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本編
第41話 執念深い蛇の嫉妬
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「お久しぶりですね、メドゥサ」
山羊の角を持つ魔王の側近は、獣の顔を隠しもせず口元の牙を見せつける。狼に似た鬣をもち、全身が灰色の毛に覆われたメフィストの左手のみ黒く硬い毛だった。
第二形態では控えめに髪から覗いていた角が、今は頭の大きさより長く立派にそびえ立つ。獰猛な獣の縦に割れた瞳孔が、赤黒く光った。背に広げた翼は、鷲など猛禽類に似ている。
普段は見せない第三形態をとったのは、襲撃を仕掛けた女が厄介な存在であると知るためだった。油断する気もないし、主君の命を違えるつもりもない。
「あんたに用はないわ、陛下はどちら?」
背に蝙蝠の羽を生やした白い大蛇――そう呼ぶのが近いだろう。小さな前足があるが、後ろ足はない。ぎらぎらと輝く鱗は銀に近い白で、瞳は黒に近い紫色だった。
孔雀の爪を持つと言われるこの種族は、呪いや毒の扱いに長けている。厄介で扱いづらく嫉妬深いため、魔国の要職につくことはない種族だった。感情ひとつで国や種族を滅ぼそうとする彼女らは、種族の8割が女性という特徴がある。圧倒的に男性が足りないため、他種族の男を誑かして取り込む性質は面倒だった。
「陛下は忙しいのです。何しろ『魔王妃殿下となられる愛しい方』とご一緒ですから」
相手を激昂させると承知で、煽る文言を選ぶ。この蛇女は魔王イヴリースに惚れていた。魔族の女性が彼に言い寄ったり媚を売ると、陰で彼女らを屠っていく。魔王妃候補になった女性達は、全身の骨を砕かれた上で腐食毒により自慢の顔を焼かれた。
美しい髪を持つ女性は頭の位置が分からなくなるほど腐らせ、声の綺麗な女性の喉を粉々に砕いた。魔王妃候補を送り込んだ各種族は、こぞってメドゥサを殺すため探している。それでも魔王が手を下さぬ理由は、簡単だった。
メドゥサの願いは、魔王の妻になること。無理ならば、イヴリースの手で殺されたいと望んだ。魔国中に手配のかかった彼女は放置しても、あと数年の命だった。ならば望み通り殺してやる必要はない。最後まで届かぬ願いに手を伸ばして死ね――それがイヴリースが選んだ罰だった。
くわっと目を剥いて感情を露わに怒りを示す大蛇に、メフィストはタイミングを図った。宰相として魔国の強者に名を連ねる以上、先制攻撃は避けたい。
牙が先か、尻尾か。彼女の出方を待つメフィストは、気づかれないように魔法陣を配置していく。光の角度を調整し、蛇の嗅覚に触れない距離で確実に罠を仕掛けた。
油断する強者が弱者に倒される話ほど、興醒めなものはない。たとえ相手が小さな蟻であっても油断していい理由にはならなかった。
魔力を周囲に散らし、魔法陣の存在をその下に隠した。じわじわと彼女へ魔力を寄せれば、嫌そうに舌打ちして尻尾を振る。空中をしゅるりと滑るように距離を詰めた大蛇の長い舌が、ちらちらと覗いた。シューと威嚇音が響き、予備動作のないバネの動きでメフィストの喉へ牙を突き立てる。
直前でかざした左腕に牙が刺さり、ぐじゅっと嫌な音を立てた。牙から流し込まれた腐食毒が、メフィストの黒い毛に覆われた左腕を襲う。
「っ、ぐ……」
激痛に、メフィストは獣の顔を歪めた。狂気に満ちたメドゥサの笑い声が響く会議室の瓦礫の上に、膝をついた。
山羊の角を持つ魔王の側近は、獣の顔を隠しもせず口元の牙を見せつける。狼に似た鬣をもち、全身が灰色の毛に覆われたメフィストの左手のみ黒く硬い毛だった。
第二形態では控えめに髪から覗いていた角が、今は頭の大きさより長く立派にそびえ立つ。獰猛な獣の縦に割れた瞳孔が、赤黒く光った。背に広げた翼は、鷲など猛禽類に似ている。
普段は見せない第三形態をとったのは、襲撃を仕掛けた女が厄介な存在であると知るためだった。油断する気もないし、主君の命を違えるつもりもない。
「あんたに用はないわ、陛下はどちら?」
背に蝙蝠の羽を生やした白い大蛇――そう呼ぶのが近いだろう。小さな前足があるが、後ろ足はない。ぎらぎらと輝く鱗は銀に近い白で、瞳は黒に近い紫色だった。
孔雀の爪を持つと言われるこの種族は、呪いや毒の扱いに長けている。厄介で扱いづらく嫉妬深いため、魔国の要職につくことはない種族だった。感情ひとつで国や種族を滅ぼそうとする彼女らは、種族の8割が女性という特徴がある。圧倒的に男性が足りないため、他種族の男を誑かして取り込む性質は面倒だった。
「陛下は忙しいのです。何しろ『魔王妃殿下となられる愛しい方』とご一緒ですから」
相手を激昂させると承知で、煽る文言を選ぶ。この蛇女は魔王イヴリースに惚れていた。魔族の女性が彼に言い寄ったり媚を売ると、陰で彼女らを屠っていく。魔王妃候補になった女性達は、全身の骨を砕かれた上で腐食毒により自慢の顔を焼かれた。
美しい髪を持つ女性は頭の位置が分からなくなるほど腐らせ、声の綺麗な女性の喉を粉々に砕いた。魔王妃候補を送り込んだ各種族は、こぞってメドゥサを殺すため探している。それでも魔王が手を下さぬ理由は、簡単だった。
メドゥサの願いは、魔王の妻になること。無理ならば、イヴリースの手で殺されたいと望んだ。魔国中に手配のかかった彼女は放置しても、あと数年の命だった。ならば望み通り殺してやる必要はない。最後まで届かぬ願いに手を伸ばして死ね――それがイヴリースが選んだ罰だった。
くわっと目を剥いて感情を露わに怒りを示す大蛇に、メフィストはタイミングを図った。宰相として魔国の強者に名を連ねる以上、先制攻撃は避けたい。
牙が先か、尻尾か。彼女の出方を待つメフィストは、気づかれないように魔法陣を配置していく。光の角度を調整し、蛇の嗅覚に触れない距離で確実に罠を仕掛けた。
油断する強者が弱者に倒される話ほど、興醒めなものはない。たとえ相手が小さな蟻であっても油断していい理由にはならなかった。
魔力を周囲に散らし、魔法陣の存在をその下に隠した。じわじわと彼女へ魔力を寄せれば、嫌そうに舌打ちして尻尾を振る。空中をしゅるりと滑るように距離を詰めた大蛇の長い舌が、ちらちらと覗いた。シューと威嚇音が響き、予備動作のないバネの動きでメフィストの喉へ牙を突き立てる。
直前でかざした左腕に牙が刺さり、ぐじゅっと嫌な音を立てた。牙から流し込まれた腐食毒が、メフィストの黒い毛に覆われた左腕を襲う。
「っ、ぐ……」
激痛に、メフィストは獣の顔を歪めた。狂気に満ちたメドゥサの笑い声が響く会議室の瓦礫の上に、膝をついた。
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