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36.醜い欲と都合の良い解釈
この国と周辺国は、同じ宗教で繋がっている。古代竜ギータ陛下を頂点として崇める「ギータ・リ・アシス」だ。古代竜に準え、古代語を使ったお祈りが特徴的だった。
王族に嫁ぐための教育に、古代語の習得がある。神官は古代語を操ることが可能で、信者に聞かれてはまずい会話を古代語で行った。神官から古代語を学んだ私は、神殿にとっても邪魔だったらしい。
「それで殺されたの?」
「もっと汚い事情があった」
ギータ様は吐き捨てるように続きを語った。
一番目のソシアス公爵令嬢が私、その部分を当初主張したのは教皇猊下だった。初代の生贄姫となったフランカ王女の存在が理由だ。純白の髪と赤い瞳、それは生贄になった彼女が持ち合わせた色合いだ。抜けるように白い肌、たおやかで細い手足。病的なまでに抜ける白さを誇った少女は、父王のために短い人生を生贄に捧げた。
私は髪こそ白かったが、瞳は青かった。病弱でもないし、肌も白いが抜けるような色ではない。それでも、フランカ王女に近い外見を持っていた。ましてや王族の血を引くソシアス公爵家の娘だ。生贄姫として、これ以上ない条件を備えていた。
彼女は、とても純粋で美しかった。そう語るギータ様は目を細めて、懐かしむ表情を浮かべる。きっと外見と同じく心も美しい人だったのだろう。そう思わせる口振りだった。
「フランカは僅か10年で儚くなり、俺はまた孤独の中で眠りについた」
動かず神託も願いも届けない古代竜の嘆きを知らず、人々は定期的に物を貢いだ。それに効果がないと判断するや否や、新たな生贄を送る。それも一方的な欲と願いで。
「俺が叶える義務はないので放置したが」
一向に止まない生贄。それは国教として「ギータ・リ・アシス」が権力を持った証拠だった。古代竜の代弁者のごとく振る舞い、生贄を貴族令嬢から選んで投げ込む。大切な己の娘が選ばれぬよう、貴族家はこぞって神殿に寄進した。
集まる富と権威に、代々の教皇は酔いしれた。抑えても漏れ続ける大量の力は、大地を潤し繁栄をもたらす。永遠に続くと思われた日々は、あのお告げで途切れた。
公爵令嬢を「竜の王」に捧げれば、世界は満ち足りる。その意味を、当時の教皇はこう解釈した。
望み通りの娘を手に入れた「竜王ギータ陛下」が解き放たれ、世界は完全なる王を頂点に戴く――。お告げの一部が聞き取りづらく「王」とだけ聞いた前公爵や国王と違う認識だ。国王の上に竜が立つ未来が予言されたと受け取った彼は、都合よく考えた。
古代竜ギータ陛下は、忠実なる僕である神殿を、国王より上に置くだろう。王族以上の贅沢の中で崇められたい、と。醜い欲を剥き出しに、策を練った。
なんとしても、フランカによく似た王子の婚約者を捧げなければならない。最初の公爵令嬢ではなく、1人目と表現された部分に着目する。もしかしたら私生児は、公爵令嬢に値しないのではないか。しかし王家や公爵家は「フランシスカ」を1人目と考えていた。
あの娘は公爵令嬢ではないと置き換えれば、お告げ通りに娘を捧げることが叶う。古代竜の願いを撥ね除けて別の生贄を捧げ、怒りを買うことは避けたかった。フランシスカを生贄に捧げること。教皇はそこに執着した。
「結果、お前は両親に見捨てられ、神殿の欲によって、王家から死の宣告を突きつけられた。すまぬ」
ギータ様の声が辛そうに謝り、私はゆっくり首を横に振った。触れた上質な絹越しに伝わる温もりを確かめるように、そっと彼の腰に手を回す。
「ギータ様のせいではないわ」
本心からそう思った。だから神殿の騎士は私を傷つけてでも、崖の下に落とそうとしたのね。ようやく辻褄が合ったわ。
王族に嫁ぐための教育に、古代語の習得がある。神官は古代語を操ることが可能で、信者に聞かれてはまずい会話を古代語で行った。神官から古代語を学んだ私は、神殿にとっても邪魔だったらしい。
「それで殺されたの?」
「もっと汚い事情があった」
ギータ様は吐き捨てるように続きを語った。
一番目のソシアス公爵令嬢が私、その部分を当初主張したのは教皇猊下だった。初代の生贄姫となったフランカ王女の存在が理由だ。純白の髪と赤い瞳、それは生贄になった彼女が持ち合わせた色合いだ。抜けるように白い肌、たおやかで細い手足。病的なまでに抜ける白さを誇った少女は、父王のために短い人生を生贄に捧げた。
私は髪こそ白かったが、瞳は青かった。病弱でもないし、肌も白いが抜けるような色ではない。それでも、フランカ王女に近い外見を持っていた。ましてや王族の血を引くソシアス公爵家の娘だ。生贄姫として、これ以上ない条件を備えていた。
彼女は、とても純粋で美しかった。そう語るギータ様は目を細めて、懐かしむ表情を浮かべる。きっと外見と同じく心も美しい人だったのだろう。そう思わせる口振りだった。
「フランカは僅か10年で儚くなり、俺はまた孤独の中で眠りについた」
動かず神託も願いも届けない古代竜の嘆きを知らず、人々は定期的に物を貢いだ。それに効果がないと判断するや否や、新たな生贄を送る。それも一方的な欲と願いで。
「俺が叶える義務はないので放置したが」
一向に止まない生贄。それは国教として「ギータ・リ・アシス」が権力を持った証拠だった。古代竜の代弁者のごとく振る舞い、生贄を貴族令嬢から選んで投げ込む。大切な己の娘が選ばれぬよう、貴族家はこぞって神殿に寄進した。
集まる富と権威に、代々の教皇は酔いしれた。抑えても漏れ続ける大量の力は、大地を潤し繁栄をもたらす。永遠に続くと思われた日々は、あのお告げで途切れた。
公爵令嬢を「竜の王」に捧げれば、世界は満ち足りる。その意味を、当時の教皇はこう解釈した。
望み通りの娘を手に入れた「竜王ギータ陛下」が解き放たれ、世界は完全なる王を頂点に戴く――。お告げの一部が聞き取りづらく「王」とだけ聞いた前公爵や国王と違う認識だ。国王の上に竜が立つ未来が予言されたと受け取った彼は、都合よく考えた。
古代竜ギータ陛下は、忠実なる僕である神殿を、国王より上に置くだろう。王族以上の贅沢の中で崇められたい、と。醜い欲を剥き出しに、策を練った。
なんとしても、フランカによく似た王子の婚約者を捧げなければならない。最初の公爵令嬢ではなく、1人目と表現された部分に着目する。もしかしたら私生児は、公爵令嬢に値しないのではないか。しかし王家や公爵家は「フランシスカ」を1人目と考えていた。
あの娘は公爵令嬢ではないと置き換えれば、お告げ通りに娘を捧げることが叶う。古代竜の願いを撥ね除けて別の生贄を捧げ、怒りを買うことは避けたかった。フランシスカを生贄に捧げること。教皇はそこに執着した。
「結果、お前は両親に見捨てられ、神殿の欲によって、王家から死の宣告を突きつけられた。すまぬ」
ギータ様の声が辛そうに謝り、私はゆっくり首を横に振った。触れた上質な絹越しに伝わる温もりを確かめるように、そっと彼の腰に手を回す。
「ギータ様のせいではないわ」
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