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19.あなたに王子様をあげる
結局、何度もアデライダの元へ通ってしまった。私の顔を見ると本当に嬉しそうに笑うのよ。無邪気で、私を貶めたあの日の笑顔の片鱗もなかった。今の私が受けている境遇は、この子に与えられてきたと考えれば……自ずと気付いてしまう。
甘やかされ、他人を見下すことを当たり前に生活したら、人は歪むのではないかしら。たとえば私、前回やその前の一度目の記憶がなければ、甘えて義妹を見下さない自信がある? ざまぁみろと思ったのも、前回の記憶が残っているからよ。もし何も覚えていない10歳の少女なら、現状に溺れるわ。
思い通りになる生活が当たり前で、誰かを傷つけても許されたら。人は簡単に歪んで壊れてしまう。逆の立場を先に経験した私は、同じ轍を踏んではダメなの。自分に言い聞かせた。あの頃、どれだけ寂しかったか。両親に愛される妹を見て羨ましく感じたか。
妬みや恨み、怒り。暗い感情を思い出す程に、アデライダが可哀想になった。私がお告げの花嫁なのは同じ、だから前回は私を捨てることが出来なかったのよね。でも今の義妹アデライダに、お告げの花嫁という切り札はない。イグナシオ王子の婚約者になれず、一生飼い殺しにされるわ。
「美味しい?」
「はい」
最近やっと声を聞かせてくれるようになった。返事をするのももごもごと小さくて、これを公爵夫人が聞いたら怒り出すのでしょうね。でも私は彼女の心境が分かる。うっかり余計なことを口走ったら怒られる。怖いから小さな声になり、それでも答えないと叩かれるから口を開くの。
与えたお菓子を大切そうに、齧って食べる。口に放り込んだら一瞬で消えるから、勿体ないと感じるの。安心できるように、目の前に紙袋を置いた。中にたくさんのお菓子が詰めてある。乾パンに似た、硬いけれど日持ちする物を下に入れ、上は柔らかく甘いものを。
「下のお菓子は硬いの。スープに浸して食べるといいわ」
「はい」
目を輝かせる妹の体は少し臭う。前回の私をアデライダが嫌ったのも無理はないわ。石鹸や香水、香油のいい匂いしか知らなかったんだもの。お風呂に入れてあげたいけれど、さすがに公爵夫人にバレてしまう。執事のブラスに相談しても……公爵の意向に逆らうのは難しいでしょうね。
何か手を考えないといけない。口に入れたお菓子に頬を緩めるアデライダは、記憶より痩せこけた指で次のお菓子を掴んだ。金茶の髪は汚れて暗い茶色に見えるけど、公爵家特有の青い瞳は同じね。
前回、お告げを無視したイグナシオ王子はアデライダを選んだ。つまり、王家はソシアス公爵家の娘で良かったのよね。私はイグナシオと結婚したくない。アデライダは幸い可愛い顔をしているし、整えたら前回と同じに仕上がるわ。
私はにっこり笑って、義妹の手を握った。
「あなたに王子様をあげる」
「はい……?」
反射的に返事をして、不思議そうに首を傾げた。洗わないせいで絡まった茶色の髪を撫でる。あの頃の私もこんなに汚れていたのね。懐かしく思いながら、立ち上がった。
「また来るわね」
「はい」
嬉しそうな声色に頷いて、父である公爵の執務室を目指す。どう切り出したら、義妹を外に出せるかしら。
甘やかされ、他人を見下すことを当たり前に生活したら、人は歪むのではないかしら。たとえば私、前回やその前の一度目の記憶がなければ、甘えて義妹を見下さない自信がある? ざまぁみろと思ったのも、前回の記憶が残っているからよ。もし何も覚えていない10歳の少女なら、現状に溺れるわ。
思い通りになる生活が当たり前で、誰かを傷つけても許されたら。人は簡単に歪んで壊れてしまう。逆の立場を先に経験した私は、同じ轍を踏んではダメなの。自分に言い聞かせた。あの頃、どれだけ寂しかったか。両親に愛される妹を見て羨ましく感じたか。
妬みや恨み、怒り。暗い感情を思い出す程に、アデライダが可哀想になった。私がお告げの花嫁なのは同じ、だから前回は私を捨てることが出来なかったのよね。でも今の義妹アデライダに、お告げの花嫁という切り札はない。イグナシオ王子の婚約者になれず、一生飼い殺しにされるわ。
「美味しい?」
「はい」
最近やっと声を聞かせてくれるようになった。返事をするのももごもごと小さくて、これを公爵夫人が聞いたら怒り出すのでしょうね。でも私は彼女の心境が分かる。うっかり余計なことを口走ったら怒られる。怖いから小さな声になり、それでも答えないと叩かれるから口を開くの。
与えたお菓子を大切そうに、齧って食べる。口に放り込んだら一瞬で消えるから、勿体ないと感じるの。安心できるように、目の前に紙袋を置いた。中にたくさんのお菓子が詰めてある。乾パンに似た、硬いけれど日持ちする物を下に入れ、上は柔らかく甘いものを。
「下のお菓子は硬いの。スープに浸して食べるといいわ」
「はい」
目を輝かせる妹の体は少し臭う。前回の私をアデライダが嫌ったのも無理はないわ。石鹸や香水、香油のいい匂いしか知らなかったんだもの。お風呂に入れてあげたいけれど、さすがに公爵夫人にバレてしまう。執事のブラスに相談しても……公爵の意向に逆らうのは難しいでしょうね。
何か手を考えないといけない。口に入れたお菓子に頬を緩めるアデライダは、記憶より痩せこけた指で次のお菓子を掴んだ。金茶の髪は汚れて暗い茶色に見えるけど、公爵家特有の青い瞳は同じね。
前回、お告げを無視したイグナシオ王子はアデライダを選んだ。つまり、王家はソシアス公爵家の娘で良かったのよね。私はイグナシオと結婚したくない。アデライダは幸い可愛い顔をしているし、整えたら前回と同じに仕上がるわ。
私はにっこり笑って、義妹の手を握った。
「あなたに王子様をあげる」
「はい……?」
反射的に返事をして、不思議そうに首を傾げた。洗わないせいで絡まった茶色の髪を撫でる。あの頃の私もこんなに汚れていたのね。懐かしく思いながら、立ち上がった。
「また来るわね」
「はい」
嬉しそうな声色に頷いて、父である公爵の執務室を目指す。どう切り出したら、義妹を外に出せるかしら。
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