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本編
第31話 集うは実力者のみ
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「やるならば、各領地が一斉蜂起するしかあるまい」
顔を突き合わせた貴族達は、それぞれに思惑があった。今のユーグレース王家は人間側の国家として、最大規模を誇る。たとえ王家が腐っていようと、宰相であるへーファーマイアー公爵がしっかり舵取りをしてきた。
お陰で他国との不要な小競り合いを避け、この国は繁栄した。一時期は王家と少数の貴族の横暴で傾いた国庫も、豊かな状態に戻したのはアウグストの手腕だ。
彼に従うと決めた周辺貴族だが、先陣をきる覚悟がなく言葉を濁す。そんな腰の引けた貴族をよそに、眼帯で右目を覆った男が声をあげた。
「我がアルブレヒト辺境伯領は、へーファーマイアー公爵が立ち上げる国家へ参加を希望する」
このユーグレース王国に押し寄せた魔物の大群を、追い返した実績を持つ男だ。人間相手の戦いより、魔物を倒すことに長けた一族だった。それゆえに疎まれ、体良く辺境に押し込まれたアルブレヒト辺境伯家だが、アウグストに恩がある。
ユーグレース国は数年前に、雨が全く降らずに乾いたことがあった。魔物と戦い疲弊した領地は荒れており、立て直す間もなく干魃で文字通り干上がる。
兵は元より、民や家族に与える麦にも枯渇した時、へーファーマイアー公爵領から届いたのは大量の食料だった。自らの領地も雨が降らず、その年の収穫はゼロに近かったはずだ。領地替えをした公爵家の備蓄はそれほど多くない。
届いた食料への礼と返済について尋ねる手紙を送った返事は、驚くべきものだった。
国のために命を懸け、領地を犠牲にしたアルブレヒト辺境伯領の勇敢な民から返済など求めない――ただそれだけを綴った、短い1枚の手紙に涙する。領地の民に食料を配給しながら、公爵家への恩義だけは返さねば死ねないと心に誓った。
真っ先に手をあげたアルブレヒト辺境伯の声に勇気づけられ、幾つもの貴族が続く。うまい具合に、かつて王家と国を食い物にした貴族は南側に集中していた。彼らは公爵家の領地替えに伴い、旨味の多い土地を手にしたのだ。
しかし彼らが搾取した土地は、荒れ果てていた。民は高額の税に疲弊し、逃げ出している。難民として受け入れる周辺の貴族も今回は参加を表明した。
残されたのは南側の貴族と王家のみ。にやりと辺境伯の口元が歪んだ。魔物に抉られた右目の眼帯に触れながら、男は貴族達を見回す。
「我が領地から使者を立てよう。各自、己が領地の防御を固めろ。ユーグレース国は、本日ただいまをもって、敵となった!」
「「「おう」」」
承知したと叫んだ貴族の数人が、慌てて飛び出す。彼らの領地は離れており、戻るのに多少時間がかかる。王家は大義名分を掲げて、公爵領へ侵攻するだろう。おそらく「不敬罪」か「反逆罪」だ。その前にアウグストと連絡を取る必要があった。
「使者ならば、この老体に任せていただけませんかな?」
名乗り出たヘルマン男爵は、鍛え上げた筋肉を鎧のように纏う老人だ。戦士としてみるなら背が低い、しかし周囲を威圧する覇気が彼を数割大きく見せた。
「爺が行ってくれるなら、これ以上の使者はあるまい」
喜び頷くアルブレヒト辺境伯は、かつての師匠であり祖父のような英雄に任せると告げ、領地の指揮を取るために足早に部屋をでた。白髪まじりの髭を弄りながら、残されたヘルマン男爵は溜め息を吐く。
「我が愚息の尻拭いもあるで、わしが行くのが筋というもの。詫びの手土産に、首のひとつも持っていく方が良かろうか」
物騒な発言を聞いたのは、部屋に残されたティーカップのみだった。
顔を突き合わせた貴族達は、それぞれに思惑があった。今のユーグレース王家は人間側の国家として、最大規模を誇る。たとえ王家が腐っていようと、宰相であるへーファーマイアー公爵がしっかり舵取りをしてきた。
お陰で他国との不要な小競り合いを避け、この国は繁栄した。一時期は王家と少数の貴族の横暴で傾いた国庫も、豊かな状態に戻したのはアウグストの手腕だ。
彼に従うと決めた周辺貴族だが、先陣をきる覚悟がなく言葉を濁す。そんな腰の引けた貴族をよそに、眼帯で右目を覆った男が声をあげた。
「我がアルブレヒト辺境伯領は、へーファーマイアー公爵が立ち上げる国家へ参加を希望する」
このユーグレース王国に押し寄せた魔物の大群を、追い返した実績を持つ男だ。人間相手の戦いより、魔物を倒すことに長けた一族だった。それゆえに疎まれ、体良く辺境に押し込まれたアルブレヒト辺境伯家だが、アウグストに恩がある。
ユーグレース国は数年前に、雨が全く降らずに乾いたことがあった。魔物と戦い疲弊した領地は荒れており、立て直す間もなく干魃で文字通り干上がる。
兵は元より、民や家族に与える麦にも枯渇した時、へーファーマイアー公爵領から届いたのは大量の食料だった。自らの領地も雨が降らず、その年の収穫はゼロに近かったはずだ。領地替えをした公爵家の備蓄はそれほど多くない。
届いた食料への礼と返済について尋ねる手紙を送った返事は、驚くべきものだった。
国のために命を懸け、領地を犠牲にしたアルブレヒト辺境伯領の勇敢な民から返済など求めない――ただそれだけを綴った、短い1枚の手紙に涙する。領地の民に食料を配給しながら、公爵家への恩義だけは返さねば死ねないと心に誓った。
真っ先に手をあげたアルブレヒト辺境伯の声に勇気づけられ、幾つもの貴族が続く。うまい具合に、かつて王家と国を食い物にした貴族は南側に集中していた。彼らは公爵家の領地替えに伴い、旨味の多い土地を手にしたのだ。
しかし彼らが搾取した土地は、荒れ果てていた。民は高額の税に疲弊し、逃げ出している。難民として受け入れる周辺の貴族も今回は参加を表明した。
残されたのは南側の貴族と王家のみ。にやりと辺境伯の口元が歪んだ。魔物に抉られた右目の眼帯に触れながら、男は貴族達を見回す。
「我が領地から使者を立てよう。各自、己が領地の防御を固めろ。ユーグレース国は、本日ただいまをもって、敵となった!」
「「「おう」」」
承知したと叫んだ貴族の数人が、慌てて飛び出す。彼らの領地は離れており、戻るのに多少時間がかかる。王家は大義名分を掲げて、公爵領へ侵攻するだろう。おそらく「不敬罪」か「反逆罪」だ。その前にアウグストと連絡を取る必要があった。
「使者ならば、この老体に任せていただけませんかな?」
名乗り出たヘルマン男爵は、鍛え上げた筋肉を鎧のように纏う老人だ。戦士としてみるなら背が低い、しかし周囲を威圧する覇気が彼を数割大きく見せた。
「爺が行ってくれるなら、これ以上の使者はあるまい」
喜び頷くアルブレヒト辺境伯は、かつての師匠であり祖父のような英雄に任せると告げ、領地の指揮を取るために足早に部屋をでた。白髪まじりの髭を弄りながら、残されたヘルマン男爵は溜め息を吐く。
「我が愚息の尻拭いもあるで、わしが行くのが筋というもの。詫びの手土産に、首のひとつも持っていく方が良かろうか」
物騒な発言を聞いたのは、部屋に残されたティーカップのみだった。
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