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93.勝手な妄想と決めつけるな――SIDE次期大公
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領地の視察状況を記した書類を確認し、補修が必要な橋や道へ予算を振り分ける。慣れた書類作業をこなしながら、顔を上げて窓の外へ目を向けた。
小さな鳥が窓辺に集まっている。日当たりが良く、外敵に襲われにくいためだろう。窓の内側から見られているのも気にせず、羽毛を突いて整え始めた。見るともなし、ぼんやりと目で追う。
「お茶の支度を致します」
秘書を務めるアドリアンが、そう口にした。休憩を後回しにして処理していた私が、疲れたと判断したのだろう。特に断る理由もないので、手にしていたペンを置いた。立ち上がり、体を伸ばして肩を揉む。一連の動きで体を解し、用意されたお茶のカップを手に取った。
行儀悪く机の端に座り、甘い香りのお茶で喉を湿らす。通っていた学院でも、彼はこうしてお茶を淹れてくれた。勉強に夢中になる私を現実へ引き戻すのは、いつもアドリアンだった。男爵家の次男、将来の行き場がないので雇ってください。面と向かってそう言われ、私も次男だと苦笑いした。
一緒に王宮の文官にでもなるかと笑い合った友人は、私が大公家の養子に入る話を聞いて駆け付ける。
「行き場が出来たなら、雇ってください。僕はあなたの役に立ちます」
強引な売り込みだが、正直、助かった。アルムニア大公閣下との面識は、夜会で数回の挨拶のみ。それでも跡取りにと望んでくれた。リリアナも一緒に引き取ると約束された私に、断る選択肢はない。だが、知らない土地に根付くことへの不安もあった。
仕事でのフォローはもちろん、アドリアンは私的な面でも友人として支えてくれる。彼がいなければ、とっくに音を上げていたかも知れない。
「これからもよろしく頼む」
「当然です。ところで、若奥様のドレスですが……本当にこの色で構いませんか?」
「もちろんだ」
バレンティナと二人で決めた。宮殿で行う結婚式では、白に薄い青や銀を散らして清楚に。大公領はパレードとお披露目になるが、こちらは白から黒へグラデーションを掛けたドレスで大胆に。黄金の刺繍が全身に入ったドレスの形は、宮殿の物と同じエンパイアラインだ。
胸の下、締め付ける位置から絹を黒へ染めていく。裾は真っ黒に染める予定だった。その全体に金刺繍を施す。アルムニア大公家を象徴するイバラの花と葉だった。
私の髪色である黒、同時に絹を黒く染める技術はアルムニア公国独自のものだ。一般的に紺や紫は作れるが、真っ黒な絹は難しかった。産地特有の黒絹へ、皇族の瞳の色である黄金を重ねる。さらにイバラ模様は、未来の大公妃であることを示していた。
「独占欲が凄いですが……若奥様は本当に承諾なさったんですよね?」
「安心してくれ、間違いない」
女性は明るい色や華やかな色を好むため、上品で美しくてもシックな印象を与える黒絹で大丈夫か。アドリアンは不安そうに確かめた。気持ちは分かる。逆の立場なら、私も確認しただろう。
「独占欲が凄過ぎて、僕なら引きますけど」
「その独占欲を許してくれる女性なんだ」
「分かりました。最後の言葉は、オスカル様の勝手な妄想だと思いますが、領地を挙げて歓迎いたします」
なぜ勝手な妄想と決めつけるのか。まあ……独占欲の有無に関しては反論できないので、黙って頷くに留めた。
小さな鳥が窓辺に集まっている。日当たりが良く、外敵に襲われにくいためだろう。窓の内側から見られているのも気にせず、羽毛を突いて整え始めた。見るともなし、ぼんやりと目で追う。
「お茶の支度を致します」
秘書を務めるアドリアンが、そう口にした。休憩を後回しにして処理していた私が、疲れたと判断したのだろう。特に断る理由もないので、手にしていたペンを置いた。立ち上がり、体を伸ばして肩を揉む。一連の動きで体を解し、用意されたお茶のカップを手に取った。
行儀悪く机の端に座り、甘い香りのお茶で喉を湿らす。通っていた学院でも、彼はこうしてお茶を淹れてくれた。勉強に夢中になる私を現実へ引き戻すのは、いつもアドリアンだった。男爵家の次男、将来の行き場がないので雇ってください。面と向かってそう言われ、私も次男だと苦笑いした。
一緒に王宮の文官にでもなるかと笑い合った友人は、私が大公家の養子に入る話を聞いて駆け付ける。
「行き場が出来たなら、雇ってください。僕はあなたの役に立ちます」
強引な売り込みだが、正直、助かった。アルムニア大公閣下との面識は、夜会で数回の挨拶のみ。それでも跡取りにと望んでくれた。リリアナも一緒に引き取ると約束された私に、断る選択肢はない。だが、知らない土地に根付くことへの不安もあった。
仕事でのフォローはもちろん、アドリアンは私的な面でも友人として支えてくれる。彼がいなければ、とっくに音を上げていたかも知れない。
「これからもよろしく頼む」
「当然です。ところで、若奥様のドレスですが……本当にこの色で構いませんか?」
「もちろんだ」
バレンティナと二人で決めた。宮殿で行う結婚式では、白に薄い青や銀を散らして清楚に。大公領はパレードとお披露目になるが、こちらは白から黒へグラデーションを掛けたドレスで大胆に。黄金の刺繍が全身に入ったドレスの形は、宮殿の物と同じエンパイアラインだ。
胸の下、締め付ける位置から絹を黒へ染めていく。裾は真っ黒に染める予定だった。その全体に金刺繍を施す。アルムニア大公家を象徴するイバラの花と葉だった。
私の髪色である黒、同時に絹を黒く染める技術はアルムニア公国独自のものだ。一般的に紺や紫は作れるが、真っ黒な絹は難しかった。産地特有の黒絹へ、皇族の瞳の色である黄金を重ねる。さらにイバラ模様は、未来の大公妃であることを示していた。
「独占欲が凄いですが……若奥様は本当に承諾なさったんですよね?」
「安心してくれ、間違いない」
女性は明るい色や華やかな色を好むため、上品で美しくてもシックな印象を与える黒絹で大丈夫か。アドリアンは不安そうに確かめた。気持ちは分かる。逆の立場なら、私も確認しただろう。
「独占欲が凄過ぎて、僕なら引きますけど」
「その独占欲を許してくれる女性なんだ」
「分かりました。最後の言葉は、オスカル様の勝手な妄想だと思いますが、領地を挙げて歓迎いたします」
なぜ勝手な妄想と決めつけるのか。まあ……独占欲の有無に関しては反論できないので、黙って頷くに留めた。
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