【完結】古代竜の生贄姫 ~虐待から溺愛に逆転した世界で幸せを知りました~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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20.あの子が欲しいの

 執務中でも、私なら入れる。だって前回のアデライダがそうだったから。ノックして小さく扉を開け、隙間から「お父様」と呼びかける。立ち上がる父に駆け寄った。

「どうした、欲しい物でもあるのか」

「ええ、欲しいものがあるの」

 物ではなく者だけれど。言ったら渋い顔をされるし、反対されるはず。でも最後はお強請りに負け、許可を出すと思うの。

「アデライダを侍女にしたい」

「……なぜ、アレなんだ」

 他の子ではダメか? 他に綺麗で優しい子を探してあげよう。懐柔するための甘い言葉が並ぶ。砂糖菓子にチョコレートを染み込ませるように、公爵はひたすらに私を甘やかした。

 宝石も可愛い侍女もドレスも用意する。だからアレは諦めろ。何度も繰り返されるたび、少しずつ俯いた。ちらりと上目遣いで見上げ、仕上げにかかる。

「叶えてくれないお父様なんて、嫌い」

 うっと言葉に詰まり、公爵は固まった。長く考え込む間、私は唇を尖らせて待つ。子どもっぽい仕草の方が、公爵夫妻は弱い。作戦は成功へ向かっていた。

 アデライダを公爵令嬢に戻すことは、おそらく無理だわ。前回は私がお告げの花嫁だから、私生児でも認められた。公爵家に生まれる最初の娘……誰の子か指定されていなかったの。

 アデライダは、前回も今回も該当しない。二番目の娘でお告げに関係なく、公爵家の名を貶めた私生児を表に出す理由がなかった。殺したり捨てたりしないのは、外聞を恐れてかしら?

 何にしろ、アデライダが人並みの生活を送れる可能性は低い。だったら、侍女として王宮へ連れて行き、イグナシオ王子と恋愛をさせればいいわ。前回はそれで恋をしたんだもの。着飾らせれば、今回もいけるはず!

「どうしても、アレじゃないとダメなのか」

「どうしても! アデライダがいいの」

「分かった。お母様と相談するから待ちなさい」

 公爵夫人も反対する。でも愛娘として生きる今なら、いくらでも覆せるわ。泣きながら部屋に篭るとか、食事をしないなんて手もある。根負けして許す未来は確定だった。

 いろんな部分が逆転したことで、私が持つ前回の知識はほぼ役立たない。新しく自分で構築する必要があった。たくさんの目標を設定しても無理よ。大切なのは、私が王子の婚約者から外れて、古代竜の生贄にならないこと。それだけを目指せばいい。

「おいで」

 手招きされて素直に近づき、言われるまま公爵の膝に座った。執務机の椅子はソファより高く、視点がいつもと違う。立派な一枚板の机に積まれた書類は、まだ半分ほど手付かずだった。

「どこでアレに会ったんだ?」

「お母様に聞いたの。叔母様に娘がいて、私の妹になってるって。しせいじ? だから近づいてはダメと言われたわ」

 単語を知らないフリで、あざとく首を傾げる。

「叔母様は亡くなられたのよね。私、妹が欲しいの。だけどお母様が嫌がるから、侍女でいい。一緒に遊びたいのよ」

 公爵は何も言わずに、ただ私の話を聞いて、髪を撫で続けた。かつては「穢らわしい」「化け物の証拠」と罵られた純白の髪を……。
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