【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
39 / 238
本編

第36話 魔国の平和の秘密は宰相の手の内

しおりを挟む
 室内の家具や装飾品を苦もなく復元するメフィストは、最後に残った壁の前で足を止めた。ぐさっと刺さった剣は壁にめり込んで抜けない。昨日のアウグストの癇癪で、振り下ろした剣の到達点だった。外壁まで突き抜けた剣を抜かないと、復元魔法がかけられない。どうしたものかと眉を寄せた。

「太刀筋は素晴らしかった」

 命を狙われた本人は、けろりとしている。結界があるとはいえ、無防備に受けるのはやめていただきたい。口を酸っぱくして注意したメフィストは、溜め息をついた。馬耳東風、何度注意しても抜けてしまう主君は、見事な黒髪をぐしゃりとかき乱す。

 昨日散らかした会議室は、入室した際に復元魔法の基礎となる現状維持結界を張った。嫌な予感がしたメフィストの進言だが、今となっては大正解だ。アゼリアの母カサンドラに、満面の笑みで「お片付け、お願いしますわね」と言いつけられたイヴリースは、そのまま部下に丸投げした。

「さすがはメフィストだ。あとは壁だけだな」

 その通りだが、何もしなかったイヴリースの言葉だと思えば、反論のひとつも口をつく。苛立った響きを隠そうとせず、メフィストは主君を働かせるべく言い聞かせた。

「壊れたのは陛下が煽るからでしょう。まったく……大人しくしてくださればいいものを。ほら、この剣を抜くくらいの手伝いはしてください。簡単でしょう? それとも、アウグスト殿の力で貫いた剣は抜けませんか?」

「……どの口が余を貶すのか」

 ムッとした顔で立ち上がり、地面を擦っていた黒髪をかき上げた。引きずりそうなほど長い髪は、彼の種族特性のひとつだ。面倒だとぼやくので切ったことがあるが、翌朝には元通りだった。その後数回チャレンジして、今では切ることを諦めている。

 無造作に剣の柄を引っ張り、不思議そうに首をかしげた。そのままの状態で振り返り、メフィストに尋ねる。

「壁ごと壊してよいか?」

「ああ、やはり抜けませんか。アウグスト殿にお頼みしてみましょう」

「いや待て。何とかする」

 突き刺さったのだから引けば抜けると思った。生き物の肉ではないから収縮して固まることもない。力任せで構わないと考えたのに、びくともしなかった。驚愕したものの「抜けないのか」と言われれば、魔王として後ろに引くことは出来ない。

 壁を壊すと「ずるをした」とメフィストが叱るだろう。どうせ復元魔法で直す壁なのだから問題ないだろうに、文句を並べるメフィストを振り切るのも面倒だ。思い付きで魔力を流して柄を押すと、するりと壁を切り裂いた。豆腐を切るような感覚に目を見開きながら、一気に引き抜く。

「どうだ!」

「さすがイヴリース様でございます。恐れ入りました」

 得意げに胸を反らす魔王へ、宰相はにこにこと褒め称える。精神的に子供な主君を手のひらの上で転がし、メフィストは何かに気づいた様子で顔を上げた。ほぼ同時に感知したイヴリースも眉をひそめ、窓の外へ視線を投げる。

 次の瞬間、メフィストが午前中いっぱい魔力を注いで直し続けた部屋の壁が――勢いよく砕け散った。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど

紗幸
恋愛
社畜女子だったユイは、気づけば異世界に召喚されていた。 慣れない魔法の世界と貴族社会の中で右往左往しながらも、なんとか穏やかに暮らし始めたある日。 なぜか王立魔道士団の団長カイルが、やたらと家に顔を出すようになる。 氷のように冷静で、美しく、周囲の誰もが一目置く男。 そんな彼が、ある日突然ユイの前で言い放った。 「……俺にかけた魅了魔法を解け」 私、そんな魔法かけてないんですけど!? 穏やかなはずの日々に彼の存在が、ユイの心を少しずつ波立たせていく。 まったりとした日常の中に、時折起こる小さな事件。 人との絆、魔法の力、そして胸の奥に芽生え始めた“想い” 異世界で、ユイは少しずつ——この世界で生きる力と、誰かを想う心を知っていく。 ※タイトルのシーンは7話辺りからになります。 ゆったりと話が進みますが、よろしければお付き合いください。 ※カクヨム様にも投稿しています。

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

聖女は友人に任せて、出戻りの私は新しい生活を始めます

あみにあ
恋愛
私の婚約者は第二王子のクリストファー。 腐れ縁で恋愛感情なんてないのに、両親に勝手に決められたの。 お互い納得できなくて、婚約破棄できる方法を探してた。 うんうんと頭を悩ませた結果、 この世界に稀にやってくる異世界の聖女を呼び出す事だった。 聖女がやってくるのは不定期で、こちらから召喚させた例はない。 だけど私は婚約が決まったあの日から探し続けてようやく見つけた。 早速呼び出してみようと聖堂へいったら、なんと私が異世界へ生まれ変わってしまったのだった。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ――――――――――――――――――――――――― ※以前投稿しておりました[聖女の私と異世界の聖女様]の連載版となります。 ※連載版を投稿するにあたり、アルファポリス様の規約に従い、短編は削除しておりますのでご了承下さい。 ※基本21時更新(50話完結)

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

処理中です...