【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
14 / 238
本編

第11話 嫌味が通じない魔王の拾い物

しおりを挟む
 魔王とは、獣人の国であるルべウスと国交がある、魔族の国サフィロスの王だ。位置関係はこのユークレース国から見て二等辺三角形の一角だった。もっとも遠い角がユークレースである。ルベウスとサフィロスは直接国境を接して並び、ユークレースとの間に森が広がっていた。ユークレースの後ろには別の人間の国が並ぶ。

 その森にもっとも近い領地が、広大で豊かな農地を持つへーファーマイアー公爵領だった。他種族との境に広がる森で、人族と他の種族は分かれている。おかげで大きな騒動も起きず、互いを敵対視することも少なかった。

 ヘーファーマイアー公爵アウグストがルベウスの王女カサンドラを見初めたのは、いくつもの偶然が重なった結果だ。通常なら会うこともなく一生を終えたであろう2人の間に生まれた子らは、魔族や獣人にとって興味の対象でもあった。

 腕の中で意識のない美女を、そっと寝台に下ろす。元は真っ白な肌だろうに、活発な彼女は日焼けして淡い小麦色の肌だ。淑女として侍女が悲鳴を上げそうな状況だが、自由奔放に生きる彼女らしいと好ましく感じた。燃えるような真っ赤な髪も、剣を向けてきた気丈な彼女に相応しい。

 柔らかな狐耳は温かそうな茶色で、尻尾は根元から先へ向かって白くなるグラデーションの毛並みで手触りがよかった。腰を細く絞るコルセットなしでも、彼女のまろやかな曲線を描く身体のラインは美しい。

 金の瞳は心を縛る不思議な魅力があった。頬にかかる赤い髪を指先で撫でたところに、ノックの音が響く。無視しようとしたが、すでに扉は開いていた。彼女を抱きかかえて入った際に閉め忘れていたと舌打ちし、魔王は振り返る。

「なんだ? メフィスト」

 側近の姿に眉を寄せる。魔王の不興に慣れているメフィストは優雅に一礼してみせた。長く王に仕えた臣下の恭しさに、少しだけ別の感情が滲んでいる。それをわざと悟らせるメフィストの意地悪さに、仕方なく身を起こして正面から向き合った。

「お帰りなさいませ、イヴリース様。本日の謁見を放り出しての散策、楽しまれましたか?」

「見ればわかるだろう」

 にやりと笑って腕を組んだ魔王イヴリースへ、頭にヤギの角を持つメフィストが溜め息をついた。仕事をさぼった散歩で愛玩動物を拾って嬉しいのだろうが、嫌味に笑顔で対応する辺りが曲者だ。

「その娘がお気に入りなら召し上げるのも構いませんが……お部屋から不用意に出られた場合、お命の保証は致しかねます」

 吸血種を始めとし、人間の血肉を好む種族がいないわけではない。普段は代用品で過ごす彼らだが、目の前に甘い餌の香りをさせる獲物が横切れば、襲い掛かっても仕方ないとメフィストは苦言を呈した。主が連れ込んだ人間の雌に興味はないが、うっかり襲った同族の末路は心配だ。

 無駄に出歩かないよう釘を刺そうとしたメフィストだが、イヴリースは黒曜石の目を細めて冷たく言い放った。

「余の寵愛を受ける娘を傷つける愚か者ならば、城から放逐しろ」

「……もう?」

「これからだ」

 くすくす笑ったイヴリースの冷たい表情が崩れる。もしや手をつけた後かと焦るメフィストは、ほっと胸を撫でおろした。魔王の妻はこの国の妃となる者――婚前交渉は許されない。ずっと妻を娶ることを厭うてきた主君がようやく見つけた女性なら、大切に扱う必要があった。

 たとえ人間の匂いをさせる、魔族以外の種族であっても。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど

紗幸
恋愛
社畜女子だったユイは、気づけば異世界に召喚されていた。 慣れない魔法の世界と貴族社会の中で右往左往しながらも、なんとか穏やかに暮らし始めたある日。 なぜか王立魔道士団の団長カイルが、やたらと家に顔を出すようになる。 氷のように冷静で、美しく、周囲の誰もが一目置く男。 そんな彼が、ある日突然ユイの前で言い放った。 「……俺にかけた魅了魔法を解け」 私、そんな魔法かけてないんですけど!? 穏やかなはずの日々に彼の存在が、ユイの心を少しずつ波立たせていく。 まったりとした日常の中に、時折起こる小さな事件。 人との絆、魔法の力、そして胸の奥に芽生え始めた“想い” 異世界で、ユイは少しずつ——この世界で生きる力と、誰かを想う心を知っていく。 ※タイトルのシーンは7話辺りからになります。 ゆったりと話が進みますが、よろしければお付き合いください。 ※カクヨム様にも投稿しています。

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

聖女は友人に任せて、出戻りの私は新しい生活を始めます

あみにあ
恋愛
私の婚約者は第二王子のクリストファー。 腐れ縁で恋愛感情なんてないのに、両親に勝手に決められたの。 お互い納得できなくて、婚約破棄できる方法を探してた。 うんうんと頭を悩ませた結果、 この世界に稀にやってくる異世界の聖女を呼び出す事だった。 聖女がやってくるのは不定期で、こちらから召喚させた例はない。 だけど私は婚約が決まったあの日から探し続けてようやく見つけた。 早速呼び出してみようと聖堂へいったら、なんと私が異世界へ生まれ変わってしまったのだった。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ――――――――――――――――――――――――― ※以前投稿しておりました[聖女の私と異世界の聖女様]の連載版となります。 ※連載版を投稿するにあたり、アルファポリス様の規約に従い、短編は削除しておりますのでご了承下さい。 ※基本21時更新(50話完結)

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

処理中です...