【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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本編

第21話 聖女の意味と役割

 いわゆる『聖女』と呼ばれる肩書に、どれほどの価値があるのか。結界で国を守護したり、魔物を遠ざけるのなら有用だ。しかしこの国の聖女は、本当に肩書だった。女性に与えられる名称のひとつに過ぎない。

 市井の未婚女性から選ばれる聖女は、貴族階級の血が濃くなりすぎるのを防ぐ。揮発して濃くなったインクを薄める液と同じだった。見目麗しく、心身が健全、純潔、六親等以内に貴族の血を引いていないこと――この4つの条件を満たした未婚の若い女性を、貴族が娶ることで、貴族間の近親婚を防ぐのだ。

 貴族同士は家の格や血筋を重じて結婚するため、数代遡れば血が混じると言われる。純血化が進むほど、障害を持つ子供や異常な言動をする子が生まれる傾向が高まった。これは他国に比べて、この国の貴族子息や令嬢の数が少ないことからも察せられる。

 出産率が下がったこともあるが、生まれなかった事にされたり、死産だった確率も高い。それゆえの『聖なる乙女』だった。子爵家や男爵家の養女という名目をもって、上位の貴族家に嫁ぐこともある。

 貴族令嬢を正妻とし、聖女を2人目の妻として受け入れる。表舞台で対面を保ち妻として振る舞うのは正妻の役目で、跡取りの血が濃くならぬよう薄めるのが聖女の役割だった。そのため屋敷から出られない聖女も多い。

 贅沢なドレスや宝石を買い与え、離れという名称で建てられた屋敷に住まわせ、ただ子を生ませる。残酷なようだが、衣食住に困らぬ環境を彼女達は納得して受け入れた。

 市井の出である聖女が表舞台に立っても、生粋の貴族令嬢に太刀打ちできない。辛い思いをせず、好きな物を食べて自由に生活できる聖女は国のシステムとして、貴族にも彼女らにも都合が良かった。

「ブルーノ、どこなの?」

 買ったばかりの髪飾りを握りしめ、エルザは人混みの中に騎士の姿を探す。見失ってしまった長身の彼は、今頃私を探しているかしら。

「どうしました、お嬢さん」

「連れと、逸れてしまって……私、この土地に来たばかりで怖いんです」

 声をかけた男性は身なりがいい。高そうな絹に袖を通し、カフスボタンも宝石みたいだ。なにより甘い声で顔がよかった。後ろに使用人を連れているから、きっと貴族や裕福な商人だろう。

 当たりをつけて、エルザは目を潤ませた。泣きそうだけれど、涙は溢さない。ぎりぎりの位置で留めたのは、その方が男性の庇護欲を誘うから。

 孤児院にいた頃から、こうやって男性に媚びてきた。孤児院の職員は私に多めにご飯をよそい、こっそりお菓子も持ってきてくれた。街に出た日に身体を触った男は、涙を浮かべたら詫びだと金貨を握らせる。

 悪いことだと言われても、私が誘ったわけじゃないわ。少し弱い女を演じただけだもの。修道女があんなに怒って叩き出したあの日、運命が一気に回り出した。

 王子様だというカエル男の馬車に拾われた幸運――いつも通りご飯と服を貰ったら逃げるつもりだったのよ。だけど大きな広間に連れていかれ、突然の騒ぎが起きた。すごく綺麗な女性とケンカして、このタイミングだとカエル王子を突き飛ばす。そのままカッコイイ騎士が私をさらってくれた。

 まるで修道女が読んだ絵本のお姫様のようで、うっとりした。これで幸せになれる。そう思ったのに、彼はどこに行ったのかしら。目の前の男性は少し年上だけど、彼でもいいわ。年上の人は優しくて甘やかしてくれるから。

 だから微笑んで、指で涙を拭って見せる。この魔法の仕草は、いつも私にお金を運んできたのだから。

「そうか、可哀想に。心細かっただろう」

 ほらね、男の人なんて簡単に転がせるわ。そう笑ったエルザに見えない角度で、声をかけた男性はにやりと口角を持ち上げた。
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