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104.やるなら徹底的に――SIDE先皇
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愚かなモンテシーノス王国を放置することは出来ない。勘違いしている貴族もいるが、直接事件を起こしたセルラノ侯爵家を処分して終わりではなかった。
カルレオン帝国皇帝の血筋を手に入れようと画策したのは、王族も同じだ。わしの可愛い孫フェリシアを狙い、失敗したところで諦めればいいものを。奴らは諦めなかった。
王族がカルレオン皇族の血を欲しがっている。その話が貴族に蔓延したから、ひ孫バレンティナが被害に遭った。皇族の血を引く子を産ませるために娶り、純粋なティナを騙した。いっそ死ぬまで騙しきれば、それもひとつの愛だっただろう。
しかし愚者はどこまで行っても、賢く振る舞うことも誠実に応じることも出来なかった。モンテシーノス王家に王子が生まれたから、姫が欲しい。その程度の感覚で、我が玄孫ナサニエルを放り出した。
カルレオン皇族の血を引く男児だぞ? 侯爵家の跡取りにするのが当然で、器の大きさが足りぬなら公爵や王族の地位を与えてもいい。玄孫が欲しがるなら、モンテシーノス王国の王座など、いつでも与えるだろう。
小ナサニエルを捨てたのはセルラノ侯爵の短慮だとしても、この状況を生み出した原因は王族にある。カルレオン帝国と誼を結びたいなら、自ら動けばよかった。遠縁の姫を王子の妻に迎えたいと、交渉するべきなのだ。
我が帝国では、恋愛結婚が優先される。政略結婚は少ない。故に口説き落とせば、王族でなくとも皇女を娶ることが可能だった。実際、孫フェリシアの夫アウグストは成り上がって、求婚し成功している。
すでに手は打っていた。強大な軍事国家として帝国が平定した国は、12を数える。そのうちのひとつがアルムニア公国だった。かつて王国であり、モンテシーノス王国はこの国から分派している。周辺諸国はほぼカルレオン帝国の属国だった。形上は国の体を成しているが、王族は功績があった帝国貴族だ。
すでにアルムニア公国は、モンテシーノス王国への輸出を絞っている。一度に息の根を止めるのではなく、じわじわと。足掻いて他国へ助けを求めるよう仕向けた。国王カルロスの親書を受け取った国々から、内容が届けられる。
本来、皇帝の座を引退したわしに、大量の書類処理などあるわけがない。確認し手配を行なっていたのは、モンテシーノス王国への処分だった。すでにセルラノ侯爵家は滅亡させている。残る獲物まで、わしが食い散らかせば息子リカルドが拗ねるであろう。
「リカルド、詰めまで来たぞ」
ついに悲鳴を上げて嘆願するカルロス王の親書を綴じた紙束を手に、わしは息子の執務室へ足を踏み入れた。離宮で処理していたのは、万が一にもひ孫バレンティナの耳に入ることを恐れたからだ。あの子は優しい。騙されても、人を信じることのできる子だった。
傷つけたくない。わしの我が侭を、息子は「協力する」と一言で受け入れた。お陰で結実した甘露ならば、最後くらいリカルドの好きにさせてやろう。
「思ったより持ち堪えたな。その意味で執政能力はあった……まあ、それが不幸をより深く味わう原因だが」
処理していた書類に署名押印を済ませ、横にのけた息子はにやりと笑う。皇族特有の琥珀の瞳が細められた。弧を描く唇が、解けて残酷な結末を吐き出す。
「王侯貴族の誰一人討つことなく、放逐しましょう。父上、彼らが堕ちる姿は甘いでしょうな」
「ああ、甘露は楽しむためにあるのだ」
いつかこの身が断罪されるとしても、後悔しない。家族を傷つけられた痛みは、数十倍にして返す。そのための権力であり、軍事力だった。圧倒的な支配の前で、神に祈っても届きはしない。
この数ヶ月後、モンテシーノス王国は地図から消滅した。領地は隣接する3つの国により、跡形もなく飲み込まれる。その隣接国にアルムニア公国も含まれていた。
国が消滅してすぐ、カルロス王は妻と共に田舎に引き篭もった。貴族達も領主として雇われたり、農場管理を任され、平民として生き延びる。十年もすれば、モンテシーノスの国名は記憶からも消え去った。
カルレオン帝国皇帝の血筋を手に入れようと画策したのは、王族も同じだ。わしの可愛い孫フェリシアを狙い、失敗したところで諦めればいいものを。奴らは諦めなかった。
王族がカルレオン皇族の血を欲しがっている。その話が貴族に蔓延したから、ひ孫バレンティナが被害に遭った。皇族の血を引く子を産ませるために娶り、純粋なティナを騙した。いっそ死ぬまで騙しきれば、それもひとつの愛だっただろう。
しかし愚者はどこまで行っても、賢く振る舞うことも誠実に応じることも出来なかった。モンテシーノス王家に王子が生まれたから、姫が欲しい。その程度の感覚で、我が玄孫ナサニエルを放り出した。
カルレオン皇族の血を引く男児だぞ? 侯爵家の跡取りにするのが当然で、器の大きさが足りぬなら公爵や王族の地位を与えてもいい。玄孫が欲しがるなら、モンテシーノス王国の王座など、いつでも与えるだろう。
小ナサニエルを捨てたのはセルラノ侯爵の短慮だとしても、この状況を生み出した原因は王族にある。カルレオン帝国と誼を結びたいなら、自ら動けばよかった。遠縁の姫を王子の妻に迎えたいと、交渉するべきなのだ。
我が帝国では、恋愛結婚が優先される。政略結婚は少ない。故に口説き落とせば、王族でなくとも皇女を娶ることが可能だった。実際、孫フェリシアの夫アウグストは成り上がって、求婚し成功している。
すでに手は打っていた。強大な軍事国家として帝国が平定した国は、12を数える。そのうちのひとつがアルムニア公国だった。かつて王国であり、モンテシーノス王国はこの国から分派している。周辺諸国はほぼカルレオン帝国の属国だった。形上は国の体を成しているが、王族は功績があった帝国貴族だ。
すでにアルムニア公国は、モンテシーノス王国への輸出を絞っている。一度に息の根を止めるのではなく、じわじわと。足掻いて他国へ助けを求めるよう仕向けた。国王カルロスの親書を受け取った国々から、内容が届けられる。
本来、皇帝の座を引退したわしに、大量の書類処理などあるわけがない。確認し手配を行なっていたのは、モンテシーノス王国への処分だった。すでにセルラノ侯爵家は滅亡させている。残る獲物まで、わしが食い散らかせば息子リカルドが拗ねるであろう。
「リカルド、詰めまで来たぞ」
ついに悲鳴を上げて嘆願するカルロス王の親書を綴じた紙束を手に、わしは息子の執務室へ足を踏み入れた。離宮で処理していたのは、万が一にもひ孫バレンティナの耳に入ることを恐れたからだ。あの子は優しい。騙されても、人を信じることのできる子だった。
傷つけたくない。わしの我が侭を、息子は「協力する」と一言で受け入れた。お陰で結実した甘露ならば、最後くらいリカルドの好きにさせてやろう。
「思ったより持ち堪えたな。その意味で執政能力はあった……まあ、それが不幸をより深く味わう原因だが」
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