【完結】身勝手な旦那様と離縁したら、異国で我が子と幸せになれました

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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 胸の下からすらりと伸びた白絹は、美しく刺繍に彩られていた。銀と白、それから裾へ向けて色が濃くなっていく水色の花刺繍だ。国花である薔薇を大胆にあしらい、周囲を各貴族家の紋章に使われた草花で埋め尽くす。我がエリサリデ公爵家の百合が、肩から胸元へ掛けて咲き誇った。

 来賓として訪れる貴族だけでなく、辺境を守る当主が立ち会えない貴族家であっても、カルレオン帝国を支える大切な方々。だから紋章の花をスカートにあしらった。お飾りは金細工にサファイアにした。魔除けであると同時に、アルムニア公国のシンボルでもある宝石だ。

 大公妃のためにと、大粒の宝石を用意してもらえた。中央に十字の光が入る。柔らかな丸みを帯びたカボションは、ずっしりと重い、私がこれから背負っていく責任の重さと比べられないけれど、ひとつ深呼吸して気持ちを落ち着けた。

「行こうか、ティナ」

 優しい声なのに、どこか寂しそう。お父様の呼びかけに頷き、リリアナを振り返った。

「ヴェールをお願いね」

「任せて、お義母様」

 年齢の割にしっかりし過ぎた義娘に微笑み、私は前を向いた。両開きの扉を見つめる。もう一度ゆっくり息を吐いて、姿勢を正した。吸い込むタイミングで、衛兵達が扉を開く。

 楽隊の演奏の中、私とお父様は足を踏み出した。右足を一歩、左足を添える。左足を一歩、また揃える。繰り返す仕草はまるでダンスのよう。お父様は忙しくても、私のデビュタント前に時間を作ってダンスの相手をしてくださったわ。

 前を向いた私の目に、涙ぐむお母様が映った。いつでも優しくて、色々なことを教えてくれた。セルラノ侯爵家へ乗り込んで、私を救い出したお母様の勇ましかったこと。強く気高く美しく、私の目標である女性です。

 お祖父様とお祖母様は、一段高い位置から見守っていた。困った時にすぐ助けの手を伸ばしてもらえ、お祖父様の気持ちがどれだけ嬉しかったか。必死で逃げた私達を迎えたお祖母様の微笑みと抱擁に、どれほど感謝したことか。

 カルレオン帝国へ来てからの思い出が一気に溢れる。潤んだ瞳を忙しく瞬き、涙を堪えようと顎を反らした。

 さらに歩いた先で、ひいお祖父様と目が合う。柔らかな微笑みで頷くお姿に、伝え聞く苛烈な戦帝の過去は窺い知れない。家族の繋がりを何より大切にし、亡くなられたひいお祖母様を一筋に愛された情の深い方。可愛いエルに名前を頂いた、ナサニエル陛下へ頷き返した。

 他国へ留学していた皇太子殿下が、ひいお祖父様の脇で会釈した。お久しぶりですわ。幼い頃以来ですね。庭で転んだ私を助け起こし、涙と汚れをハンカチで拭ってくれた優しさは忘れません。

 向かい側は他国から訪れた来賓達。軽く会釈し、ヴェール越しに確認する。視線を正面に戻せば、胸がきゅっと苦しくなった。ドキドキする気持ちが溢れ出す。

 オスカル・ジ・アルムニア――私と対になるよう誂えた衣装は、柔らかなグレーでした。銀と白の刺繍に、一部強めの青を混ぜて。アルムニア大公家に伝わるサファイアの房飾りを、儀礼用の剣に飾っている。見惚れる彫刻のごとき美丈夫は、お父様にエスコートされた私に手を差し伸べた。

 微笑んで応じ、父から夫になる男性へと身を任せる。人前式のため、人々へ二人の結婚を宣言する。ここに一生愛し抜き、死が二人を分かっても墓まで一緒に。そう付け加えた。ヴェールを引くリリアナの、鼻を啜る音が聞こえた。
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