【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
24 / 238
本編

第21話 聖女の意味と役割

しおりを挟む
 いわゆる『聖女』と呼ばれる肩書に、どれほどの価値があるのか。結界で国を守護したり、魔物を遠ざけるのなら有用だ。しかしこの国の聖女は、本当に肩書だった。女性に与えられる名称のひとつに過ぎない。

 市井の未婚女性から選ばれる聖女は、貴族階級の血が濃くなりすぎるのを防ぐ。揮発して濃くなったインクを薄める液と同じだった。見目麗しく、心身が健全、純潔、六親等以内に貴族の血を引いていないこと――この4つの条件を満たした未婚の若い女性を、貴族が娶ることで、貴族間の近親婚を防ぐのだ。

 貴族同士は家の格や血筋を重じて結婚するため、数代遡れば血が混じると言われる。純血化が進むほど、障害を持つ子供や異常な言動をする子が生まれる傾向が高まった。これは他国に比べて、この国の貴族子息や令嬢の数が少ないことからも察せられる。

 出産率が下がったこともあるが、生まれなかった事にされたり、死産だった確率も高い。それゆえの『聖なる乙女』だった。子爵家や男爵家の養女という名目をもって、上位の貴族家に嫁ぐこともある。

 貴族令嬢を正妻とし、聖女を2人目の妻として受け入れる。表舞台で対面を保ち妻として振る舞うのは正妻の役目で、跡取りの血が濃くならぬよう薄めるのが聖女の役割だった。そのため屋敷から出られない聖女も多い。

 贅沢なドレスや宝石を買い与え、離れという名称で建てられた屋敷に住まわせ、ただ子を生ませる。残酷なようだが、衣食住に困らぬ環境を彼女達は納得して受け入れた。

 市井の出である聖女が表舞台に立っても、生粋の貴族令嬢に太刀打ちできない。辛い思いをせず、好きな物を食べて自由に生活できる聖女は国のシステムとして、貴族にも彼女らにも都合が良かった。

「ブルーノ、どこなの?」

 買ったばかりの髪飾りを握りしめ、エルザは人混みの中に騎士の姿を探す。見失ってしまった長身の彼は、今頃私を探しているかしら。

「どうしました、お嬢さん」

「連れと、逸れてしまって……私、この土地に来たばかりで怖いんです」

 声をかけた男性は身なりがいい。高そうな絹に袖を通し、カフスボタンも宝石みたいだ。なにより甘い声で顔がよかった。後ろに使用人を連れているから、きっと貴族や裕福な商人だろう。

 当たりをつけて、エルザは目を潤ませた。泣きそうだけれど、涙は溢さない。ぎりぎりの位置で留めたのは、その方が男性の庇護欲を誘うから。

 孤児院にいた頃から、こうやって男性に媚びてきた。孤児院の職員は私に多めにご飯をよそい、こっそりお菓子も持ってきてくれた。街に出た日に身体を触った男は、涙を浮かべたら詫びだと金貨を握らせる。

 悪いことだと言われても、私が誘ったわけじゃないわ。少し弱い女を演じただけだもの。修道女があんなに怒って叩き出したあの日、運命が一気に回り出した。

 王子様だというカエル男の馬車に拾われた幸運――いつも通りご飯と服を貰ったら逃げるつもりだったのよ。だけど大きな広間に連れていかれ、突然の騒ぎが起きた。すごく綺麗な女性とケンカして、このタイミングだとカエル王子を突き飛ばす。そのままカッコイイ騎士が私をさらってくれた。

 まるで修道女が読んだ絵本のお姫様のようで、うっとりした。これで幸せになれる。そう思ったのに、彼はどこに行ったのかしら。目の前の男性は少し年上だけど、彼でもいいわ。年上の人は優しくて甘やかしてくれるから。

 だから微笑んで、指で涙を拭って見せる。この魔法の仕草は、いつも私にお金を運んできたのだから。

「そうか、可哀想に。心細かっただろう」

 ほらね、男の人なんて簡単に転がせるわ。そう笑ったエルザに見えない角度で、声をかけた男性はにやりと口角を持ち上げた。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど

紗幸
恋愛
社畜女子だったユイは、気づけば異世界に召喚されていた。 慣れない魔法の世界と貴族社会の中で右往左往しながらも、なんとか穏やかに暮らし始めたある日。 なぜか王立魔道士団の団長カイルが、やたらと家に顔を出すようになる。 氷のように冷静で、美しく、周囲の誰もが一目置く男。 そんな彼が、ある日突然ユイの前で言い放った。 「……俺にかけた魅了魔法を解け」 私、そんな魔法かけてないんですけど!? 穏やかなはずの日々に彼の存在が、ユイの心を少しずつ波立たせていく。 まったりとした日常の中に、時折起こる小さな事件。 人との絆、魔法の力、そして胸の奥に芽生え始めた“想い” 異世界で、ユイは少しずつ——この世界で生きる力と、誰かを想う心を知っていく。 ※タイトルのシーンは7話辺りからになります。 ゆったりと話が進みますが、よろしければお付き合いください。 ※カクヨム様にも投稿しています。

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

聖女は友人に任せて、出戻りの私は新しい生活を始めます

あみにあ
恋愛
私の婚約者は第二王子のクリストファー。 腐れ縁で恋愛感情なんてないのに、両親に勝手に決められたの。 お互い納得できなくて、婚約破棄できる方法を探してた。 うんうんと頭を悩ませた結果、 この世界に稀にやってくる異世界の聖女を呼び出す事だった。 聖女がやってくるのは不定期で、こちらから召喚させた例はない。 だけど私は婚約が決まったあの日から探し続けてようやく見つけた。 早速呼び出してみようと聖堂へいったら、なんと私が異世界へ生まれ変わってしまったのだった。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ――――――――――――――――――――――――― ※以前投稿しておりました[聖女の私と異世界の聖女様]の連載版となります。 ※連載版を投稿するにあたり、アルファポリス様の規約に従い、短編は削除しておりますのでご了承下さい。 ※基本21時更新(50話完結)

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

処理中です...