間と関わりのなかった俺にとって新鮮で、惚れ込むのにそれほど時間はかからなかった。
想いを伝えて結婚するのも早かった。お互いを知りながら過ごすのもきっと楽しいからと彼女は笑っていた。
妻は、俺に新しい世界を教えてくれた。
彼女語る世界の全ては俺の中で色づいて見えて、彼女と過ごす日々は目まぐるしく変わり飽きない。
色々なものを見て、色々なことをした。
日々が過ぎれば過ぎるほど、想いは薄れるどころか、強くなるばかりだった。
しかし、悲劇はそんな彼女を変えた。
醜悪な姿に変わり、動くことすらままならないその在り様に意味などない。今目の前に存在している妻は、生きながらにして死んでいる。
それを理解していながらも彼女を殺さなかったのは、自分の可能性を諦めきれなかったからだ。
いつか技術が身につけばあいつを元に戻す呪具を作れるかもしれない。そうすれば、あの日々に戻れるかもしれないという希望を捨てられなかったからだ。
そんなところに技量を上昇させる妖刀が転がり込んできた。
一縷の望みを期待して俺は、自身に妖刀を突き刺した。その瞬間、自分の技量が高まるのを感じた。
それと同時に理解してしまった。
これは技量を上達させるというシンプルな代物ではないと。
将来にたどり着くであろう技能を前借りしているだけに過ぎない。
つまりは自分の才能以上のことは出来ない。自分自身の限界を突きつけられる妖刀だ。
俺の限界は想像を超えなかった。確かに上達はしている。しかし、天罰を解除し、変化した体を戻すだけの技量ではなかった。
芸術家においてころほど残酷な道具があるだろうか。
自分の限界を知るなんて、現実を突きつける道具は残酷極まる。
しかし、その残奥さのおかげで俺は決断した。
妻を殺すしかないと。
これ以上俺の都合でこのままにしてはいけない。暴れた妻が人に危害を加えるのは見たくない。
完成し手の中にある今の自分以上の作品。
家を破壊して妻が現れた時、俺の後悔と無力さを責めているようだった。
自分は天才ではない。そんなことは分かっていたはずだった。
もう、苦しませるのはやめよう。もし、ここで殺されるのならそれでも良かった。
自分の限界は見えた。たどり着く到達点。伸び代を完全に理解させられた。
俺は、自分の作品を差し出した。
自分の腕ごと食われた時もこれも報いだと思った。
お前は、無力な俺を恨んでいい。
たった1人、好きな女すら幸せに出来ない俺を憎んでいい。
牙は俺に突き刺さった。しかし、それだけだった。噛みちぎることも出来たはずなのに。
ああ、まだ俺は生きなければいけないのか。
かろうじて人の姿に戻った妻を抱きしめる。
遅くなって悪かった。
もうお別れだ。なら、ずっと伝えたい気持ちを伝えるべきだ。
「俺はお前と一緒にいれて、最後まで幸せだった。」
ありがとう。おやすみ。
あいつに届くようにと俺は強く祈った。
殺したくはなかった。
相手は人生を一緒に歩みたいと思った女だ。たとえ異形に変わり果てたとしても共にありたかった。
しかし、それが俺のただの我儘であることを理解していた。
妻は美人な女ではなかった。けれど、人懐っこい性格で、花が咲いたような笑顔がとても魅力的な女だった。
知り合ったのは、本当に偶然だった。
売り物として出している石細工を見にきたあいつが興味を持って声をかけにきたのがきっかけだ。
修行ばかりの日々でまともに外の人間と関わりのなかった俺にとって新鮮で、惚れ込むのにそれほど時間はかからなかった。
想いを伝えて結婚するのも早かった。お互いを知りながら過ごすのもきっと楽しいからと彼女は笑っていた。
妻は、俺に新しい世界を教えてくれた。
彼女語る世界の全ては俺の中で色づいて見えて、彼女と過ごす日々は目まぐるしく変わり飽きない。
色々なものを見て、色々なことをした。
日々が過ぎれば過ぎるほど、想いは薄れるどころか、強くなるばかりだった。
しかし、悲劇はそんな彼女を変えた。
醜悪な姿に変わり、動くことすらままならないその在り様に意味などない。今目の前に存在している妻は、生きながらにして死んでいる。
それを理解していながらも彼女を殺さなかったのは、自分の可能性を諦めきれなかったからだ。
いつか技術が身につけばあいつを元に戻す呪具を作れるかもしれない。そうすれば、あの日々に戻れるかもしれないという希望を捨てられなかったからだ。
そんなところに技量を上昇させる妖刀が転がり込んできた。
一縷の望みを期待して俺は、自身に妖刀を突き刺した。その瞬間、自分の技量が高まるのを感じた。
それと同時に理解してしまった。
これは技量を上達させるというシンプルな代物ではないと。
将来にたどり着くであろう技能を前借りしているだけに過ぎない。
つまりは自分の才能以上のことは出来ない。自分自身の限界を突きつけられる妖刀だ。
俺の限界は想像を超えなかった。確かに上達はしている。しかし、天罰を解除し、変化した体を戻すだけの技量ではなかった。
芸術家においてころほど残酷な道具があるだろうか。
自分の限界を知るなんて、現実を突きつける道具は残酷極まる。
しかし、その残奥さのおかげで俺は決断した。
妻を殺すしかないと。
これ以上俺の都合でこのままにしてはいけない。暴れた妻が人に危害を加えるのは見たくない。
完成し手の中にある今の自分以上の作品。
家を破壊して妻が現れた時、俺の後悔と無力さを責めているようだった。
自分は天才ではない。そんなことは分かっていたはずだった。
もう、苦しませるのはやめよう。もし、ここで殺されるのならそれでも良かった。
自分の限界は見えた。たどり着く到達点。伸び代を完全に理解させられた。
俺は、自分の作品を差し出した。
自分の腕ごと食われた時もこれも報いだと思った。
お前は、無力な俺を恨んでいい。
たった1人、好きな女すら幸せに出来ない俺を憎んでいい。
牙は俺に突き刺さった。しかし、それだけだった。噛みちぎることも出来たはずなのに。
ああ、まだ俺は生きなければいけないのか。
かろうじて人の姿に戻った妻を抱きしめる。
遅くなって悪かった。
もうお別れだ。なら、ずっと伝えたい気持ちを伝えるべきだ。
「俺はお前と一緒にいれて、最後まで幸せだった。」
ありがとう。おやすみ。
あいつに届くようにと俺は強く祈った。
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